11話 ラダムス王城破壊事件
――ゼロ視点――
「うわー、これはすごいな」
壁を破り本物のルートを進んだ先にあったのは、大量の武器が保管されている部屋だった。
まあ、部屋と言っても軽く博物館級の広さはある。
(魔力探知で部屋全体を調べたけど、特に良いものはないな)
部屋の所々に魔剣の反応や呪いの武器の反応はあるが、俺の欲しい武器ではない。
(多分だけど、本当に大事な物は別の場所に保管しているんだろうな)
俺がそう考える理由は、この部屋に置いてある物にある。
どれも一般人からすればかなりいい武器ばかりだ。ライチから聞いた話によると、魔剣の値段は、貴族でもないかぎり手が届かないぐらい高価らしい。
この部屋にある魔剣は確かに価値は高そうだが、性能が低すぎる。
魔剣にも性能の差がある。ここにあるのは、ほぼ一般武器に魔法が付与された程度のもの。
多分、ここはその程度の武器しかない。
再び探知魔法を展開し、周囲の調べる。しかし、反応はない。
探知魔法は一見、便利な魔法に見えるがそうでもない。探知魔法が反応するのは魔力を持つ個体や物体のみだ。魔力を持たないものは探知できない。
ゲームのミニマップで例えると、道や障害物が表示されず、敵の位置のみが表示される感じだ。
ちなみに探知魔法の改良は挑戦している。が、もう少し時間がかかる。
探知魔法もほぼ役に立たない状況、どこをどう探せばいいのかと思考を巡らせていると、妙な感覚がする足場を見つけた。
「なんだこれ?まるで下に何もな…い……。そういうことね」
刀を抜き、床をキレイに切った。
すると、地下深くへと続く螺旋階段を発見した。
「ベタだな」
かなり大きい螺旋階段で、中央には何もない。そこから下りれば目的地に着くまでの時間の大幅な短縮になりそうだ。
即断即決で螺旋階段の中央から飛び降りる。
10秒後には地面へ着地した。
目の前にあるのは大きな扉。その扉は豪華な装飾がされており、いかにも宝を隠している部屋の扉感がすごい。
ゆっくりと扉を開ける。
「やっぱり、来るんだな…」
扉を開けた先には、どこか見覚えのあるような黄色の髪をした一人の男が立っていた。
「はぁ、『業火』と『白翼』との連絡が途絶えたから相当な奴が来るとは予想していたが…化け物」
男はそう言うと、風魔法と雷魔法を同時に構築し始めた。
(いや、いきなりですか。最近の冒険者とやらは血気盛んだね)
そんな感想を抱いていると、男は言葉を続ける。
「まあ、お前がどれだけ圧倒的な力を持っていたとしても、俺は逃げない。『風雷』として、そしてサーマルライト家の者として、お前をここで止める」
男は剣を手に取り、剣先を俺へと向ける。
「『風雷』ラゴス・サーマルライト。仕事を開始する」
――ライチ視点――
私はニィラを連れ、リルムとの合流場所へ移動する。
「ニィラ!すごかったね!」
「え?あ、ありがとう!」
リルムが興奮気味にニィラに近づく。
いつもと違うリルムの反応に戸惑いを隠せないニィラは、私に助けを求めるような視線を送ってくる。
その視線を微笑みながら受け流し、現在の状況を整理する。
(カゲには『白翼』の対応を任せたから安心だけど、ニィラが倒した『業火』が気になるわね。私たちの前に現れたのは偽物。だったら…今、本物はどこに……)
『業火』について考えていると、カゲが戻ってきた。
「『白翼』は片付いた」
「そう、流石ね」
「「……ん?」」
カゲと私の短い会話。その会話を聞いたリルムとニィラは理解できないと言いたげな顔でこちらを見てくる。
「どうしたの二人して」
私が二人に訊くと、二人とも呆れたような目をしながら言った。
「いや、普通に話してたけど『白翼』を倒したの?相手は一級冒険者。カゲが対応に向かってまだ数分なんだけど…」
「倒した。それだけだ」
「……そういうもの?」
「そういうものだ。それと、先程白騎士団を発見した」
「白騎士団、特に気にするほどの存在じゃないわね。作戦に変更は出ないわ。……ゼロのほうはうまくいっているかしら?」
私は王城の方へ視線を向ける。
すると、リルムが明るい声で言った。
「大丈夫でしょ。ゼロなんだから」
「ええ、そうね。確かに。……そういえば、組織のお金が心許なかったわね」
異空間に収納していたマントを取り出し、全員に渡す。
これはホライが作成した『透明マント』というものだ。名前はゼロが初めてこのマントを見て、「え?透明マントじゃん」と発言したことから決まった。
「じゃあ、お金になりそうなものは回収するわよ」
「「了解」」
「わかった」
全員がマントを纏い姿を消し、王城へ侵入した。
入り口に人は見当たらず、そこから数分進むがやはり人影がない。
「何か不気味ね。王城なのに見張りすらいないなんて」
「ああ、確かに不気味だ…。ん?あれは、ソルミナとユーリとホライか」
進行方向に幹部三人がいたため、声をかける。
「三人とも、ゼロはどうしたの?」
「あ、ライチ。ゼロは先に行ったわよ。私たちはこの『業火』?の相手をしていたの。その間にゼロはまっすぐ進んでいったわ」
私たちはゼロが進んだ方向へ歩き出すと、ホライが口を開いた。
「ちょっと待って。この先の通路は複雑になっている。その情報は前々から掴んでいた。だからすでにこの王城の全ルートは調べてあるの。そっち…ゼロの進んだ方に例の武器が保管されている部屋はない」
ホライの言っている事が正しければ、この先のルートは偽物。侵入者対策のための通路…。
ゼロなら罠があっても大丈夫かも知れないけど…それは絶対じゃない。
「ユーリ。ゼロは本当にこのルートを進んでいったの?」
ユーリは少しの間考える仕草をすると、「間違いないよ」と頷いた。
(ゼロは偽物のルートを進んでいる…騙されている?いや、でもゼロに限ってそんなことは無いと思う。ということは、もしかしてワザと?)
私は後ろにいたカゲにひそかに目線を送る。カゲは私の目線に気づくと軽く頷く。
カゲはおそらく「自身の思う最善の選択しろ」と伝えたいのだろう。
私はゼロの進んだルートに背を向けて、正規ルートへとつながる方へ進んだ。
「全員、目的地に急ぐわよ」
――ゼロ視点――
「さーて、お宝拝見といたすか」
倒れた男…『風雷』のラゴルなんとかの横を通りすぎ、奥にある扉を開けた。
扉の先はお宝天国。外見からして超高級な魔剣、魔道具などなど。
この部屋にあるものをすべて売れば、国一つどころか2つぐらい買えるのでは?というレベルだ。
「流石王城…でも、こんな量の宝のある王城がこんな手薄な警備でいいのだろうか?」
俺は疑問に思いながら、武器を見ていく。
そして、一番奥に保管されていた武器の手前で動きを止めた。
「こ、これは…俺の欲しかった武器」
刀身は漆黒、柄などところどころに金があるゴージャスな見た目の刀。
武器を守っているガラスを割り手に取る。
「これは…神晶樹の刀と同じ感じがする。噂の形状変化はどんな感じだ?」
武器に魔力を流す。しかし、特に武器は変化することは無い。
(もしかして、魔力じゃダメなのか?…だったら)
魔力ではなく神力を流す。すると、武器が急激に重くなった。
何か嫌な予感がしたため、剣を天井に向ける。
だんだんと黒い刀身に魔力が集まり、周囲の空気が震え始める。
「あ、これダメなやつかも…」
その数秒後、世界を震撼させた事件が起きた。
――ライチ視点――
「ねえ、さっきから少しおかしくない?」
違和感を感じた私は、皆にそう言った。
「確かに…」
「そうね」
「私もさっきから嫌な予感がする」
「俺も」
「私もかな」
「うん」
「俺もさっきから違和感を覚えている」
私の言葉に幹部全員が同意する。
ホライが何かに気付いたのか、急いで異空間から小型の機械を取り出した。
「!?」
「ホライ?どうかしたの?」
機械の画面を見たホライが驚いた表情をしたため、近くにいたニィラが声をかけた。
「今すぐここを離れたほうがいい。このあたりの魔力濃度がつい1分前の3000倍になってる」
「3000倍…カゲ」
「ああ、後は任せろ」
「頼んだわ」
私は即座に空間魔法の構築を始め、展開する。
すると、カゲ以外の全員が王城から2kmほど離れた場所に瞬間移動した。
「空間転移…すごい」
ニィラが感心したように言った。
空間転移の魔法はかなり扱いが難しく、空間魔法を使える者の中でもほんの一部しか使えない、意外とすごい魔法だ。
私は王城を見る。
「私たちにできることはないわ。ここで静かに見ていましょう。今から起きることを」
幹部全員は不安気に王城を見る。
次の瞬間、王城に一本の巨大な黒い柱が出現した。
――ゼロ視点――
やらかした。そう理解したのは、武器に神力を流した時だった。
急に重くなったから、やばいと判断して刀を天井に向けた。
その数秒後、刀は膨んでいき巨大な柱になった。さらにまずいことに、その柱から巨大な刀身が複数出現し、王城を見事に破壊、さらには周辺にあった民家などもキレイに破壊していった。
これにはさすがの俺も、血が引いたね。
「これ、修理代とかやばそう…ってか、一番かわいそうなのは住民たちだな。なんの関係もないのに家が壊されてるし。確か、ライチたちが住民はすでに安全な場所に誘導しているって言ってたから死者は出てない…と思いたい」
そんなことを考えている間にもこの地下の部屋は崩壊しそうになっている。
「早めに脱出しときますか。あと、『風雷』のなんとかもついでに回収していこう」
『風雷』の何とかを回収し、地上へ出る。
「ゼロ」
声がした方に振り向くとカゲがいた。
「どうしたカゲ。ってか、よく無事でいたな」
「ああ、少しすることがあってな」
「へー、俺はこのバカでかい元刀を回収して戻るわ。あとこれ安全な場所に運んどいて。プラス往生にいる人もよろ」
「はぁ、わかった」
そう言って『風雷』をカゲに預け、俺は柱の頂上へと移動する。
深呼吸をし、右手で柱に触れて、神力を吸収する。
すると、徐々に柱が縮小し、数秒後には最初と同じ大きさの刀に戻った。
「神力を流すだけで、サイズも形も自由自在か。最高の武器じゃん」
俺は上機嫌でライチたちのいる場所へ戻った。
その翌日の朝、ラダムス王国の王城の破壊に関してのニュースが、耳が痛くなるほど流れていた。
犯人については不明らしく、魔王が復活したなどと噂する人間が各国に増えたらしい。
後にラダムス王城破壊事件と呼ばれたのだった。
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