16話 クラス内トーナメント

 観戦組の生徒たちの中に紛れ込む前に、ヒリア先生の元へ移動し棄権することを伝える。

 

「先生、一回戦で限界突破したんで棄権します」

「それは残念、どうしても次の対戦は出て欲しかったのだけど」

「それはどういうことですか?」

「それは言えない。でも、あなたなら変えることができるような気がするから」


 先生に2回戦を棄権するとだけ伝えに来たのだが、珍しく真面目な顔で意味深なことを言われた。

 本来ならスルーするのが最善なのだろうが、人間の好奇心というものは恐ろしいものだ。


「はぁ、わかりました。次の相手は誰ですか?」

「トーナメント表を見てないの?」

「2回戦にでるつもりなかったので、相手見てないです」

「マイ・サーマルライトよ」


 まさかマイが次の相手だったのは予想外…でもなかった。

 この先生なら、そのぐらいの相手を俺にぶつけてくることは予想できていたから。

 でも、なぜ先生はマイと戦ってほしいのだろうか?

 

「あ、レイスト君」


 ほかのクラスメイトの戦いを見ながら考えていると、マイが俺に話かけてきた。


「ああ、マイ」

「勝てばレイスト君とぶつかるね。正直、レイスト君には勝てる気がしないな」


 マイは笑いながら言った。

 その笑顔は確実に作られたもので、その奥には不安が見える。

 彼女はあのサーマルライト家の人間だ。戦闘能力に関してはこの学校内でもトップのはず。

 その証拠に魔力量だけでならば、姉のリリ・サーマルライトを軽く凌ぐほどある。

 それなのに、なぜ不安を感じているのだろうか?

 気づけば俺はマイに訊いていた。


「なあ、マイ何か悩み事でもあるのか?」


 彼女の体の一瞬の震えを見逃さなかった。

 やはり何か隠し事があるようだ。


「いや、ないよ…。お互い頑張ろうね」


 マイは逃げるようにどこかへ行ってしまった。 

 彼女が悩みを隠すなら、俺はそれを詮索しないほうがいいだろう。

 おとなしく観客に紛れ、マイの戦闘を見る。

 

「それじゃあ、開始!」


 ヒリア先生の開始の合図で、マイが魔法を構築…しない?

 マイは開始と同時に魔法の構築をせずに即座に放つ。


雷閃ライトニング

「えっ?」


 相手の生徒は、マイの放った雷閃を前に動くことができなかった。

 そこに先生の魔法障壁が出現し、雷閃を防御した。


「はい、マイちゃんの勝利ですね」

「速っ」

「初めてマイの魔法を見たら、皆同じことを言うわ」


 後ろからカルナとリリシアが近づいてきた。

 

「まあ、あの速度で魔法を放ってきたらな」

「私も彼女には勝てたことがない」

「え?カルナでもあの一撃で?」

「そうね。まだ一度しか戦ったことがないけど、彼女の魔法は超高速で威力もある。少し言い方が悪いかもしれないけど、化け物ね」


 カルナの化け物という言葉を聞いて、俺は思考を巡らせる。


(化け物は少し言い過ぎな気がするけど、この学校の生徒の平均的なレベルを考えれば確かに化け物の領域だろう。だが、違和感があるな)


 この世界の魔法師は例外なく、魔法を使用する際の構築作業を省略することができない。

 俺ですら省略はできていない。ただ構築を1秒以下でしているだけだ。

 しかし、魔法の構築をせずに発動する方法はある。

 その方法の一つが、古代魔道具アーティファクトの使用だ。

 

(さあ、マイはどっちかな?)


 


 遂に俺の二回戦が始まる。

 出てきたマイの表情はやはり硬い。

 ヒリア先生は俺とマイを交互に見て、開始を宣言する。


「二回戦第一試合、レイスト・フィルフィートVSマイ・サーマルライト。開始!」


 だんだんと楽しくなってきていたのか、開始の宣言をより本格化してきた。

 そんな先生を軽く無視し、マイの出方を観察する。


「ライトニング」


 今までの試合と同じく、いきなり魔法を放ってくる。

 

(ふむ、この速度。この学校の生徒の大半が反応できない理由がよくわかる。少し試すか)

 

 大げさに横に飛び雷閃を回避し、軽く『ファイアランス』を放ってみる。

 魔法師同士の戦闘では、魔法攻撃は魔法で防御するのが常識だ。

 マイは魔法を使わずに、走って回避した。

 明らかに魔法を使わない立ち回りをしている。


(これは確定だな)


 俺は確信した。

 彼女……マイは古代魔道具アーティファクトを使っている。

 

雷閃ライトニング


 マイの放った雷閃が俺の足を掠めた。


「!?」

「ライトニング」


 容赦のない連続攻撃。

 だが、その連続攻撃のおかげで魔法の発動源を感知することができた。

 

(とりあえず無視はできないな)


 ライトニングを回避した後、俺は地面に向かって風魔法を全力で叩きこむ。

 周囲に砂ぼこりが舞ったその瞬間、俺はマイの持っているアーティファクトを盗む。

 そして、マイの耳元でこう言った。


「アーティファクトのことで話がある。後で時間を作ってくれ」

「っ!?ライトニング!!」


 彼女の放った雷閃で周囲の砂埃が消滅した。

 

「降参。魔力が尽きた」

「ほう、あれだけの魔法で魔力切れ…か?」

「平凡な一般生徒なので」


 ヒリア先生が何か言いたげな感じで見てくるが、無視し俺は歩き出す。

 マイは一言も発さず、ただ俺の方を見ていた。


 ヒリア先生の一言から始まった試合の優勝者は、ラグス・ウォーグレーという男の子だった。 

 準優勝はリリシア・アーバルテン、おっさん戦で出会った少女の一人だ。

 まあ、俺も試合を見ていたが、決勝のラグスVSリリシアの戦いはレベルが高かった。

 子供同士の戦いを見ているとは思えないほどだ。

 で、試合終了後は解散し、そのまま帰宅ということになった。

 だが俺とマイからすると、ここからが本番だ。

 歩いて校門前へ行く。そして、そこで待っている両親に伝える。


「父さん、母さん。俺、少しやらないといけないことがあるから、まだ帰れない」

「ふむ…。別にやることがあるのはいいんだが、俺たちはむぐっ!」


 父さんの口を塞いだ母さんが、笑顔で訊いてくる。


「レート。正直に答えなさい。あなたの言うやることは、一人でやるの?それともお友達とやるの?」

「あー、友達だよ」

「男友達?それとも女友達?どっち?」

「えーっと…」


 とても答えずらい。 

 ここで女友達と答えたら、入学早々、息子が女子をお持ち帰りしようとしているようにしか思われない。

 だから、俺は嘘を吐くことにした。

 両親には申し訳ないが、これだけは俺も変えられない。


「男友達だよ」

「レート?お母さんは正直に答えてって言ったのよ?」

「すいません。女の子です(なぜバレた!?)」


 母さんは一瞬考える素振りを見せる。


「うーん。その子の名前は?」

「マイ・サーマルライトって子」

「は!?サーマルライトだと!?レイストそれうぐっ!!」


 サーマルライトの名前を聞いた父さんが、驚きのあまり大声をあげた。その大声を上げた父さんの腹に一発、母さんの拳が入り、父さんはダウンした。

 

「レイスト。今日私たちはヒリア先生の家に泊めてもらうわ。用事が終わったらこれで連絡してね」


 そう言って母さんがスマホのような物を渡してくる。

 こちらの世界はスマホみたいな形をした機械が流行しているのか?


「これは?」

「連絡用の機械よ。使い方はわかる?」

「多分わかると思う」


 いろいろと前世のスマホと共通点があった。電源ボタンの位置やら、ホームボタンなどなど。

 だが、ゲームとかはできない。そもそもゲームなどこの世界に存在しないのだ。この機械に入っているアプリは、連絡用のアプリと地図だった。

 地図の方を確認したけどGPSはなく、ただ世界地図が表示されているだけだ。


「それじゃあ、気を付けて行ってくるのよ」

「ありがとう母さん」


 そう言って校舎へ戻り、1ー2の教室の前まで移動した。

 一回深呼吸をしてから、ゆっくりと扉を開ける。

 中には1人、THE異世界金髪美少女、マイ・サーマルライトがいる。


「なあ」


 俺はマイに声をかける。


「は、はい」


 彼女の声は少し震えていた。どうやら俺を警戒しているらしい。

 まあそれもそうか。


「ここじゃ話づらいだろ。移動しようか」

「うん…」


 マイは文句を言う事なく俺についてくる。


(んー、静かで盗み聞きされなさそうな場所ってあるかな?個室のあるカフェとか…)


 俺たち二人は学校を抜け、どこか話せる場所を探した。

 

「なあ、マイ」

「はい…」

「もしかして王都って意外と何もない?」

「店とかはかなりあるほうですよ」


 確かに店の数は多い。しかし、店といってもほぼ武器屋、防具屋、魔道具屋、小道具屋…いかにも異世界にありそうな店しかない。

 俺はその場に膝をつき、心の中でこう叫ぶ。


(この世界の人間は全員戦闘狂か?娯楽を作れよ!娯楽を!楽しみを戦闘以外に見いだせよ!)


「ゼ…レイスト?」


 突然、名前を呼ばれた。それも聞き覚えのある声に。

 視線を上げて俺を呼んだ人物を見る。

 ピンクボブとアメシストのように綺麗な瞳が特徴的な人物は、俺の知る限り1人しかいない。


「え?ライチ?」


 なんとライチがいた。しかも、大人になっている。

 なぜ大人状態になっているのか訊きたかったが、マイがいる以上その質問はできない。 

 後で本人に訊いてみるとして、今は当たり障りのない会話をしよう。


「なんで王都に?」

「少し用事があったのよ」


 ライチの視線が俺からマイへと移る。

 そして、マイに近づき挨拶をした。


「初めまして、私はライチと申します。レイストのことをこれからよろしくお願いします」

「マイ・サーマルライトです。私の方こそよろしくお願いします」

「レイストにこんなに早く彼女ができるなんて、予想外」

「おい待てライチ。マイは彼女じゃないぞ?」


 何か勘違いをしているライチに、俺はなぜ彼女を連れて王都を歩き回っているのかを説明した。

 

「なんだ、そういうことなら私に言ってくれれば良かったのに」

「ん?良い場所があるのか?」

「ええ、今日私が王都に来た理由は商売関係のことよ。個室付きのカフェも今日開店したわ」

「ナイスタイミングだ。ライチ案内を頼めるか?」

「いいわよ」


 俺とマイはライチに案内され、カフェへと向かった。

 



「ここよ」


 目の前には立派な建物があった。

 何も見た目だけが立派じゃなく、壁をよく見てみると魔法がいくつか付与されていた。

 

「すご…」


 俺がそうつぶやくと、ライチが耳元で言った。


「ここはノーフェイスの仮拠点にしようと思っているの。だからある程度は頑丈にしているのよ」


 意外と俺が作った組織は世界に広がっているらしい。

 

「さあ、中に入りましょう」


 3人で店に入ると店員さんが「いらっしゃいませ」と声をかけてくる。


(うわー、この世界でいらっしゃませとか初めて聞いたわ。しかも、こいつらノーフェイスのメンバーだよな?みんな大人になってるんだが?)


 ライチが店員の元に行き、何か小声で話している。

 そして、店員が店の奥へ行くとライチはこちらに戻ってきた。


「個室の部屋が一室開いているわ。それからこれがその部屋のカギだから」


 ライチから105と書かれた鍵を渡された。


(え?鍵付きなの?カフェだよな?)


 疑問に思いつつも、俺とマイは部屋へ移動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る