欧州の戦い

第49話 遣欧艦隊

 オアフ島沖海戦から半年経った昭和一七年八月一五日。

 ドイツならびにイタリアより受け入れ準備が整ったとの知らせがきた。

 これを受けて連合艦隊の各艦は抜錨、その舳先を南西へと向けた。

 目的地は欧州。

 目標は英国を戦争から引きずり降ろすことだ。


 オアフ島沖海戦以降、大規模な艦隊戦は生起していない。

 四月のインド洋進攻も、また六月の豪州における一連の戦いでも連合国軍の艦隊は連合艦隊の前にその姿を見せることは無かった。


 艦隊決戦こそ無かったものの、しかし戦局は大きく動いている。

 日本は四月にインド洋の制海権を奪取。

 六月には連合艦隊が豪州第三の都市であるブリスベンを劫火の海に叩き込み、さらにその矛先をシドニーへと向けた。

 さすがに豪州第一の都市まで潰されてはたまったものではない。

 豪政府は苦渋の決断、つまりは日本からの講和の働きかけについて、これを受諾する。

 このことで、日本は連合国陣営の一角を切り崩すとともに、南方の脅威を断ち切ることにも成功した。


 また、この半年のインターバルを活用して、オアフ島沖海戦で手傷を負ったすべての艦艇の修理を終えている。

 母艦航空隊もマーシャル沖海戦とオアフ島沖海戦で消耗した搭乗員ならびに機材の補充を完了していた。



 遣欧艦隊

 第一艦隊

 戦艦「大和」「武蔵」「長門」「陸奥」「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」

 重巡「熊野」「鈴谷」「最上」「三隈」

 軽巡「那珂」

 駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」「野分」「嵐」「萩風」「舞風」「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」


 第一航空艦隊

 「赤城」(零戦三六、零式艦攻四五)

 「翔鶴」(零戦三六、零式艦攻四二)

 「瑞鶴」(零戦三六、零式艦攻四二)

 「瑞鳳」(零戦二七、零式艦攻三)

 「祥鳳」(零戦二七、零式艦攻三)

 軽巡「鳴瀬」「嘉瀬」

 駆逐艦「秋月」「照月」「涼月」「初月」「新月」「若月」「青雲」「紅雲」「春雲」「天雲」


 第二航空艦隊

 「飛龍」(零戦三三、零式艦攻二七)

 「蒼龍」(零戦三三、零式艦攻二七)

 「雲龍」(零戦三三、零式艦攻二七)

 「白龍」(零戦三三、零式艦攻二七)

 「赤龍」(零戦三三、零式艦攻二七)

 重巡「利根」

 軽巡「綾瀬」

 駆逐艦「霜月」「冬月」「春月」「宵月」「夏月」「花月」「八重雲」「冬雲」「雪雲」


 第三航空艦隊

 「加賀」(零戦三六、零式艦攻四五)

 「神鶴」(零戦三六、零式艦攻四二)

 「天鶴」(零戦三六、零式艦攻四二)

 「龍驤」(零戦二七、零式艦攻六)

 「龍鳳」(零戦二七、零式艦攻三)

 重巡「筑摩」

 軽巡「高瀬」

 駆逐艦「満月」「清月」「大月」「葉月」「山月」「浦月」「沖津風」「霜風」「朝東風」「大風」



 遣欧艦隊と呼ばれるこれら戦力は、一個水上打撃部隊とそれに三個機動部隊から成る。

 このうち、一航艦と三航艦の間で空母の異動があり、このことで三個機動部隊はそれぞれ艦上機の数がほぼ同数となっている。


 これら艦隊の中で、特に目を引くのは第一艦隊に編入された「大和」とそれに「武蔵」の二隻の戦艦だろう。

 「大和」は昨年末、「武蔵」は今春に完成した最新鋭戦艦で、その排水量と主砲口径は他の戦艦とは一線を画している。

 六四〇〇〇トンの船体に九門の四六センチ砲を搭載する「大和」と「武蔵」はまぎれもなく現時点における最強の戦艦だろう。

 ただし、それはあくまでも水上砲撃戦の話であり、対空戦闘に関しては並みかあるいはそれ以下でしかない。

 もちろん、このことは帝国海軍も承知しており、将来は左右の副砲を廃止して、その跡地に高角砲を増設することにしている。


 他の六隻の戦艦については、修理の際に高角砲ならびに機銃を増載している。

 ただし、その代償重量として各艦ともに副砲の一部あるいはそのすべてを撤去している。


 空母のほうは応急指揮装置を充実させている。

 これは、マーシャル沖海戦やオアフ島沖海戦で、米空母があまりにもあっけなく撃沈されたことに危惧を抱いた帝国海軍上層部の指示によるものだ。

 空母は狙われやすく、そして脆い。

 このことは、戦前から認識されていたものの、しかしそれほど切迫感を伴ったものでは無かった。

 だが、実戦においてその現実を目の当たりにすれば、やはり危機感も違ってくる。

 さらに、応急指揮装置だけでなく、可燃物の撤去も徹底したものとなっている。

 それと、機体を格納庫に降ろす際には燃料を抜き取り、また爆弾や魚雷の搭載も可能な限りこれを飛行甲板で行うなど、艦上機の運用も大きく変貌を遂げている。


 巡洋艦や駆逐艦も可能な限り対空火器を増備している。

 特に「陽炎」型や「朝潮」型といった魚雷戦特化型の駆逐艦の主砲については、これを平射砲から高角砲へと換装すべきという声が大きかった。

 しかし、時間と資材それに造修施設の問題等から、今回は見送られている。


 艦上機のほうは従来通り、零戦と零式艦攻の二本立てとなっている。

 ただし、それらはいずれも開戦時とは違い、最新型のものが搭載されている。


 零戦はそのすべてが二一型から三二型へと更新された。

 心臓となる瑞星発動機は出力強化型のものが搭載され、従来の一一〇〇馬力から一二五〇馬力へと向上している。


 武装も強化され、二〇ミリ機銃はベルト給弾機構が開発されたことで、装弾数は一〇〇発から二〇〇発へと倍増した。

 また、機首に二丁装備されていた七・七ミリ機銃は廃止され、その代りに両翼に二〇ミリ機銃が追加され、合わせて四丁となっている。

 ただ、一丁あたり二〇〇発というのはやはり心もとなく、そのために零戦は二丁だけ発射する節約モードと、四丁すべての全力射撃モードの二つを切り替えられるようになっている。


 零式艦攻もまた、零戦と同様に最新型が配備されている。

 零式艦攻の心臓である火星発動機だが、こちらもまた瑞星発動機と同様に最新型のものが装備されている。

 出力は一七〇〇馬力から一八五〇馬力へと、一割近く強化された。

 しかし、一方で武装や防弾装備の充実による重量増もあって、最高速度のほうは微増にとどまっている。


 これら艦隊を率いるのは、古賀峯一大将だ。

 本来であれば、艦隊司令長官は中将がこれを担う。

 しかし、ドイツやイタリアと共同戦線を張るにあたっては、中将では貫目不足の心配があった。

 その古賀大将は第一艦隊司令長官も兼ねており、「大和」にその将旗を掲げている。

 機動部隊については、一航艦は第二艦隊司令長官となった南雲中将に代り小沢中将が、二航艦は三航艦を率いていた草鹿中将が、そして三航艦の指揮は小沢中将それに草鹿中将と同期の桑原中将がこれを執る。


 これら戦闘艦艇を支えるための輸送船や油槽船、それに工作艦や給糧艦をはじめとした支援艦船も充実している。

 さらに、それらを守る海上護衛総隊もまた、精鋭部隊を投入してエスコートに万全を期している。


 空母一五隻に戦艦八隻、それに巡洋艦一一隻に駆逐艦四五隻からなる遣欧艦隊は欧州へと急ぐ。

 予想される英艦隊の戦力は空母が七隻に戦艦が一一隻。

 主力艦はこちらが有利だが、しかし巡洋艦や駆逐艦それに潜水艦といった補助艦艇は英側が圧倒的に勝っている。

 いずれにせよ、英海軍は本国周辺海域で遣欧艦隊に好き勝手させるようなマネは許さないだろう。

 激突は必至だった。

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