17話 タイミングを見計らえ
105の部屋は和室だった。
(そういえば昔、
昔のことを思いだし、半分懐かしさに浸ろうとした瞬間、今回の目的を思いだす。
(あ、今はそれよりも…)
俺は和室の奥側にある座布団の元まで移動し、マイに座るように促す。
そして、マイが座ったことを確認し机の上に例のアーティファクトを出した。
「それで、このアーティファクトは何?」
「それは雷魔法『雷閃』を発動できるアーティファクトです」
少しは言い訳が出て来るかと思っていた分、驚かされたがこれはこれで話が進むからありがたい。
「アーティファクトに刻まれた魔法は『雷閃』のみで、即時発動可能であり連射もできると?」
「はい…よくわかりましたね」
「知り合いがそれに似たものを使っているからな(まあ、ノーフェイス内では特殊魔法を使えないメンバーに普及されているし)」
会話が止まる。
マイは下を向いたまま黙り込んでいる。
これは俺が口を開かないと一生喋らなそうだなと思い、質問を再開する。
「アーティファクトの使用条件は?」
「一定の魔力の使用です」
「なぜ、雷魔法なんだ?」
「っ!?」
俺がその理由を訊いた瞬間、マイの肩が一瞬だけ震えた。
そして、彼女の表情は先程よりも暗くなっていく。
「それは…私が雷魔法を使えないからです」
「使えないとまずいのか?」
「サーマルライトは雷魔法を受け継ぐ家です。そんな家に生まれた私が雷魔法を使えないというのは恥でしかありません。私は処分されるべき子でした。それをお父様とお母様が反対し、私をサーマルライト家に残すことにしたんです」
「子供が学校に通うのはあたり前のこの国だ。マイも学校に行かなくてはならない。でも、サーマルライトでありながら雷魔法を使えないと知られればどうなるかは目に見えている。だからサーマルライト家が保有するアーティファクトを使用し、雷魔法を使えるように見せかけたと?」
「なん――」
「そりゃ今まで読んできたラノベの数が…、いや、今のなし。ただの勘だ」
マイが自嘲気味に笑う。
大体の事情は分かった。だが、まだ一つ疑問がある。
「なあ、マイ」
「はい…」
「マイが使えないのは雷魔法というより、魔法すべてじゃないのか?」
「!?」
マイの反応からして、俺の予想は当たったらしい。
彼女は雷魔法が使えないのではない。すべての魔法が使えないのだ。
「そ、そうです。魔力はあるんです。でも魔法の構築がうまくいかなくて、発動すらしない…。いろいろな魔法師の人に見てもらったこともあります。結局誰にも原因は掴めませんでした」
俺はマイの首に手を伸ばした。
「っ!?」
それを見たマイは後ろへ下がる。
「ごっ、ごめんなさい!その、あの…。なんでもしますから…アーティファクトのことは誰にも言わないで…」
彼女は今にも泣きそうな目で俺を見てきた。
(あれ?なんか俺勘違いされてね?)
別に俺は卑しいことをしようとして、彼女の首を触ろうとしたのではない。
ただ少し気になったことがあったから触ろうとしたのだ。
怯えているマイにできるだけ優しく言った。
「何か勘違いしているようだが、俺は別にマイの秘密をバラすつもりはない」
「え?」
「今はただ俺のことを信じてほしい」
俺は真っすぐにマイの目を見て言った。
すると、彼女はこちらを数秒もの間見たあと、「わかりました…」と言って体の力を抜く。
マイの首にそっと手で触れる。
その瞬間、明らかにマイのものではない魔力を感じた。
(これはまた厄介だな…)
俺はマイの首から手を離し、座り直した。
「あ、あの…」
「ごめんなマイ。アーティファクトのことは誰にも言わない。それと、マイの悩みを少しだけ減らせるかもしれない物を今度持ってくる」
「え?なんで?」
「なんでって、友達が困っていたら助けるのが俺の精神だからな」(そんな主人公精神はもってないけど、少しはカッコつけさせてもらおう)
「優しいんだね、レイスト君は」
マイが安心したような顔でそう言う。
異世界金髪美少女たるマイがそんな顔をしてしまうと、破壊力が凄い。
「じゃあ、今日は解散しよう。残念だけど、俺にはマイの悩みを解決できるような力はない。でも、できる限り協力はする」
「うん、ありがとう…レイスト君」
そう言って俺たちは部屋を出て、店の前で解散する。
「じゃあね、レイスト君」
「ああ、また明日」
手を軽く振りながらマイが歩き去る様子を見ていると、近くにライチがきた。
「あの子一人で大丈夫?」
「んー、一応護衛つけておいて」
「わかったわ」
ライチはそう言うと、店の前にいた店員を呼び寄せる。
「彼女を護衛して」
「はい」
店員は短く返事をすると、一瞬にして一般人に変装し、マイを追いかけて行った。
「なにその早着替え…」
「ホライの新しい魔道具のおかげよ。あなたがラダムス王国から回収した神之模倣の形状変化を再現して作られた、
ほう、だから同年代であるはずのライチが大人になっているのか。
ってか、俺も欲しいのだが?
「ちなみに俺の分は?」
「ちゃんとあるわよ」
「いいね。それと神之模倣って名前長いから、黒剣ね。シンプルイズベストってやつ」
「わかったわ」
ある程度訊きたいことは聞けたので、雑談から本題に切り替える。
「それでライチ。少し真面目な話があるんだが…」
「ええ、盗聴対策のできている部屋に移動しましょう」
「助かる」
そう言って俺たちは店の中へと戻る。
ライチが近くにいた店員に「あの部屋を利用するわ」と伝え、奥へと歩く。
それについていくと、何もなかった壁にうっすらと扉が出現した。
「なにそれすごい」
「超高性能な隠蔽装置を使っているの。普通の探知魔法じゃ反応しないようになってる」
中には豪華な机と椅子が設置されて、いかにも裏組織の会議室感がすごかった。
「それじゃあ、本題を聞かせて」
「ああ」
俺たちは椅子に腰かけ話し合いを開始した。
「さっき会ったマイのことは覚えているな?」
「ええ、少し違和感を感じたから覚えているわ」
「やっぱり気づくよな?」
「ええ、かなり大事に隠されているみたいだけど、私たちには通用しないわ」
「マイには呪いがかけられている。しかも、その呪いはマイに直接かけられたものじゃない。おそらく、親のどちらかが持っていた呪いがマイに発動した」
ライチは少し考える素振りを見せる。
「すこしサーマルライト家の調査をしてみるわ」
「ああ、頼んだ。それと、こっちがメインなんだけど。不死王狩りに参加したいと思うんだ」
「不死王狩り…。あなたが行くなら、他の騎士団の出番はないわね」
「他の騎士団?もしかして、近いうちに討伐隊的なものが動くのか?」
「ええ。白騎士団。アーバルテン家の騎士団『疾風騎士団』。サーマルライト家の騎士団『雷光騎士団』が合同で不死王討伐を計画しているらしいわ」
「ほうほう、それでその計画の実行日っていつかわかる?」
「今日の夜ね」
「へ?」
思わず変な声が出てしまった。
「マジ?」
「ええ」
「……。すぐに動かせそうな幹部は?」
「そうね……私以外だと、エレノアとユーリぐらいかしら」
「3人か」
「今すぐ、幹部全員を集めましょう」
「いや、そこまでしなくていい。3人もいれば十分だ」
俺は無意識に笑みを浮かべる。
「ゼロ?何かあった?」
「ん?どうしてだ?」
「いや、珍しく楽しそうな顔してたから」
ライチに指摘された俺は、自身が楽しいという感情を無意識に表に出していることに気づく。
自分でも珍しいと思った。
「まあ、実際楽しみだしな。それじゃ、俺は戻るけど集合できる幹部に声かけといて、集合場所は本拠地で」
「わかったわ」
俺はそう言って部屋から退出し、王都を散策する。
(楽しそう…か)
そう思った瞬間、頭に電撃が走る感覚がすると同時に、俺は思い出したのだ。
前世で、魔力という万能な力を得る前の俺のやりたかったことを。
そのやりたかったこと。それは――
「最強の証明」
そう、誰しもが憧れる最強。
俺も例外なく憧れてしまった。
なぜ、今まで忘れていたのだろうか。
王都の大通りから人気の少ない裏路地に入り、囁くように言った。
「今宵、世界は最強を知る…。フハハハ…」
俺は気味の悪い微笑を浮かべ、裏路地を通り過ぎた。
ライチと別れ数時間後、ノーフェイス本拠地へ顔を出すとライチ、ユーリ、エレノア、カゲの4人がちょうど何かを話している最中だった。
「意外とメンバー揃ったんだな」
「ええ」
俺はカゲを見て素晴らしい案を思いついた。
「カゲは俺の影武者として頑張ってくれ」
「予想はできていた。問題ない」
「流石。カゲがいて助かった。それで、不死王とやらの場所と騎士団の作戦実行時間は?」
ライチは異空間収納から複数枚の紙を取り出し、俺に手渡した。
「ふむ。王都からあまり離れていない場所だな。騎士団の作戦開始が今日の夜ね」
「作戦開始時間に関しては細かい所までは決められてなかったわ。おそらく、内通者を疑っているわね」
どうやら騎士団の方もいろいろと問題を抱えているらしい。
まあ、俺には関係ないが。
「よし、これだけわかれば十分。それじゃ今回、3人にしてもらいたいことの説明をしよう」
――ホルム・ダンベローグ視点――
俺は現在、作戦確認のための会議が終わり白騎士団の待機する場に移動している最中だった。
今回の作戦、『不死王』討伐には3つの騎士団が協力する。
「団長」
「おお、リリの嬢ちゃんか。どうした?」
「例の件ですが…」
「ああ、あれのことは内密にな。内通者の可能性を考えているなんて他の騎士団に知られれば、ロクに不死王討伐なんてできやしないからな」
「わかっています」
リリは顔を下げ、腰に差した刀に手を添える。
「大丈夫。リリの嬢ちゃんが緊張する必要はないさ。10年前の決着は俺がつける」
「おいおい、ホルム。俺じゃなくて俺たちだろ?」
後ろから俺の友人である、フット・ボストンが肩を叩いてきた。
「そうだったな。というかお前、今までどこいたんだ?」
「ちょっと怪しいやつの尾行をな。途中、ヤバそうな奴のせいで見失ったけど」
「そうか。腕は鈍ってないだろうな?」
「当たり前だ。10年前の悪夢を今日終わらせよう。これ以上、あの化け物を放置するのは世界の破滅を早める行為と同じだ」
「ああ、わかっているさ」
10年前、『屍』という殺人グループが王都を襲おうとした。
幸運なことに当時、『屍』の王都襲撃作戦の情報が騎士団の手に渡り、早めの対策ができていたのだが、戦いの結果『屍』は大半を失い解散、騎士団は多数の精鋭と、当時の白騎士団団長を失った。
「もう、誰も俺の目の前では死なせない」
――ゼロ視点――
「うーん、どのタイミングがいいか…」
現在、俺は上空より騎士団が不死王のいるとされる城に攻めている様子を眺めている。
「この勝負、このままだと騎士団が負けるでしょうね」
「そうか」
「あなたは戦わないの?」
「まだかな」
俺は完璧なタイミングでこの戦いに参加したいのだ。
「じゃあ、ユーリとエレノアは騎士団側の支援を頼んだ。ちなみにボスには手出し不要ね。部下は全員連れてっていいよ」
「わかったわ」
「わかった」
二人は軽く返事をすると、部下とともに姿を消した。
残ったのはライチのみ。
「ってか、ライチはどうするの?」
「私はこの戦いを傍観している厄介者を潰してくるわ」
「そうか」
そう言ってライチも姿を消した。
正直、ライチは何言ってるのかわからなかったけど。
(やばい、凄く楽しみだ。早く来い、最高の瞬間)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます