18話 最っ高なタイミングだっ!!

――リリ視点――


「リリの嬢ちゃん!」

「はい!」


 団長の声を合図に私は走りだした。

 ここは、不死王がいるとされる城。

 私たち白騎士団は複数の騎士団と協力し、『不死王』の討伐のために動いている。

 そして現在、私は吸血鬼と交戦している。


「雷光一閃」


 雷を纏った刀で、吸血鬼の首を切り落とす。

 そして、トドメに頭の亡くなった胴体の心臓を貫く。

 吸血鬼の弱点、それは聖職者が扱うとされる聖魔法や聖水、心臓、日光だ。

 

「お見事だ。腕を上げたな」

「まだまだですよ」


 あの日見た、ゼロという人物。

 彼は私の目標であり、打ち倒すべき存在と認識した。

 この程度の相手に手こずっているようでは、一生追いつけない。

 

「フット」

「俺には聞くなよ。こんな雑魚に手間取るわけがないだろう」


 後ろでは、斧で吸血鬼の胴体を真っ二つにし、心臓を踏み潰すフット・ボストンの姿があった。

 

「まあ、そうか」

「それにしても部下たちを置いて進んで良かったのか?」

「確かに、あの『不死王』と戦うなら、人手は多い方が…」


 私たちがそう言うと、団長は苦い顔をしながら口を開いた。


「それはダメだ。実際に戦ったことのないお前たちは知らないだろう。『不死王』に何百の騎士がいても、一瞬で血だまりにされる。10年前、当時の団長と俺、そして120以上の騎士を連れて『不死王』と戦ったことがある。まあ、戦ったと言っても団長だけだがな。俺は一撃で致命傷を負ってな、見ることしかできなかった。結果は知ってのとおり、団長と騎士120人の命を失った。奴一人相手にだ」


 団長の話を聞いて、自身の体温が下がるのを感じた。

 彼はラグド王国最強の騎士という称号を持つほどの実力者だ。

 10年前でも天才と言われるほどで、騎士団に入団し、たったの数ヶ月で副団長になるレベルだったらしい。

 その団長ですら、まともに戦うことすらできなかった。


「だが、今は違う。俺は昔より強い。それに、フットもリリの嬢ちゃんも10年前の俺よりも全然強いぞ」

「おい、何10年前のお前と俺を比べてんだ。舐めんなよ」

「はっはっは!それはすまない」


 団長とフットの会話で、場が少し和む。

 

「よし、それじゃあ気持ちを切り替えていこうか」

「はい」

「ああ」


 私たち3人は最奥へ走りだす。

 そこで待っているであろう、『不死王』を討伐するために。


――アハト視点――


「ちっ!前衛は下がれ、俺が前に出る!」


 剣に魔力を籠め、前衛の部隊と交戦していた吸血鬼数体を一瞬にして、切り裂く。

 そして、身動きが制限された胴体の心臓に、的確に剣を刺していく。


「流石です、副団長」

「油断するな。まだ敵は多いぞ」


 俺は剣を構え正面を見る。

 そこには、数百以上の吸血鬼が楽しそうにこちらを見ている。

 

(俺たちは見世物程度の認識なのか?)


 だがこの状況、どう考えても騎士団が不利だ。

 だからこそ、少数精鋭での『不死王』の討伐。それ以外、要は俺たちが手下どもの足止め。なのだが…


(キツイな)


 ただの手下ならば騎士団のみで対処可能だが。相手には厄介なのがいる。


「おいおい、テメーら怠けてんのかぁ?」

「下等生物に殺される前に、俺がテメーらを殺すぞ?」

「言い過ぎよ、底辺は底辺なりに頑張っているでしょう」

「騎士団、この程度ですか?」


 数百を超える吸血鬼の集団の中に、異常な魔力量を誇る吸血鬼が4体。

 四天王と言われ、10年前の戦いの生き残りの吸血鬼である。


「ふぅ、ありゃだめだろねー。どう思う、アハト君」

 

 俺の横に長身で体の細い男騎士が立つ。

 

「ジスか」

「久しぶりだな」


 彼はジス・ストレフ、俺の友人であり疾風騎士団の副団長だ。

 

「それで、本来なら雷光騎士団団長がいないとおかしいこの場にいない理由は?」

「さあねぇ。大方どこかでいらないことしてるんだろう」

「はぁ、内通者は雷光騎士団団長ってことね」

「まあ、今は関係ないな。なにせ、相手方は豪華な四天王様だから」


 俺たちは四天王たちを見る。

 どう考えても戦力が足りない。

 この戦いはほぼ確定で俺たちの負けになるだろう。


「こんなことなら、もっと鍛錬させる時間を作るべきだったな」

「今更だ」


 そう言いながら、剣を構えた瞬間だった。

 

「まったく、実力差ぐらい理解してね」

「本当だ」

「「!?」」


 目の前に謎の人物二人が立っていた。

 音も気配もなく。

 まるで最初から、その場にいたかのように。


「誰だ?」


 俺の放つ声は震えていた。

 これは恐怖なのだろう。本能だけが一瞬にして理解した、この二人と自分との圧倒的実力差。


「誰?そうね…私はエレノア」

「俺はユーリ。お前たちに代わって顔無き者たちノーフェイスが、人間のモノマネが上手なモンスターの相手をしてあげよう」


 そう言ってユーリと名乗った人物は刀を構えた。


「じゃあ私は、雑魚の相手しとくね」


 エレノアはユーリから離れ、雑魚たちに向け剣を突き出した。


(ノーフェイス?聞いたこともない。それにしても、この二人から感じる魔力…異常だ)


 俺は静かに二人を観察していると、ユーリに向かい吸血鬼たちが襲い掛かる。

 結果、一瞬で襲い掛かっていた吸血鬼はほぼ全て同時に切り刻まれた。

 

「おいおい、ありゃ人間か?」

「さあな…でも、吸血鬼を倒してくれてはいる…いるが……」


 彼らが俺たち騎士団の味方であるとも限らない。

 

「こんなものなのか?吸血鬼というのは」

「ふっ、たかが雑魚処理した程度でイキがるなよ?下等生物風情が!」


 大きい体格と、ものすごい筋肉を身に付けた大男の吸血鬼がものすごい速度でユーリの元へ近寄る。

 

「本物の下等生物はお前だな」


 次の瞬間、大男の体には無数の切り傷が出現した。


「なんだ、と…」

「お前たち程度で、俺に接触できるわけないだろ」

「何を――」

「輝剣・散光の撃」


 エレノアの剣が輝き、そこから複数の光線が吸血鬼たちを襲った。

 

「ぐっ」

「がぁ」

「ぎい」


 一瞬で心臓を射抜いていく光、多くの吸血鬼の命を静かに奪っていくその光はまるで……


「『勇者』…」


 昔、この世界にまだ魔王が存在した時代。

 人間側に突如として現れた男。『勇者』マツダ・シゲアキ。

 光を自在に操り、当時の魔族軍10万を『光の雨』で一瞬にして壊滅させた、歴史上最も魔族を殺した男。


「あれ?四天王とやらは?」

「さあ?死んだんじゃないか?」

「あまりにも手ごたえがないわね。これなら、そこにいる騎士さんたちのほうが、楽しめそうだわ」


 エレノアがこちらを見てくる。

 それと同時に、俺たちに緊張が走る。

 目の前にいる四天王を瞬殺した化け物を相手に、自分たちは生き残れるのだろうか。


「エレノア、それはダメだ」

「わかってるっての」

「それじゃ…」


 ユーリが言葉を止める。

 そして、視線を俺たちの後ろへと向け、固まった。

 

「おう、暇だから来てみたが楽しそうじゃないか」

「あなたは…」


 後ろにいたのは、立派な剣を腰に差した白髪白髭の老人、現『剣神』カイン・ケイルだった。


「『剣神』…」

「どうする?」

「もちろん、戦わないね」

「おいおい、そりゃないぜ?少しは遊んでくれてもいいだろ?」

「今回の俺たちの役目は終了した。お前たちと戦う理由はない。行こう、エレノア」


 ユーリがそう言うと、二人は一瞬で姿を消した。


「本当に逃げた?」

「それじゃあ、『不死王』とやらの所まで行くとするか」

「こんな簡単に引くのか?」


 疑問を口にする俺に、カインは笑いながら答えた。


「元々向こうも、俺たちと戦うつもりは無かったんだろう」


 カインはそのまま奥へと歩いて行く。

 俺たちも後を追いたい所だが、団長の指示で不死王との交戦は禁止されている。

 理由は簡単に予想がつく、足手纏いという事だろう。

 悔しいと心の底から思う。

 白騎士団に入団し、努力を続け副団長という地位を得た。

 しかし、それでも団長との実力差は大きい。


「悔しいな」


 俺の呟きは、静かになった周囲に響いた。


「それでも」


 突然、俺の耳に声が届く。


「禁止されているとしても、我らが団長を失うのを黙って見ていろ言うのですか?白騎士団や疾風騎士団の騎士たち」


 声の主の方を見る。

 そこには見たこともない顔の男騎士がいた。


「君、見たことのない顔だね?」

「この作戦の直前に入団しました。それよりも副団長。今、あなたがとるべき最善の選択はこれですか?」


 男騎士は俺に向かって力強く言う。

 

「副団長、行きましょう!少しでも力になれるなら私たちは命を懸けれます」

「そうです副団長!我々に命令を!」

「団長を助けたい気持ちはみな同じです!」


 白騎士団だけでなく疾風騎士たちも声を上げる。

 

「入り口は私たちが守りましょう。あなたたちは存分に団長方の助力を」


 そう言いながら俺の目の前に立った人物は――


「雷光騎士団の副団長…あなたたちの団長は今どこに?」

「それならご心配なく。今より雷光騎士団の団長は私になりました。改めて自己紹介を、雷光騎士団団長ライザ・ミトルナエルです。それと前団長のことは気にしなくていいですよ。今頃、どこかで処分されていると思うので」


 ライザはそう言うと、笑顔で雷光騎士たちを引き連れて陣を構えた。

 

「はぁ…後で騎士団全員は団長からの説教覚悟しようか。白騎士と疾風騎士は俺について来い、団長たちの援護に行くぞ」


 俺は残った騎士たちを率いて、団長のもとへ向かった。

 

――リリ視点――


 私たちの目の前には黒と金を基調とした、巨大な扉があった。


「この奥に奴がいる」

「ああ、この魔力覚えがある」

「リリの嬢ちゃんも準備はできているな?」

「はい」


 私たち3人は覚悟を決めて、同時に扉を開ける。


「ほう、人間がここまで辿り着くとは珍しいな。四天王も全滅か…今回は面白くなりそうだな」


 玉座で足を組みながら座っている男。

 長く黒い髪に深紅に染まった瞳、肌は血の気がまったくなく白い。

 そして、彼の纏う雰囲気は強者そのもの。団長と同じぐらいか、それ以上の。


「10年ぶりだな。『不死王』ヴァンペ・ディモグラフ」

「む?お前もしや、10年前の貧弱なガキか。ほうほう、仇でも討ちにでもやってきたのかな?」


 ヴァンペは煽るような口調で団長に言い放つ。

 

「そうだな。だが、一つお前は勘違いしている」

「勘違い?」

「ああ、今の俺は昔よりも強い。そして、仲間がいる」

「そうか」


 ヴァンペは心底つまらなそうな顔で、立ち上がった。

 それと同時に私たちも剣を抜き、構える。


「さあ、人間。俺を楽しませてみろ」


――アハト視点――


 開かれた扉の先には団長たちと『不死王』がいた。

 今にも戦いそうな雰囲気だ。


「団長!」

「なっ!?なぜここに!」

「よそ見とはいい度胸をしているな」


 団長の意識がこちらに向いた一瞬、不死王は攻撃を開始した。


「危な――」


 団長に危険を知らせるため、大声を出した瞬間だった。


「最っ高なタイミングだっ!」


 その声が聞こえたと同時に、物凄い速度で先程の男騎士が不死王の前に立ち、剣で攻撃を弾いた。

 

「は?」

「何?」


 思わず声を漏らす俺と、驚きを隠せずにいる不死王。

 ヴァンぺはすぐに後退し、男騎士から距離を取る。

 

「何者だ?」

「何者、か…」


 男騎士はそう呟くと、自身の着ている鎧を一瞬にして切り裂く。


「!」


 切り裂かれた鎧の下に着ていたのは漆黒のコート。

 

「俺の名はゼロ」


 ゼロと名乗った瞬間、リリが膨大な魔力を身に纏う。


「お前が…。絶対倒す!ゼロ!!」


 リリが全速力でゼロに突撃する。

 次の瞬間、雷が迸り大規模な爆発が発生した。

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