第2話:王太子殿下の至誠

 私が今日まで生き延びられたのは偶然ではありません。

 オットーが憐憫の情をかけたのでもありません。

 あの男にそのような人らしい情など一切ないのです。


 あの男にあるのは欲だけです。

 それと、兄であるクレーマー侯爵への恐怖です。

 オットーを形作っているのは恐怖と欲望だけす。


 私を護ってくれていたのは、王太子殿下の婚約者という肩書です。

 王太子殿下の婚約者である私が死ねば、暗殺や謀殺の可能性を考慮して、王家から綿密な調査が入ります。


 クレーマー侯爵が根回しすれば、普通ならば形だけの調査にする事もできたのかもしれません。


 ですが王太子殿下の御言葉が、私を今日まで生き延びさせて下さいました。


「ラウラが死傷したり病になったりしたら、余直々に徹底調査する。

 余の婚約者になった事で、女性が不幸になるなど絶対に我慢ならん!」


 そう王太子殿下が度々口にして下さったのです。

 この御言葉があったからこそ、私を殺す事ができなかったのです。


 ですからクレーマー侯爵とオットーは、仕方なく王太子殿下と私の婚約破棄を画策しました。


 私に関する有りもしない噂を流したのです。


 特に私が家臣を虐待しているとか、身分卑しい者達と姦通しているとか、処刑や追放になるような行状をでっち上げたのです。


 ですが、それも王太子殿下が払拭して下さいました!


「余の婚約者、未来の王妃の座を狙い、奸臣共が噂や罪を捏造していりかもしれぬ。

 そのような奸臣に踊らされるほど貴君らは愚かなのか?

 それとも貴君らがその佞臣なのか?

 ならば余直々に成敗してくれる!

 近衛騎士、徹底的に真偽を調査せよ、余も直々に城下を訪ねて調査する!

 嘘偽りの報告をした者は、この宝剣で成敗してくれる!」


 王太子殿下の御言葉を聞いた廷臣は驚き慌てたそうです。

 特にクレーマー侯爵とオットーの手先となって動いていた者は、顔面蒼白となったそうです。


 もちろんクレーマー侯爵とオットーも驚き慌てたのだと思いますが、彼らはとても慎重に動いていたようです。


 王太子殿下が私を護ろうという言動をして下さっていたので、慎重になっていたのでしょう。


 クレーマー侯爵とオットーはトカゲの尻尾切りをしたようです。

 王太子殿下直々の調査が入る前に、我が家の家臣が偽りの報告をしたという罪で処刑されました。


 幾人かの廷臣が罪を悔いたと遺書を残して自害しました。

 全員クレーマー侯爵とオットーが殺したのだと思います。


 そのような事があったので、クレーマー侯爵とオットーは事前の根回しに時間をかけたようです。


 王太子殿下の信じる廷臣や騎士を、殺したり遠ざけたりする事から始めたのです。

 王太子殿下の耳目や手足を奪い、私を護るような動きをすれば、王太子殿下自身の命を奪うと圧力をかけたのです。

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