第3話:闇に堕ちし復讐の契約
それでも王太子殿下は私を護ろうとして下さいました。
最後の最後まで護ろうとして下さいました。
ですが王家の力が衰え、クレーマー侯爵家の力が王家を凌ぎだしているのです。
ルートヴィッヒ侯爵家を乗っ取った事で、正面からクレーマー侯爵に抵抗する家がなくなっていたのです。
どの家も乗っ取られるのは嫌ですし、愛する子供を私のような境遇にしたくはないのです。
最後は、王太子殿下の側近が命懸けで諫言したのです。
私を切り捨てて罠を仕掛けましょうと。
私をクレーマー侯爵やオットーが謀殺した証拠をあげて、二人を処分しましょうと提案したのです。
最初は反対していた王太子殿下も、最後は認められました。
私としては寂しく哀しい事ですが、王太子殿下の御立場ならば仕方ありません、
知勇兼備の殿下が暗殺されるような事になれば、王族は滅ぶことになるでしょう。
そして多くの貴族が潰され乗っ取られるでしょう。
いえ、それだけではすみません。
民が重税と圧政により塗炭の苦しみを味わう事になるのです。
クレーマー侯爵家とルートヴィッヒ侯爵家の領民のように。
最後は民のために見捨てられましたが、私は王太子殿下に心から感謝しています。
王太子殿下の御陰で、時間を得る事ができたのです。
母上の敵を討ち、ルートヴィッヒ侯爵家を取り戻す力を得るための、宝玉のように貴重で大切な時間を、王太子殿下は私に与えて下さったのです。
私は、禁断の方法を使う事にしました。
だからこそ、私は王太子殿下と側近の方々の動向を知っているのです。
邪悪な方法だという事は知っています。
こんな方法を使えば母上様が哀しまれると分かっています。
ですが仕方がなかったのです、幼い私には他に方法などなかったのです。
そう、悪魔の手を取る以外の方法などなかったのです。
「魔王ルシファー、私に力を貸してください」
夜の闇が深まり漆黒の空に星々が点滅する深夜の部屋に、悪魔ルシファーの姿が浮かび上がりました。
その姿は、寂寥とした美しさを宿し、闇の奥から放たれる薄明かりによって幻想的に照らし出されています。
ルシファーは高貴なる天使の面影を残しながらも、堕天した者の証として、闇の力を宿しているのです。
真黒な翼に包まれ、翼端からは微かな赤い輝きが漏れています。
その鋭く尖った瞳は知識の海を湛え、闇の秘密を映し出しています。
長い黒髪が風になびき、その一筋が炎のような赤い色を帯びています。
いえ、実際に地獄の業火に匹敵する熱を持っているのかもしれません。
ルシファーの姿はまさに魅惑そのものであり、一瞬にして人々の心を虜にするだけの魔力を秘めています。
ルシファーの美しさは禁断の果実のようであり、人々はその魅力に抗うことなく、彼に心を委ねていくのだった。
悪魔ルシファーの姿は、漆黒の闇に包まれながらも、その美と謎めいた魅力が光を放つ存在なのです。
そんなルシファーが、私の願いに応えて現れてくれたのです!
「ああ、我が力を貸してやろう。
母親の敵を討ち、家を奪われた恨みを晴らすがいい。
どうやって恨みを晴らしたい、簡単に殺しては面白くなかろう?
時間をかけて恐怖と苦痛と屈辱を与えながら復讐するがいい」
「ありがとう、ルシファー。
それと更に勝手を言わせてもらえるのなら、この手で恨みを晴らさせて欲しいの。
遠くで苦しみ悶え死なれても満足できないの。
この眼で見て、この耳で聞いて、この手で感じたいの。
そうでなければ復讐できたと思えないの」
「いいね、いいね、とてもいいね、その考えはとても悪魔らしい。
我が生贄に相応しい考えだ。
我に魂を捧げてくれるというのだから、助力は惜しまない。
時間はうんざりするほどある、好きな方法で復讐するがいい」
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