15話 ラッキーボーイを演じたい!

 気づけば教室の前まで来ていた。 

 俺は覚悟を決め、目前の扉を勢いよく開けた。

 中には女子だけではなく、男子も複数人存在し、その全員が俺を見てくる。

 

「あ、覗き魔くんだ」


 教室の中央にいた女子がこちらを見て言った。

 確かこの魔力は、俺が拘束されていた時に助けてくれた女子二人のうちの一人の魔力だ。

 しかし、除き魔とは人聞きの悪い。

 

「除き魔って…」

「ごめんごめん、冗談だよ。レイストくんだよね?」

「あれ?名前教えたか?」

「ほら、黒板に貼ってあるプリント」


 黒板に貼ってあるプリントに目を向けると、俺の名前だけ手書きで書かれていた。

 

「私はマイ・サーマルライト。気軽にマイって呼んでね」

「ああ」


 俺は改めて彼女の容姿を確認した。


(金髪と琥珀色の目をした美少女…。いや、この子おっさんと戦った時にいた子じゃん。それにサーマルライトって…この短期間に何回か聞いた覚えがあるぞ)


 驚きが思わず表情に出そうになったため、真顔を維持することに全神経を集中させた。


「ねぇ」


 後ろから突然声をかけられる。

 振り返るとそこには、少し気まずそうにしたカルナが立っていた。


「ああ、カルナさん」

「さんはいらないわ。さっきはごめんなさい。確認もせずにあなたが悪いと決めつけてしまったわ」

「いや、俺もちゃんとヒリア先生を警戒しておくべきだった」


 カルナもヒリア先生にいろいろと苦労させられている人のため、気が合いそうだ。


「私はリリシアです」


 カルナとマイの間に入り、静かに自己紹介をするリリシアを見て、妹を連想する。


「リリシア…」

「私の名前変だった?」

「いいや、妹の名前に似ていたから。俺の妹はリシアって言うんだ」

「へぇ、妹さんはこの学校に来るの?」

「さぁ、まあでもシアは魔法の才能があるから、来るかも?」


 その後、マイ、カルナ、リリシアの3人で雑談をした。




「みんな、そろそろ入学式を開始します。私に付いてきてください」


 教室にヒリア先生がやってきて、俺たちを誘導する。

 辿り着いた先は、体育館のような場所だった。

 中は保護者と在校生で埋め尽くされている。かなりの人数だ。

 俺たちが配置されている椅子に座ると同時に、司会の人が入学式の開始を宣言した。

 

「えー、これより魔法師育成学校の入学式を開始します」


 そこから先は校長先生やらの長い話が続く。まあ、もちろん俺は半分も聞いていない。

 前世で真面目に校長先生の話を聞いたのは小学校の時だけだったなぁ、などと思いながら目を閉じる。

 あと数十秒で眠れそうだ。

 

「それでは、現生徒会長のリリ・サーマルライトさん。お願いします」


 生徒会長の名前を聞いた瞬間、校長の話で到来していた睡魔が吹き飛んだ。

 なぜならその名前は、以前俺を倒そうとしてきた女騎士さんの名前と同じだからだ。

 ステージにリリ・サーマルライトが立った。

 マイと同じ金髪と碧眼の美少女。


(以前より魔力量が増えているし、歩き方からして剣の腕もかなり上がったな。まあ、彼女の才能かな?)


 女騎士さんの成長に感心していると、スピーカーから凛々しい声が聞こえてくる。


「みなさん。この度は御入学おめでとうございます。私は本校の4年生、そして生徒会会長を務めています。リリ・サーマルライトです」


 彼女は4年生、ならば今の年齢は16歳ぐらいだろう。

 俺が戦ったのが、2年前だからあの時の女騎士さんはだいたい14歳だったのか。

 

「それでは、新入生のクラス担任の発表をします。まずは1年1組、担任はダリス・ザクリア先生。1年2組、担任はヒリア・ハイル先生。1年3組…」


(なんだと!?)


 俺は2組の担任がヒリア・ハイルと聞いた瞬間、心の中で叫ぶ。

 周囲……主に、2組の女子を見る。すると、俺と同様驚いている生徒もいれば、嫌そうな顔をしている女子もいた。

 まあ、今朝の事件のことがあるから、しょうがないな。

 朝から2組の教室に来ていた時点で嫌な予感はしていたが見事的中。

 これからの学校生活が不安でしょうがない。




「はぁ、校長の話長かったな」

「ああ、そうだな」


 教室に戻ると男子の一部が、校長の話の長さの不満を口にする。

 

「あれがリリ様か」

「初めて見たけど、すごく綺麗な人ね」

「ねぇ、マイのお姉ちゃんなんでしょ。すごいね」

「あはは…」


 一方女子の方は、生徒会長のリリ・サーマルライトの話ばかりしていた。

 だが、なぜだろう。マイは姉であるリリ・サーマルライトの名前を訊くと少し表情が硬くなっている。

 まあ、この教室でその変化に気づいているのは俺ともう一人ぐらいだろうが。

 賑やかな教室に、問題ありまくりな人間が入ってくる。


「みんな、このクラスの担任のヒリア・ハイルです。よろしくね」


 男子は盛り上がる。それもそうだ。ヒリア先生は何もしなければ、明るい美人だ。

 でもその性格を知れば、悪戯好きの性悪女としか思えない。


「じゃあ、席について」


 ヒリア先生の声を聞いた生徒たちは席に座っていく。

 先生は全員が着席したことを確認すると、手をたたく。


「はい、みんなは4年間このクラスのままです。だから、仲良くしていきましょう。仲良くする上で自己紹介って大事ですよね?でも、自己紹介よりももっと仲良くなれる良い方法があります」


 俺は初めてヒリア先生に会った時を思い出し、この先どうなるか大方理解した。


「全員、魔法練習場へ行きましょう!」


 ヒリア先生は満面の笑みでそう言った。




 ってなわけで1年2組は魔法練習場へ来ていた。

 目を疑いそうになるレベルですごい場所だ。

 東京ドームみたいに広く、屋根の開閉もできる。しかも、幾つもの魔法が仕込まれてある、想像以上にすごい。

 すごすぎて語彙力が低下している俺の耳に、先生の声が届いた。


「じゃあ、みんな。感動しているところ悪いんだけど、試合をするわよ。もちろんトーナメント方式で」


 ヒリア先生は楽しそうに手に持った紙を広げた。

 その紙には1年2組全20人の名前がトーナメントに振り分けられていた。


(俺の最初の相手はカルナ…え?カルナが相手なの?まあ、関係ないか。一回戦で手を抜いて終わらせよう)


 どうやって手を抜こうかなと考えていると、ヒリア先生と目が合った。

 次の瞬間、ヒリア先生が笑顔になる。


「そうだ、罰ゲームを追加します。トーナメントで1回戦敗北者は大量の課題を出しましょう」

「「「「えぇー!」」」」


 ヒリア先生の突然の罰ゲーム追加に生徒の大半が不満げな声を上げた。

 

(これが目的か!何か嫌な予感がしたんだ。あのトーナメントを作ったのは先生、そしてカリナを俺にぶつけたのはわざと。そこまでして俺の実力を広めたいのか!?)


 俺が先生を睨んでいると、カルナがこちらに近づいてきた。

 

「レイスト。私不器用だから手加減は出来ないわよ」


 いきなり怖いことを言ってきた。

 カルナは俺にそれだけを伝えたかったらしく、すぐにどこかへ歩き去る。


(投降できたらどれだけいいことか…)


 大きなため息を吐く。

 俺の中の嫌いなものは課題>目立つなのだ。

 残念な事だがカルナには全力で勝つ。もちろん地味であり、奇跡的と思われるように努力して。


「それでは、1回戦を開始しまーす」


 ヒリア先生が楽しそうに1回戦の開始を宣言した。

 そして、その記念すべき一回戦目は俺VSカルナだ。

 マイ達から聞いた話によると、カルナは魔法の英才教育を受けているらしい。

 小さいころから魔法を扱う能力に長け、10歳にして中級魔法の使用に成功しているという。

 正直言って、俺は魔法の上級やら中級やらの区別なんてついていないから、凄いことかどうかはわからない。

 だが、マイの話し方からしてすごい事なのだろう。


「それじゃ、お互い準備はいいわね?」

「「はい」」

「それでは、始め!」

「フレアバースト!」


 カルナは開始と同時に火魔法を放ってきた。

 広範囲を爆発させる魔法をいきなり使ってくるとは、手加減できないんじゃなくて殺しに来てない?と疑問に思ってしまう。

 初撃はギリギリを装い回避。

 もちろん戦場では、敵は待ってくれない。

 

「ウインドフレア」


 お次は火魔法と風魔法の複合。やはり殺しに来ている気しかしない。

 ま、残念ながら俺は負けることも目立つことも嫌なので、早めにこの勝負を終わらせる。

 俺はカルナから距離をとる。すると、彼女は距離をつめるため一歩を踏み出したが躓き、バランスを崩した。


「っ!?」


 もちろん躓いたのは偶然ではない。

 カルナの魔法の射程を考え、行動を誘導し、密かに土魔法で仕掛けたトラップに引っ掛けた。

 しかし、流石英才教育といったところか、彼女は焦りの色すら見せずに体勢を整えようと動く。

 その隙に走り出す。

 彼女はそんな俺を見ながら、魔法の構築を始めた。


(おいおい、体勢を崩された状態から冷静に魔法を構築って、12歳のする事じゃないだろ)


 あともう少しの所まで近づくと、カルナの魔法が完成し、火魔法が放たれる。


「フレイムランス」


 放たれた直後、火の槍の軌道を大幅にずらし、全く関係のない方向へ飛ばさせる。


「っ!?ズレた」

「俺の勝ちだな」


 カルナの首元に風魔法を構築した右手を近づける。

 

「はぁ、私もまだまだね…」


 カルナはため息を吐く。

 その瞬間、魔法練習場がざわついた。


「嘘だろ。火の神童が負けた?」

「まあでも戦いからして、あのレイストとかいうやつ、運が良かっただけだな」

「そうだな。魔法の構築速度も人並み以下、威力も平均程度。カルナがバランスを崩したり、最後の火魔法を焦ってミスしなかったら、普通に負けてるだろうな」


 クラスメイト達の反応はなかなか良いものだった。

 これで、俺のお役目は終了だ。あとは棄権して、観戦組の仲間にでもなるとしよう。

 俺の一回戦は何事もなく、計画通りに終わった。

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