オアフ島沖海戦

第35話 太平洋艦隊再編

 年明け直後に送られてきた日本からの紙爆弾が炸裂。

 それを受けて、米国の政界は混乱の極みにあった。

 思いもかけない新事実が次々に明るみに出たからだ。


 ルーズベルト大統領は日本を挑発していた。

 国民はもちろん、上下両院の議員たちでさえもが知らないうちに。

 ハル・ノートがその動かぬ証拠だ。


 そして、そのルーズベルト大統領は国民を謀っていた。

 マーシャル沖海戦において、当時の太平洋艦隊が一隻残らず沈められてしまったことを隠していたのだ。


 日本からの紙爆弾は、それこそルーズベルト大統領にとっては青天の霹靂、計算外もいいところだった。

 絶対に隠蔽しておくべき不都合な真実が、しかし白日の下に晒されたのだ。

 そして、それを根拠に共和党議員はルーズベルト大統領を突き上げる。

 議会において彼は防戦一方、味方であるはずの民主党議員からも非難される始末だった。


 しかし、そのルーズベルト大統領に新たなる災厄が降りかかろうとしていた。

 今から一月半後の二月一四日、日本はハワイに軍を進めることを予告してきたのだ。

 そして、それまでに同地で暮らす一般住民の退避を完了させるよう、合衆国政府に申し入れてきている。


 一般住民の退避はさておき、ルーズベルト大統領に戦いを避ける選択肢は無い。

 ここでハワイを見捨てて防衛線を後退させれば、国民の多くは次は西海岸が戦場になると思い込んでしまうだろう。

 そうなれば、国内のさらなる混乱は必至。

 ルーズベルト大統領への非難もこれまで以上に激しくなることは考えるまでもない。


 だがしかし、希望は有る。

 自分たちにはまだ、戦う力が残されているのだ。

 太平洋艦隊を失ったとはいえ、大西洋艦隊はいまだ健在だ。

 それを新生太平洋艦隊として、看板を掛け替えたうえで連合艦隊にぶつける。

 その戦闘力は旧太平洋艦隊と同等か、あるいはそれをしのぐ。

 だから、ルーズベルト大統領は米海軍上層部に対してハワイの絶対防衛を命じる。


 一方の米海軍もルーズベルト大統領の方針に異存はない。

 戦友の敵討ちのチャンスであれば、それを見逃す手はないからだ。

 負けっ放しで良しとする海軍など、地中海に面した某国を除いて地球上には存在しない。

 そして、強敵に勝利するために、米海軍上層部は思い切った決断を下す。

 「アーカンソー」を除くすべての戦艦を太平洋に回すことにしたのだ。


 それら戦艦の中には、旧太平洋艦隊には見られなかった新型の姿もあった。

 軍縮条約明け後に整備を開始した新造戦艦の第一弾となる「ワシントン」それに「ノースカロライナ」の二隻の四〇センチ砲搭載戦艦だ。

 彼女たちが装備する主砲は、同じ四〇センチ砲でも旧式戦艦のそれとは違う。

 超重量弾の運用が可能となっているのだ。

 その砲弾重量は従来の四〇センチ砲弾に比べて二割以上も重い。

 同じ四〇センチ砲の「長門」型戦艦や「ネルソン」級戦艦に比べて、その攻撃力は一枚も二枚も上手を行く。


 さらに、これに太平洋艦隊の生き残りの「コロラド」が加わる。

 「コロラド」もまた四〇センチ砲を搭載する強力な戦艦だ。

 日本の戦艦が相手であれば、どのクラスであっても互角以上の戦いが出来る。


 「ニューメキシコ」と「ミシシッピー」それに「アイダホ」はそのいずれもが一二門の三六センチ砲を搭載する姉妹艦だ。

 四〇センチ砲より若干小ぶりなものの、しかし長砲身から繰り出される三六センチ砲弾はライバルとされる「伊勢」型戦艦や「扶桑」型戦艦のそれに比べてワンランク上の破壊力を持ち合わせている。


 「ニューヨーク」それに「テキサス」は三六センチ砲を一〇門搭載しており、その攻撃力は「伊勢」型戦艦や「扶桑」型戦艦にはわずかに及ばない。

 しかし、一方で防御力はそれらライバルと同等以上であり、総合性能では決して引けをとるものではないと考えられている。


 新時代の主力となった正規空母は、三隻だった旧太平洋艦隊に比べて一隻多い四隻となっている。

 このうち、「ヨークタウン」と「ホーネット」はマーシャル沖海戦で撃沈された「エンタープライズ」の姉妹艦であり、脚が速く航空機の運用能力も高い。

 残る「レンジャー」と「ワスプ」は防御力に難を抱えているものの、しかし七〇機以上の艦上機を搭載することが出来る有力な空母だ。


 これら四隻の正規空母については、特に戦闘機隊を増強する。

 これまで、六個小隊だったものを一気に二倍の一二個小隊にするのだ。

 このために本土にある嚮導隊のベテランやあるいは練習航空隊の教官といった腕利きを一時的に引き抜く。

 このことで、新型機のテストや新人パイロットの養成に少なからず悪影響が出てしまうが、しかし背に腹は代えられない。

 機材も不足する分については、これを海兵隊から一時借り上げることにする。

 これら母艦航空隊にオアフ島の基地航空隊の戦力を糾合すれば、日本艦隊の撃退は可能だ。


 もちろん、オアフ島の航空戦力も増強する。

 同島の空を守る戦闘機は、現在のところ陸海軍合わせても二〇〇機足らずでしかない。

 しかも、そのうちの四割近くがP26やP36といった旧式機だ。

 しかし、これら機体ではフィリピンやあるいはマーシャル沖で陸軍戦闘機隊や母艦航空隊を散々に打ちのめしたゼロファイターには勝てない。


 そのために、本土にあるP40を可及的速やかにオアフ島に送り込む。

 そのオアフ島は飛行場の数もその設備も充実している。

 しかし、それでも収容力や管制能力には限界がある。

 それゆえに、運用できる戦闘機の数も限られる。

 それに、戦闘機以外にも爆撃機や哨戒機、それに基地機能を維持するための輸送機や連絡機も必要だ。

 数が限られているからこそ、一機あたりの戦力を可能な限り向上させなければならない。

 だから、機体とともに派遣する搭乗員も可能な限りベテランか中堅で固める。

 整備員や兵器員もまた同様だ。


 オアフ島の出城とも言うべきウェーク島それにミッドウェー島からは兵力を引き揚げる。

 これらの島の航空戦力では、太平洋艦隊を鎧袖一触とした連合艦隊に太刀打ちすることなど到底不可能だからだ。

 引き揚げた機体はオアフ島の航空戦力の一助とする。

 このことで海軍それに海兵隊の戦闘機隊の戦力は少なからず向上する。


 これら一連の措置で、太平洋艦隊の戦力はこれまでになく充実する。

 しかし、逆に大西洋艦隊の戦力は激減する。

 当然のことながら、欧州を主戦場と考えるチャーチル首相からの猛抗議が予想される。

 しかし、ルーズベルト大統領にこの決定を覆す意思は皆無だ。

 ハワイの自国民が危機にさらされようとしているのに、遠く欧州の民を助ける余裕は今の米国には無い。

 このことで、ドイツやイタリアを利することになってしまうが、しかし今は日本の脅威を撃退するほうが優先される。


 大西洋艦隊の艦艇を基幹戦力として再編された太平洋艦隊は集結を急ぐ。

 二度目となる、米日の主力艦隊同士の決戦。

 運命の時は間近に迫っていた。



 第一一任務部隊

 戦艦「コロラド」「ニューメキシコ」「ミシシッピー」「アイダホ」「テキサス」「ニューヨーク」

 軽巡四、駆逐艦一六


 第一二任務部隊

 戦艦「ワシントン」「ノースカロライナ」

 軽巡二、駆逐艦八


 第一七任務部隊

 「ヨークタウン」(F4F三六、SBD三六、TBD九)

 「レンジャー」(F4F三六、SBD三六)

 重巡三、軽巡一、駆逐艦一二


 第一八任務部隊

 「ホーネット」(F4F三六、SBD三六、TBD九)

 「ワスプ」(F4F三六、SBD三六)

 重巡三、軽巡一、駆逐艦一二

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