14話 初日から危うい学校生活

 ライチからの長い質問攻めから解放されたのは、約1時間後だった。

 解放と同時に俺のもとへホライがやってきた。


「ゼロ来たよ」

「ああ、ホライ。実は頼みたいことがあってな。これが何か分かるか?」


 そう言って俺は、ホライに魔法をアシストする機械を投げ渡した。

 ホライはその機械を色々な角度から見たりし、3秒で視線を外した。


「これはガラクタ…無価値なもの」

「なぜそう思う?」


 一応ホライの意見も聞いておきたい。


「これは基本属性しかアシストできない。それに構築速度も慣れればこの機械無しの方が早いし、微調整ができない」

「ほうほう」


 流石ホライ。一瞬で使ってもいない機械の欠点を見つけ出した。


「で、ホライ。この機械に特殊魔法のアシストをさせることは可能か?」


 俺の言葉に少し考える素振りを見せるホライ。


(彼女で無理なら俺も無理だ。機械とかあまり詳しくないし)


 ホライは真剣な顔で俺を見てきた。


「ゼロ。それは絶対無いといけない物?」

「んー。まあ、絶対じゃ無いかな。出来ないなら諦めるし」

「まあ作れるには作れると思う」

「流石ホライ」

「でも、空間魔法のアシストは難しいかもしれない」

「おっけー、じゃあ頼んだよ。俺はそろそろ戻らないとだから、出来上がったら教えてくれ」


 そう言って俺は空間転移の魔法の構築を開始した。


「ねえ、ゼロ」


 突然、ホライが声をかけてくる。


「ん?どうした?」

「その、さっきのこと…」

「さっき…あー、ごめん。これから空間転移は慎重にする」

「うん……」


 俺は空間転移を使用し、家から少し離れた場所に転移する。

 時刻は午前1時。静かに自室に戻り、ベットに飛び込んだ。


「はぁ…やばい、なんか眠気がないぞ」

 



「レート?起きなさい」

「んぅ、あと1時間は…」

「遅れるわよ、入学式に」


 結局、あれから一睡もすることができなかった。

 ただでさえ朝に弱い俺も、今日はいつもの倍以上朝に弱くなっている。

 意識がはっきりとしない状態で、朝食などを済ませる。


「そろそろ迎えがくる時間ね」

「じゃあ、外に出ましょうか」


 入学式には母さんたちも出席するらしく、初めて家族全員で遠出する。

 俺たちが外に出ると、目の前には車が停めてあった。


「え?車?」

「すごい…」

 

 俺の反応が意外だったのか、父さんが訊いてくる。


「あれ?レートには車を見せたことがあったか?」

「いいや、初めて見た」


 正確に言えば、この世界で車を見たことはおそらくある。

 ラダムスの王都でそれっぽいものを見たような気がする。その時は、興味がなくあまり詳しくは見なかったが、あれは車だった可能性が高い。

 王都に近い場所は意外と近代的なのだろう。

 車の中に全員が乗る。


「これが車か…」

「快適」


 父さんとリシアが外を見ながら言った。

 俺も外を眺める。前世では当たり前のように車に乗っていたはずなのに、違和感が凄かった。

 

「車はこのあたりでは珍しいでしょうね。現在は、王都とその周辺の町あたりまでにしか普及ができていないから」


 そんな会話をしながら、王都ラグドへ向かった。

 

 

 

「ついたわね」


 ヒリア先生がそう言った直後、車は停車した。

 運転手の人が車の扉を開けてくれたので、お礼を言って降りる。

 

「わぁー」

「すごいな…」

「そうね、ここにレートが…」

 

 父さんと母さんは品定めするような目で、リシアは目を輝かせながら学校を見ていた。

 俺も内心、驚いている。

 日本にいたころに興味本位で調べた、日本一広い高校と同じぐらいの規模の学校が異世界にあるのは予想外だった。


「それじゃあ、保護者の入場はもう少し後なのでレイスト君だけ中に入れますね」

「はい」

「私も入ってみたい…」

「ごめんね、リシアちゃんはここの生徒じゃないから入れないの」


 ヒリア先生はゆっくりとリシアの耳元まで顔を寄せる。

 その瞬間、俺は聴力を強化する。

 

「でも、この学校に入学すればいつでも入れるわよ?」


 笑顔で妹を勧誘しだす先生に、心の中で「えげつねぇ」と言った。

 そもそもこの学校、超一流で入学できる可能性も低いのにそのセリフ…いや、でもリシアなら可能性は全然ある。

 魔法で遊んでいる最中、時々だったが魔法の才能を感じた。


「それじゃあ、レイスト君。行くわよ」


 ヒリア先生について行き、学校に入る。

 学校内部は清掃をしっかりとしているのか、綺麗だった。


「掃除をちゃんとしているんですね」

「掃除はあまりしないわよ」

「え?それなのにこんなに綺麗なんですか?」

「魔法を使ってるのよ」


 その言葉で俺は納得した。

 確かに、この世界の魔法はとても便利だ。前世に魔法があったら清掃業は存在しなかっただろう。

 

「さあ、ここがあなたのクラス」


 扉の上に1-2と書かれたクラス札があった。


「じゃあ、私は仕事があるから。もし、困ったことがあったりしたら職員室に来て私の名前を出せばいいわ」


 そう言い残して、ヒリア先生は去っていった。

 一人残された俺は扉を見つめる。

 女子の比率が多いのか、教室からは女子の話声が多く聞こえる。

 俺は拳を握り覚悟を決め、教室の扉を思い切り開く。


「「「え?」」」

「あ…」


 教室内にいたのは下着姿の女子たちだった。

 俺が開けた扉の近くにいた女子たち3人が声をあげ、その声に反応したほかの女子たちが俺を見てくる。


(あ、これ…二回目だな)


 俺がそう思ったと同時に、悲鳴が校舎内に響いた。


――ヒリア視点――


「ふう今日から忙しくなりそうね」


 私はレイスト君をクラスの前まで送った後、職員室へ向かう。

 職員室の扉を開け、自身の席へ移動する。

 その途中、同僚から話しかけられた。

 

「よう、やっと帰ってきたか。珍しいな、お前が生徒を引っ張ってくるなんて」


 オールバックの青い髪が特徴の男で、名前はライガ・ウオータル。

 もう数十年は一緒に働いている。所謂、腐れ縁というものだ。

 

「引っ張るだけの価値はあるって感じたからね」


 ライガはそれを聞いて少し驚いた。


「へぇ、そこまでか…。で、その手に持ってるのはなんだ?」


 ライガは私が手に持っている紙を指さしながら言った。

 

「ああ、これは」


 私はそういいながら、ライガに紙を見せた。

 紙に書いてある文字を読んだのか、ライガが私に呆れたような視線を送ってくる。


「お前、またやったのか?」

「失礼な。私は彼に青春の思い出を作ってあげたの」

「はぁ…」


 ライガのため息と同時に「キャァ!」という悲鳴のようなものが聞こえてきた。

 私はそれを聞いて思わず笑ってしまう。


「あはははは、大成功かな」


 私が手に持っていた紙はもともとレイスト君のクラスの扉に貼られていたものだ。

 ちょうどレイスト君がクラス札を見ていた時に、こっそりと紙を剥がした。

 その紙には『女子更衣中、男子立ち入り禁止!』と書かれていた。


 


 「それで、なんで無言で入ってきたのかな?」


 俺は現在、目隠しと手足を拘束された状態で椅子に座っている。

 逃げるのは簡単だったのだが、後のことを考えると面倒だったので、おとなしく捕まる道を選んだ。

 そして、このクラスのリーダー的な女子に、今尋問されている。

 この状況、どう答えるのが正解なのか俺には分からない。分からないからこそ、ネタに走るのも一興なのでは?という結論に至った。

 ゆっくりと顔をあげ、イケボで言った。

 

「まあ、新たなる境地を目指して…、的な?」

「燃やすわよ」


 ガチで燃やされそうな予感がしたため、即座に真面目に答える。


「無言も何も、せめて更衣中って分かるようにしてないのも問題なのでは?」

「嘘をつかないで」

「え?」

「教室の扉の前に紙が貼っていたはずです」

「紙なんてなかったはずだぞ」


 俺は一生懸命に思い出そうとするがそんな記憶はどこにもない。


「あれ?カルナ?何をしているの?」


 教室の入り口の方から、女子の声が聞こえた。

 探知魔法で確認すると、二人の女子が入り口付近に立っている。

 その二人からは覚えのある魔力を感じた。


「いや、この男子が私たちが更衣中の教室に入ってきたのよ」

「ふーん、更衣中ってわかるようにしてた?」

「してたわよ、扉の前に紙が貼っているでしょう?」

「何も貼ってないわよ?」

「え?いや、貼ってあるはずです」


 俺を問い詰めていたカルナと呼ばれた女子が、教室の入り口へと行った。

 そして、扉を見て考える仕草する。


「もしかして…」


 そう言ってカリナは俺の目の前へと移動してきた。

 

「あなたは一人でこの教室に来たの?」

「いいや、ヒリア先生と一緒にきたけど…」

「そう。拘束を解いてあげて」


 そう言うとカルナは近くにあった椅子に座り、ため息をついた。

 その様子が気になった俺は訊いてみた。


「何かマズかったか?」

「ヒリア先生は悪戯好きなの…」

「え?」

「私は過去にヒリア先生を家庭教師として雇っていたの。その時に何度も悪戯されて…」


 どうやら彼女の苦しい記憶に触れてしまったようだ。

 それは置いといて、犯人が分かれば取る行動は一つ。

 真っ直ぐ職員室へ移動し、そこそこ強くノックして扉を開けた。

 すると、室内にいた教師らしき人物全員の視線を浴びる。


「君は…」

「ヒリア先生に用事があってきました」


 職員室全体に響くように言う。

 すると、奥の方でヒリア先生が俺に手を振っているのが見えた。

 俺は「失礼します」と言い、ヒリア先生の元へ向かう。


「先生、困ったことがあったので来ました」

「それは何かな?」

「言わなくても分かると思いますが」

「楽しかった?」

「全然楽しくなかったです。最悪、俺の学校生活が終わってました」


 先生は俺の話を楽しそうに聞いていた。 

 この後も笑顔を崩さないヒリア先生に負け、俺は職員室を後にした。

 

(はぁ、前世にもいたよ。人の話を全く聞かない教師。あれは話すだけ無駄なタイプだ)


 心の中で先生に対して色々と言い、少しは落ち着きを取り戻したが問題はまだある。


(どんな顔で教室に入れば良いんだ?)


 これから教室に戻らなければならないと考えると、頭痛がしてきた。

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