2章 この世界でしたい事

13話 どこの世界にも裏口あり

 明日はついに学校の入学式。に、なるかもしれない日。

 俺にとっては地獄としか言いようがないが、うちの両親はそうではない。


「ついに明日から学校か。頑張っていくぞ!」

「そうね。お友達を家に連れてくるのが楽しみね」

(頑張りたくもないし、友達ができるかわからん)


 入学前日の親バカテンションはなかなかクるところがある。

 流石の俺もこの状況では入学を拒否したいとは言えず、不安に押しつぶされそうになっていた。

 ふと、俺の脳裏に疑問がよぎる。

 

「仮に入学が確定したとして、俺はどこの学校に通うの?」


 学校の話はかなり前からしていたが、詳細な情報は一切聞いていない。

 正直、家からあまり離れてないと都合がいい。


「あら、言ってなかったかしら?」

「入学するのはラグド王国にある超一流の学校だ。なんでも教育方法も最先端だとか。結構評判がいいぞ」


 父さんが言った超一流という単語が脳内に響く。


(ん?超一流?待て待て。場所が意外と近いのはいいが、超一流ってなんだ?ホントに。そんな学校って普通に試験的なものない?あるよな?俺何もやってないのだが?)


 その超一流の学校に、どうやって入学できるのだろうか?


「父さん。そんなすごい学校に簡単に入れるものなの?」

「本来なら無理だな。だが、裏口があるんだよ」


 父さんがニヤリと悪い笑みをしたと同時だった。


「すいません。フィルフィートさんのお宅ですか?」


 突然、女性の声が聞こえた。


「はーい」


 父さんが返事をしながら玄関の方へ向かう。

 それに俺と母さんもついていく。

 玄関にいた女性は、長く綺麗な紫の髪が印象的で、魔力総量もそこそこある人だった。


(この人…意外と強くないか?)


 そんな感想を抱きながら女性を見る。


「わざわざご足労頂きありがとうございます」

「良いですよ。旧友からの頼みなんですから」


 そう言って女性は母さんの方を向いた。

 どうやら、この人とうちの母さんは旧友の関係らしい。

 今まで母さんの友人とか聞いたことなかったから、いないのかと思ってたが、意外とそうではないらしい。


「それで、この子がレイスト君?」

「そうよ」

「ふーん、パッと見じゃわからないわね。確かこの近くには練習場があったよね?」

「ええ」

「そこで、レイスト君の才能を見ましょう」


 女性の口から出た言葉に、思わず俺は「え?」と声を漏らす。


(え?この人俺の才能を見に来たの?え?ドユコト?)


 思考を巡らせていると、父さんが女性の方に近づき小声で話す。

 俺は魔力を調整し、聴覚を上げて父さんたちの話を聞く。


「もし魔法の才能があった場合、学校の入学の件よろしくお願いします」

「ええ、もちろん。私たちの学校は実力主義ですから」


 どうやら俺に魔法の才能があった場合、学校に入学できるらしい。

 ここでわざと魔法の才能がないように振る舞うのは簡単だ。

 だが、これだけ両親が俺のためにいろいろやってくれているのを、水の泡にしてもいいのだろうか?

 俺の導き出した結論は…


(学校に入学できる程度に頑張ってやる)




 ラール村にある小さな練習場。

 そこを今だけ貸し切りで使わせてもらっている。

 

「さあ、私に実力を示してください」

「あのー…お姉さん」

「私の名前はヒリア・ハイルと言います。気軽にヒリア先生でいいですよ」

「あっ、はい。ヒリア先生。なんで俺に杖を向けているんですか?」


 ヒリア先生は一瞬、俺が何を言っているのか理解できなかったのか固まった。

 

(まさかこの人…脳筋タイプ?)

 

 でも、実際に戦えば能力は測りやすい。

 そこらへんも考えられているなら、この先生は優秀なのかもしれない。


「うーん、なんとなくだけどレイスト君から強者特有のオーラを感じるのよね。だからついでに戦ってみたいなーって思って」


 内心ドキリとした。

 この人は少し危険かもしれない。本気で実力を隠さなければ、おそらく即バレする。


「わかりました。ただしお願いがあります」

「ん?お願い?それは何かな?」


 正直に言おう。最近俺は手加減が苦手になっているのだ。

 いろいろな魔法の習得に力を入れると自然と魔力の総量は増し、様々な武器を使いこなしカッコいい戦闘をしてみたいという自身の欲のために頑張っていたら、全武器を達人級に使えるようになっていたりと、日がたつにつれ手加減ができない体になってきている。

 そして、今日の裏口入学のことなんて事前に聞いていない、イコール手加減の練習なんてしていない。と、いうことになる。

 いっそバレるなら制限があり、少し不便なものだと思わせておいた方がいい。

 だから即座に一つ必殺を作り出した。


「今から見ることは、俺と先生だけの秘密ってことにしてくれませんか?」

「いいわよ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、始めましょう」


 ヒリア先生の声とともに、俺は魔法の構築を開始する。


「最初からすごい魔法を使おうとするのね。でも、先生は意外と厳しいから待たないわよ」


 そう言って先生は、氷魔法『氷結槍フロストランス』を使う。

 さすが先生をしているだけはある。一瞬で俺の使おうとした魔法のレベルを見抜いてきた。

 まあ、属性まではわかっていないだろうが。

 俺は先生が使用したフロストランスを見る。

 魔力量からしてかなり手を抜いているのがわかる。当たったとしても最下級の治癒魔法でも治るレベルだろう。だがしかし。そんな攻撃でもちゃんと避けないといけない。

 なぜなら俺はな子供なのだから。

 少し大げさにフロストランスを回避する。

 

「へぇ…意外と体は動くようね」

「運動は毎日してるんで」


 魔法の構築が完了した。

 

(威力、範囲とかの微調整は完了っと)


 俺は右手を先生の方へ向ける。

 その瞬間、右手の周囲に複数の魔法陣が浮かび上がる。

 そして右手を思い切り握る。


「掌握」

「!?」


 ヒリア先生が驚きの表情を見せる。

 それもそのはず、今の彼女は動けない。

 俺が約2秒で編み出した新作の空間魔法『掌握』。

 『掌握』は空間固定の応用だ。ただ固定する対象を空間のみから指定範囲のすべてに変更した。

 対策はいくらでも存在するため、強者相手には通用しない。


「これは…空間魔法。想定以上だわ…」


 ヒリア先生はそう呟きながら、掌握を破り首を鳴らす。

 あんたゴリラかよというツッコミを抑え、驚いた表情を作る。

 最初からヒリア先生が空間魔法をある程度使えることは把握済みなので、『掌握』を破ることも予想していた。

 

「っと、いけないスイッチが入っちゃうとこだった。レイスト君、合格よ」

「良いんですか?」

「良いに決まってるわ。その年齢で空間魔法…それも中級クラスが使えるなら、不合格って方がありえない」


 合格を貰えた俺はその後、しばらく先生と雑談をした。俺の能力の制限(嘘)のこともちゃんと伝えた。

 これで俺の評価は、ちょうど良い感じなっただろう。

 ヒリア先生と話し、気づけば数時間が過ぎていた。


「もうこんな時間ね。家に戻りましょうか。久しぶりに友達の家に泊まることができるから楽しみだわ」

「はい…え?今なんて?」


 


「ただいま」

「お!帰ってきたな。どうだった?」


 家に帰るとすぐに父さんが出迎えてくる。


「合格と言わせてきた」


 それを聞いた父さんは嬉しそうにする。


「それはよかった。なあ!」

「ええ、それは張り切って料理を作った甲斐があったわ」


 奥から出てきた母さんも嬉しそうにしている。

 第二の両親だとしても、2人が嬉しそうにしていれば俺も嬉しい。

 晩御飯は豪華で、リシアが目を輝かせながら料理を見ていた。

 今日一日中、ヒリア先生を警戒し2階から降りてこなかったリシアだが、豪華な料理には勝てなかったらしい。

 その後は、5人でご飯を食べて一日を終える…はずだった。

 夜、俺の部屋にノックの音が響いた。


「レイスト君、少しいいですか?」


 扉の向こうから聞こえてきたのは、ヒリア先生の声。

 

「いいですよ」


 そう返事をすると、扉を開けてヒリア先生が入ってきた。

 その手にはスマホのようなものを持っている。


「レイスト君」

「はい、なんでしょう」

「明日からの学校生活で、欠かせないものを渡しておきます」


 そう言って先生は手に持つ魔道具を俺に渡してくる。

 スマホみたいな形をしているが、電源ボタンも何もない。


「それはね、魔法をアシストしてくれる機械なの」

「なん…だと…」

「あら?随分な驚きようね」


 俺はこの世界の文明を舐めていた。

 ここが田舎だから機械とかが少ないだけで、都会に行けばそこそこの機械があるのかも知れない。

 今まで近場の町に顔を出した時も、そういう細かい部分は見れてなかったからなんとも言えない。

 

「それで、アシストとはどの程度アシストしてくれるんですか?」

「そうね…魔法の構築から展開までやってくれるわ。もちろん基本属性だけね」

「それでも便利ですね」

「初心者の子には便利なものだわ。でも、ある程度魔法ができる人が使うと、逆に威力が下がったりする欠点があるの」


 まあ、アシストなんてそんなものだろう。

 

「なんでこの魔法をアシストする機械を俺に?」

「それはね、授業とかで使うからよ。あなたには必要ないかもしれないけど」


 俺は機械を見る。

 これが基本属性の魔法のアシストをしてくれるのか、という感想を抱きながら機械を観察していると、素晴らしいことを思いついた。




 その日の深夜、全員が寝静まったタイミングを見計らい、俺はベットから起き上がり家を出た。

 向かう先はノーフェイス本拠地。

 魔法のアシストをする機械は、基本魔法のみアシストすると先生が言っていた。

 もしかすると、ホライなら特殊魔法のアシストができる物に改造してくれるかもしれない。

 探知魔法ですでに場所はわかっている。近くに幹部数人がいるが会議中なのだろうか?と思いつつも空間転移を開始した。

 よく場所を確認せずに転移した俺は、転移直後にやらかしたことに気づく。


「あ……」

「!?」

「え?」

「へ?」


 転移した場所にいたのは一糸纏わぬホライ、ニィラ、エレノアの3人だった。

 俺はアウトな部分を目に焼き付ける前に、即座に脳をフル回転し、空間転移を超高速で構築してライチのいる部屋へ移動した。

 普通に過去最速で魔法を構築できた気がする。


「ねぇ、ゼロ」

「はい」


 ライチは静かに俺を見てくる。

 その眼には感情はない。それが今の状況では余計に怖い。


「少し、話しましょうか」


 ライチのいつもより冷たく感じる声と視線に、俺は従う事しかできなかった。


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