10話 燃え盛る炎
――ライチ視点――
ゼロと別れた後、すぐに目標地点へ移動し行動を開始する。
「さあ、エレノア。思う存分爆発させなさい」
私の指示でエレノアは神晶樹の剣を構える。
すると、剣は光を纏い、数秒後には眩い光がエレノアを覆う。
「輝剣・降光の撃」
彼女の言葉と同時に、天から光が降り注がれる。
光は地面と接触した瞬間、大爆発を起こした。
その光景を見たリルムが感嘆の声を漏らす。
「すごい…」
「リルムは見るのは初めてだったわね。これが『輝剣』エレノアよ。攻撃範囲と規模なら、幹部一ね」
光の大爆発が起きた後の場所は、建物の残骸のみが残っていた。
それを見たリルムが不思議そうにライチに訊く。
「ゼロはできるだけ人は殺すなって言ってなかった?」
「大丈夫よ、この周辺に人はいない。そこはカゲが動いてくれていたわ」
そんなことを話していると、遠くから騎士たちの声が聞こえた。
おそらく爆発が起きたため、急いで騎士団が調査に来ているのだろう。
(想定していたよりもこの国の騎士たちの行動が早い)
私は刀を手に持ち、全員に言った。
「さあ、出迎えが来たわよ。あなたたち、半殺しまでなら許可するわ」
――ゼロ視点――
遠くで爆発音が聞こえたと思ったら、王城の中から大勢の騎士らしき人間が出てきた。
「全員!王城の警備は彼らに任せろ。すでに別働隊が現場に向かっている!我々も爆発した場所へ急ぐぞ!」
隊長らしき人物が、大勢の騎士に指示している。
あの程度なら、ノーフェイスの非戦闘員でも余裕で勝てそうだ。
(でも…なんか行動が速い気がするんだよな…)
俺たちが騎士たちの様子を静かに見ていると、王城の中から魔力の多い人間が3人、姿を現した。
一人は赤い鎧を身にまとった大男でモーニングスターらしき武器を所持している。
その少し後ろには、二人の男女がいる。二人とも髪型と顔、着ている服、短剣、すべてがほぼ似ている。
「あの2人は、少しだけ厄介ですね…」
ユーリが冷静に分析をした。
まあ、その意見に俺は賛成だ。
アニメなどで出てくる双子の敵キャラは、多くが厄介だから。(偏見)
「そうね…私たちなら余裕かもしれないけど…ニィラたちには厳しいかもしれない…」
ソルミナもユーリと似たような反応だった。
三人は騎士団の隊長らしき人物と何かを話し、爆発の発生地点のほうへ移動していった。
(まあ、ライチがいるし向こうは大丈夫だろう)
そして、誰もいなくなった王城の入り口の前に立った瞬間。
「ん?なんだ貴様ら」
王城からちょうど出てきた騎士らしき人物二人と遭遇した。
「まさかお前ら王城へ侵入しようとしてんの?」
「それはバカだわ!」
騎士二人が笑うと、俺の後ろから物凄い殺気を感じた。
振り向くと、ソルミナとユーリが今にも武器を手に取ろうしていた。
「二人とも少し落ち着け」
二人を止めてから、騎士二人に話しかけた。
「バカと言ったな?なぜバカか教えてもらおう」
「は?お前なんにも知らねぇのな」
「今はな、このラダムス王国に1級冒険者の『業火』、『白翼』、『風雷』の3人が来ているんだぞ?それに白騎士団も来ている。そんな状況で攻めてくるは、バカ以外何者でもねぇだろ?」
「そうか」
聞きたい情報が聞けたので、即座に二人の騎士の頭を掴み地面に叩きつけ、気絶させる。
「行くぞ」
そして、何事もなかったかのように、俺たちは王城の中へ入って行った。
――ライチ視点――
「リルム頑張ってるなぁ~」
爆発地点にやってきた騎士たちを軽く倒していくリルムの姿を見ていたニィラが言った。
「リルム強くなったわね。それにしてもラダムス王国の騎士は質が低い」
「そうだな」
ライチの発言に、カゲが同意した。
「仕事が無くて私は少し安心かも?」
ニィラの呟きが気になったので、訊いてみる。
「どうして?」
「だって、私は戦闘系で選ばれた幹部じゃないから…その…足手まといになると思うし…」
「そんなことはないわよ。あなたも十分に強い」
「おい、出番が来たぞ」
カゲの言葉で、私とニィラはすぐにカゲの視線の先を見る。
「そうね……」
私たちの視線の先では、赤い鎧を着た大男がこちらに向かってきていた。
そして途中で移動を中止し、何かを構える動作に入った。
(あれは…)
次の瞬間、赤い鎧の大男はモーニングスターをリルムへ向かって投げた。
その時のリルムは騎士を一掃し一息ついていた。
高速でリルムへ向かうモーニングスター、彼女は直前までモーニングスターに気づくことができなかった。
だが、結果としてモーニングスターは外れることになる。
「?」
リルムはモーニングスターが体に触れる0.5秒前に気づき、即座に回避したのだ。
「ほう、素晴らしい反応速度だ」
ゆっくりとリルムの方へ近寄っていく赤い鎧を着た大男は、手を叩きながら彼女を称賛する。
そんな大男を見たリルムは無言で、武器を構える。
(リルムは機動力に特化している。おそらく赤い鎧の男では勝てないでしょうね。だったら…)
私はリルムの後ろに立ち、こう伝える。
「リルム、引きなさい。ここはニィラが戦うわ」
「ニィラが?」
リルムは不思議そうに、ニィラを見た。
「ええ、ニィラあとは頼むわよ」
「…え!?私!?」
私はそう言い残し、リルムを連れ離れた場所へ移動した。
――ニィラ視点――
「こんな可愛らしい子供を残してどこかに行くとは、お前もかわいそうだな。リーダーの無能さが伝わるぞ」
大男が笑いながら言った言葉で、私の中の何かが切れた音がした。
「ねぇ…、今、なんて言ったの?」
「ん?お前たちのリーダーが無能だと言ったんだ」
私は輪刀を取り出し、構える。
私たちのことを馬鹿にするなら良い。しかし、私たちを救い、居場所を作ってくれたゼロを馬鹿にするのは、絶対に許せない。
大男は私の構えた輪刀を見てくる。
「変な武器を使うものだな。だが、お前が抵抗して俺を止められるとでも思っているのか?」
大男はモーニングスターを手に持ち、その場で振り回し始める。
振り回されるモーニングスターはやがて炎に包まれ、周囲の気温が上昇する。
それと同時に理解する。
なぜこの赤い鎧の大男の相手にリルムより私を選んだのか。
「ふふっ、止めるだなんてかわいい言葉で表現したくないよ」
「口だけは達者だな。その見た目で何を言っても恐怖は感じんよ」
「そう…、見た目と強さは別物だって教えてあげる」
私はその場で舞う。
「戦場は子供の遊び場じゃないぞ」
大男がモーニングスターをこちらに振りかざそうとしたとき、私は攻撃を仕掛ける。
「一の舞 水刃花」
私の周囲に水の花が生成され、ものすごい速度で回転を始める。
数秒後には大男へ向かって水の花が放たれた。
大男はその花を破壊しようと、モーニングスターを振るった。
しかし、モーニングスターが当たる直前に、水の花が回避するかのように軌道を変えたのだ。
「一つ一つに意思があるみたいな動きだと…」
その後、水の花は大男の鎧に複数回ぶつかり、消滅していった。
一見地味な攻撃だったが、威力はかなりある。その証拠に、大男の鎧には所々破損が見られた。
「ちっ!俺の目も衰えたものだ。まさか、こんな子供にここまでの力があることを見抜けなかったのだからな。だが、ここからは油断はしない。全力でお前を排除する」
男がそう言うと、鎧が炎を纏う。
「燃え尽きろ」
先ほどよりも勢いのある炎を纏ったモーニングスターの攻撃を、輪刀で弾く。
大男は攻撃の手を休めず、何度も攻めてくる。
私も水の花を生成し、攻防を繰り返す。
激しい攻防が続けば続くほど実力差がハッキリと分かる。
「くっ!」
大男が苦し気な声を出しながら後退する。
それもそのはず、私は水の花のおかげで手数が大男より圧倒的に多い。
流石の大男も私の手数の多さに対応できなかったらしい。
これは互角ではなく一方的だ。
「まだだ!フレイムバースト」
私の手前で、爆発が起きる。
その瞬間、大男が私との距離を詰め、モーニングスターを振りかざす。
「終わりだ!」
炎の柱が出現し、衝撃波が発生する。
「まずは一人撃破か…」
大男は勝利を確信し、その場を後にしようとした時だった。
「誰を倒したのかな?」
私の声を聞いた大男は咄嗟にこちらを振り向く。
それと同時に私の蹴りが大男の首に直撃し、倒れた。
数秒待って男が起き上がらないことを確認した私の元に、ライチが空間転移でやってくる。
「よくやったわね、ニィラ」
「むー」
「あら?何か納得いかないことでもあったの?」
「ライチ知ってたでしょ?」
「何のことかしら?」
「とぼけないで、この男の人偽物でしょ?」
――ゼロ視点――
俺たちは王城の中を堂々と進んでいる最中だ。
なぜに堂々と?と疑問に思う方もいるだろう。その理由は、全然人がいないからだ。
本当に不自然なぐらい人がいない。過疎国家だっけ?と思ってしまうぐらい。
「ゼロ。もしかして、この国はもう崩壊している可能性はないですか?」
後ろにいたユーリが疑問を隠せずに訊いてきた。
俺はその疑問に答えようとしたが、探知魔法に気になる反応がしたため、意識がそちらに向ける。
「ああ、そういうこと…」
俺が一人で納得していると、ソルミナが俺を呼ぶ。
「ねぇ、ゼロ?」
「ん?」
「何か気づいたの?」
「ふっ、実はn」
突然、俺の目の前スレスレを鉄球のようなものが通り過ぎた。
一瞬、何事かと思ったがすぐに状況を理解する。
「これ、罠だ」
俺たちは鉄球の飛んできた方向を見る。
そこには赤い鎧を着た大男がいた。先ほど王城から出て行ったはずの大男が。
「もっと丁寧に偽物を作るべきだったな」
「ほう?まさかすぐに見破られるとはな」
「一瞬でわかるだろ」
「まあいいさ。俺がすることは最初から変わることはない。ここでお前たちを消す」
大男はモーニングスターを構え、俺たちを見てくる。
(正直、戦うの面倒なんだよな…)
そんなことを考えていると、横に立っていたユーリとソルミナが目に留まった。
(あ、今日幹部いんじゃん)
ここは実力を見せてみろ的な流れで、この大男の相手を幹部に押し付けることにした。
「俺は弱いものいじめは趣味じゃない。後は任せる」
そう言って俺は、平然と大男の横を通り過ぎようとした。
「なんだと?」
大男は俺に向かって、モーニングスターを振り下ろす。が、それをユーリが刀で受け止める。
「残念ながら、あなたの相手は俺たちだ」
「そうよ、早めに投降するのがおすすめ」
その光景を見た俺は、心の中でユーリに感謝した。
(ありがとうユーリ。お前のおかげで無事、めんどくさい戦闘を回避できた)
大男は歩き去っていく俺の背中を見て、舌打ちしながら幹部たちに言い放つ。
「ちっ、まあいいだろう。あいつの元へ首だけになったお前たちを連れて行ってやる」
正直、ユーリとソルミナがいる時点で、負けるってことはないだろう。
言い返すのすら面倒だったので、歩みを止めず進んで行った。
ユーリ達に大男の相手を任せたあと、俺はまっすぐに通路を進んでいた。
だが、いつまで歩いても武器の保管されている場所には辿り着かない。
(これ、同じ場所を回っているな。魔力が感じられないということは、この王城の設計か?)
おそらく特定のルートで行かないと、武器の保管されている場所には行けないパターンだ。
だったら、どうする?とこの通路の攻略を考える。
そして1つの結論に辿り着く。
その結論とは、『道は自分で作る』だ。
俺は右手に魔力を流し、思いきりに壁を殴った。
殴った壁に開いた穴の先には、別の通路が見えた。
「ややこしい造りしてるんだなぁ」
俺は穴を通り抜け、本物らしきルートを進んで行った。
――ユーリ視点――
「ユーリ!行くよ!」
「わかった」
俺とソルミナはそれぞれ左右に展開し、大男へ向かって突撃する。
そんな俺たちに対し、大男は炎に包まれたモーニングスターを大きく振り回してくる。
威力は高いが、速度が少し遅い。
モーニングスターを最小限の動作で回避した後、ソルミナと同時に大男との距離を詰め、息を合わせて攻撃する。
「ハッ!」
「シッ!」
俺の刀とソルミナの巨大な鎌が大男に触れそうになった瞬間、男は鎧に炎を纏い加速する。
「フレアアクセル」
いきなりの超加速に俺もソルミナも一瞬、対応が遅れてしまい、大男に距離をとられてしまった。
「ユーリ!」
ソルミナに呼ばれた瞬間、俺は大男へ向かい走りだす。
彼女とは長い付き合いだからその言葉だけで、自分がどう立ち回れば良いのか理解した。
ソルミナは俺は走り出すのを確認すると、魔法の構築を始めた。
そして俺は大男の背後をとり、刀を振り下ろす。が、刀は見事に回避された。
「才能はあるが、経験値が足りないな」
大男がモーニングスターを手放し、空いた手に炎の斧が出現させた。
「本当は、斧が得意でな」
大男のその言葉に俺はニヤける。
「そうか、じゃあ残念だな」
「なぜだ?」
「だって、お前はその得意な斧使いを見せられずに負けるんだから」
次の瞬間、ソルミナの頭上に大きな炎の塊と無数の炎の武器が出現した。
「なんという魔力量…」
大男はソルミナの魔法を見て、感嘆の声を漏らす。
驚いた人間の隙はつきやすい。
大男から少し離れた位置に移動した俺は、ソルミナに言った。
「殺さない程度にな」
「そんな大規模な攻撃が俺に当たるとでも思っているのか?」
「まあ、普通なら当たらないだろうさ」
俺はそう言いながら刀を納刀すると、大男は無数の斬撃に襲われた。
「ぐっ」
その様子を見たソルミナは感心する。
「相変わらずすごいわね。その技なんて言ったっけ?」
「瞬閃・空式」
ソルミナが一歩前に出た。
「私も負けてられないわね」
巨大な炎の塊と炎の武器が、一斉に大男に向かって飛んでいく。
「ぐっ!負けてたまるかぁ!」
大男は斧を振りまわし、魔法を切り裂いていく。
だが、さすがに数が多かったため、完全に防ぎきることはできなかった。
「がぁっ」
炎の槍が大男に命中し爆発するが、大男はその爆発に耐え、立っている。
「粘るな」
「そうね」
「お前たち小童どもに負けてたるがぁっ!」
突如響いた銃声、それと同時に大男の叫びが止まり、倒れていく。
「31式魔導狙撃銃、透明化マント。いい性能…」
何もない空間からマントを着用し、狙撃銃を背負ったホライが現れた。
「ナイスホライ」
「透明化マントって…。というか殺してないわよね?」
「大丈夫、使った弾は殺すようじゃない。でも、結構キツイと思う…」
「…それ本当に大丈夫なの?」
「まあ、ゼロから言われたことは完了したし。俺たちも例の武器が保管されている場所に行こう」
俺たち3人は倒れた大男を放置し、通路を進んでいった。
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