第36話 オアフ島へ

 マーシャル沖海戦で太平洋艦隊を撃滅した第一艦隊と第二航空艦隊それに第三航空艦隊の艦艇は、本土に戻ると同時に修理あるいは整備に入った。

 将兵らについては遅めの正月休暇が与えられている。


 第一航空艦隊もまた、第一艦隊や二航艦それに三航艦に先んじて本土に帰還していた。

 二航艦や三航艦と違い、一航艦のほうは南方作戦に投入されていた。

 その一航艦は開戦直後に在比米航空軍を撃滅し、その後も南方戦域で猛威を振るった。


 その南方作戦のほうはいまだ継続中だ。

 しかし、同戦域に基地航空隊が展開を終えたことで、一航艦のほうは年末を前にお役御免となったのだ。

 一航艦が抜けてなお南方戦域には四隻の高速戦艦とそれに一二隻の重巡、さらに多数の軽巡や駆逐艦が活動している。

 弱小の英米蘭豪連合艦隊に対する備えとしては十分過ぎる戦力だった。


 第一艦隊は損傷艦の修理を終え、一航艦と二航艦それに三航艦もまた失われた艦上機とそれに搭乗員の補充を完了している。

 それら四個艦隊は二月に入ると同時に次々に抜錨、その舳先を東南東へと向けた。



 第一艦隊

 戦艦「長門」「陸奥」「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」

 重巡「熊野」「鈴谷」「最上」「三隈」

 軽巡「那珂」「北上」「大井」

 駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」「野分」「嵐」「萩風」「舞風」「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」


 第一航空艦隊

 「赤城」(零戦五四、零式艦攻二七)

 「加賀」(零戦五四、零式艦攻二七)

 「龍驤」(零戦二七、零式艦攻六)

 「瑞鳳」(零戦二七、零式艦攻三)

 「祥鳳」(零戦二七、零式艦攻三)

 「龍鳳」(零戦二七、零式艦攻三)

 軽巡「鳴瀬」「嘉瀬」

 駆逐艦「山月」「浦月」「青雲」「紅雲」「春雲」「天雲」「八重雲」「冬雲」「雪雲」


 第二航空艦隊

 「飛龍」(零戦三〇、零式艦攻三〇)

 「蒼龍」(零戦三〇、零式艦攻三〇)

 「雲龍」(零戦三〇、零式艦攻三〇)

 「白龍」(零戦三〇、零式艦攻三〇)

 「赤龍」(零戦三〇、零式艦攻三〇)

 重巡「利根」

 軽巡「綾瀬」

 駆逐艦「秋月」「照月」「涼月」「初月」「新月」「若月」「霜月」「冬月」


 第三航空艦隊

 「翔鶴」(零戦三六、零式艦攻四二)

 「瑞鶴」(零戦三六、零式艦攻四二)

 「神鶴」(零戦三六、零式艦攻四二)

 「天鶴」(零戦三六、零式艦攻四二)

 重巡「筑摩」

 軽巡「高瀬」

 駆逐艦「春月」「宵月」「夏月」「花月」「満月」「清月」「大月」「葉月」



 オアフ島をめざす四個艦隊には空母一五隻に戦艦六隻、それに巡洋艦一三隻に駆逐艦四一隻が配備されている。

 艦上機のほうは常用機だけで八九七機を数える。


 これらのうち、第一艦隊は機動部隊の前衛として空母を守るとともに、状況によってはオアフ島に艦砲射撃を実施することも織り込んでいる。

 残る三個機動部隊だが、このうち二航艦と三航艦は太平洋艦隊への対抗戦力として、一航艦のほうはオアフ島航空戦力の撃滅をその任としている。


 全体指揮は第一艦隊司令長官の高須中将が、航空戦の指揮は一航艦の南雲中将がこれを執ることになっている。

 しかし、南雲中将のほうは二航艦の小沢中将にフリーハンドを与え、さらに三航艦の指揮も委ねている。

 このことで機動部隊に関してはオアフ島攻撃は南雲中将が、太平洋艦隊への対処は小沢中将がその責任を負うという分かりやすい分業態勢が確立されていた。


 その機動部隊だが、開戦時と比べて変わったのは艦上機の編成だった。

 二航艦の五隻の空母とそれに「赤城」と「加賀」の合わせて七隻の正規空母はそのいずれもが戦闘機の比率を高めている。

 このうち、「赤城」と「加賀」に関しては、その目標が在オアフ島航空戦力の撃滅にあることがその理由だ。

 任務そのものは在比米航空軍を相手取った南方作戦のときと変わらない。

 しかし、在比米航空軍とオアフ島基地航空隊とではその戦力の厚みが違う。

 それゆえに、攻撃力が減少するのを承知のうえで零戦の数を増やさざるを得なかった。


 一方、二航艦の空母のほうはマーシャル沖海戦で得た戦訓によるものだ。

 同海戦で二航艦それに三航艦は「エンタープライズ」と「レキシントン」それに「サラトガ」の三隻の米空母と干戈を交えた。

 この時、二航艦と三航艦の九隻の空母には合わせて一一七機の零戦が直掩として残されていた。

 十分だと思っていた直掩機だが、しかし蓋を開けてみればその防空戦闘は際どいものだった。

 当時の太平洋艦隊があと一隻多く空母を擁していたら、その防空網は間違いなく破綻していた。

 もしそうなっていれば、複数の空母が撃破されていたことだろう。

 それゆえに、「飛龍」と「蒼龍」それに三隻の「雲龍」型空母はそれぞれ六機の零戦を増載することにしたのだ。

 しかし、その代償としてそれぞれ同じ数の零式艦攻を艦から降ろしている。


 また、これら四個艦隊を支えるために、二〇隻もの油槽船が護衛艦艇に守られながら行動を共にしている。

 これら油槽船のうちの半数は札田場敏太の資金援助によって建造されたものだ。

 正面装備ばかりを充実させたがる帝国海軍のやりように危機感を覚えた敏太が、その豊富な資金力をもって建造を促進させたのだ。

 もし、敏太の経済支援が無ければ、あるいはオアフ島に対する攻撃は画餅に終わったかもしれない。


 油槽船以外の支援も充実していた。

 中でも大きなものが情報支援だ。

 四個艦隊の往路を可能な限り安全なものにするべく、帝国海軍は潜水艦や大型飛行艇を使うなどして前路哨戒の徹底を図っている。

 その結果、米軍はウェーク島ならびにミッドウェー島から戦力を引き揚げたことがすでに分かっていた。

 また、ハワイ周辺に展開していた伊号潜水艦は敵勢に関する情報を継続して送ってくれている。

 それによると、オアフ島に集結した戦力は戦艦が七乃至八隻で、空母のほうは三乃至四隻ということだった。

 また、これ以外にも多数の巡洋艦や駆逐艦が確認されており、さらにその数を増やしつつあるという。


 マーシャル沖海戦からまだ一月半しか経っていないのにもかかわらず、しかし米軍は当時と同等かあるいはそれを上回る戦力を用意してきた。

 まさに化け物の如き回復力だ。

 しかし、一方で帝国海軍上層部はこれが米軍の最後の手札だということも理解している。

 オアフ島に集結中の艦隊を叩けば、米海軍は軍縮条約明け後に建造を開始した艦艇が充実するまでは満足に動くことが出来なくなる。


 逆に日本も同じことが言える。

 もしこの作戦に失敗し、第一艦隊と一航艦、それに二航艦と三航艦が壊滅的ダメージを被れば、その時点で日本の敗北は決まったも同然だ。


 互いに負けることが許されない戦い。

 その開始のゴングが鳴るまで、双方に残された時間はわずかだった。

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