大文字伝子が行く148

クライングフリーマン

襲われた隣人

 ===== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。

 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署生活安全2課勤務。

大文字綾子・・・伝子の母。介護士。伝子に時々「クソババア」言われる。学を「婿殿」と呼ぶ。

 藤井康子・・・伝子達の隣人。料理教室を開いている。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。故人となった蘇我義経の親友の妻であった同級生逢坂栞と結婚した。

 橋爪警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。EITOとの連携部署の為、犯人逮捕連行に向かうことが多い。

 本郷隼人二尉・・・海自からEITOに出向。事故で療養中だったが、EITO秘密基地勤務で復帰。

 草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。警視庁から出向の特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

 水島警視正・・・警視庁のサイバーセキュリティチーム室長。

 みゆき出版社編集長山村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の編集長。

 みゆき出版社副編集長西村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の副編集長。

 須藤桃子医官・・・陸自からのEITO出向。基本的に診療室勤務。

 池上葉子院長・・・池上病院院長。学の中学卓球部の後輩彰の母。彰は他界している。

 真中瞳看護師長・・・池上病院看護師長。母を継いで池上病院の看護師長に。


 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 午前11時。伝子のマンション。

 EITO用のPCのディスプレイの前に、高遠は座っていた。画面には、草薙、夏目、理事官が映っている。

 「ChotGPT?何ですか?それ。私が知っている名前に似ているけれど。アメリカのある会社が開発した、自然言語でユーザーと会話し、ユーザーの意図を理解し、あらかじめ定義された規則とデータに基づいて応答することができるプログラムを使って、『生成可能な事前学習済み変換器』に利用するというシステムですが。」と高遠は首を捻った。

 「駄洒落みたいなネーミングだが、クライム・オン・テック(Crime On Tech GPT)の略だそうだ。GPTは今、高遠さんが今言った変換器システム。」と草薙が言うと、「詰まり、『犯罪技術のレシピ』という訳だ。昨日、金森達がリンチした、いや、懲らしめたダークレインボーの『枝』である、目方(めかた)英一が自白した。高遠君が言った『仲介人』はいなかったが、このチョットジーピーティーが目方に殺害方法を教えていた。」と、夏目が言った。

 「成程。ボルダーである杵築睦子さんは拳を、競輪選手である杵築燿子さんは脚や腰を、フィギュアスケーター選手である杵築徹子さんは足にダメージを与えた。あ。睦子さんの背中は?」と、高遠は疑問を口にした。

 「それは、目方が調子に乗って車で轢いたアドリブらしい。」と、夏目警視正は言った。

 「そうすると、ボクサーの杵築道子さんがもし襲われたとしたら、目方は拳を潰せ、とシステムに教授される訳ですか。そうかあ。ChotGPTに問いかけるキーワードは、『対象人物を再起不能にするには?』だったんだ。」

 「どういうことかね、高遠君。」と、横から、待ちかねてたように理事官が言った。

 「詰まり、県議である杵築桜子を再起不能にするには、濡れ衣を着せて政界から葬ればいい。ひかる君に『アスリートに絞っていいのかな?』と言われて、草薙さんに調べて貰ったら、アスリート以外の著名人がいた。伝子が総理に頼んで調べて貰ったら、県議が上京すると分かった。福本達に県議の替え玉を用意させたのは、正解でした。同じ党で、スパイ防止法の修正案に熱心な杵築県議は桜井議員に面会に上京したけれど、桜井県議を殺して杵築県議に殺人の汚名を着せる作戦だったのでしょう。」

 「岡部議員の執務室からのFAXからは、送信データの電子ファイルが残されていた。総理がセキュリティクリアランスの一環として行ってきた、データの何重にも管理する体制が生きたことになる。岡部は時が下手くそでね。上から書き直して、FAXの下の名前が読み取り不完全だった。片っ端から殺したと目方は白状したよ。詰まり、最初は連続殺人の積もりじゃなかったけど変更した。実行犯は目方だが、殺人の依頼人は岡部だった。ある日、Atwitterに『殺人請け負います』のツイートが載った。リンク先に跳んだのが闇サイトだった。岡部は飛びついた。闇サイトの宛先にFAXもあったから岡部は利用したのが話をややこしくした。あ、それから、目方達は、横浜の反社の生き残りだ。総合関内組の組長ががんで亡くなってから半年、ダークレインボーにスカウトされたらしい。そして、レシピ付きの犯罪。世の中変わったもんだな。」

 「全くだ。」と言って、高遠の見知らぬ顔が現れた。

 「紹介しよう。明日、大文字君を含めた会議で紹介する予定だが、警視庁のサイバーセキュリティチーム担当の水島警視正だ。普段警視庁に常駐されているが、EITOと連携を組むこともある。」と、理事官が言った。

 「よろしくお願いします、エーアイ様。」と言って、水島は頭を下げた。

 「やだなあ。草薙さん、変なこと教えないで下さいよお。」「僕は正直なだけですけど。」と、高遠のクレームを草薙は流した。

 正午。玄関の所に、山村編集長と藤井が立っていた。

 「へええ。あ、高遠ちゃん。チャイム鳴らしたわよ。ちゃんと鳴ったし。」と山村が言った。

 奥の寝室から、伝子がネグリジェで出てきた。下着は着けてない。

 藤井は、黙って伝子を寝室に連れて行った。

 午後1時。

 4人で昼食会が始まった。手巻き寿司にしたので、自分の分を作りながら食べる。

 「大文字くぅん。無理しすぎよ。身重なんだから。」と山村が言うと、「昨日、本部に帰ったら目眩がして・・・気が付いたら医務室で点滴受けてた。須藤医官は怒鳴り散らしたわ。『ばっかもーん、跳ねっ返り娘が。出産を舐めてるのか。赤ん坊はスーパーに売ってないんだぞう!』」と伝子は物真似で話した。

 「ガンコ親父なの?高遠ちゃん。」と編集長が言うので、苦笑しながら高遠は「いえ、ガンコババア、かな。70歳近い女医さんです。女性医官。陸自からの出向です。」

 「自衛隊、定年ないの?」「ありますよ。嘱託勤務。EITO本部の非常勤の先生。」と、伝子は応えた。

 「ふうん。高遠ちゃんは会ったことあるの?」「一度。『お前が髪結いの亭主か』っていつの時代のギャグ?って感じのこと平気で言う。理事官もね、夏目さんも皆もビビってる。平気なのは一佐くらいかな。」

 「ふうん。また、人が増えるのかと思ったら、連携って言ってたわね。」「ああ。増員は来月中旬だったかな、2人。海自から。」

「敵も益々攻撃してくるし・・・『犯罪技術のレシピ』だなんて。子分が頭足りなくてもコンピュータが何とかしてくれるんだ。時代は変わったのねえ。」藤井は感心した。

 「レシピと言えば、はい、これ。高遠ちゃんの分。藤井先生のレシピのハンドブック、好評よ。」と、編集長は高遠にハンドブックを渡した。

高遠は、やっと、編集長の訪問理由を知った。

 「さっきのネグリジェね、みちるが持って来るのよ。派手でしょ。あつこがね、マタニティウェアあげるからって言うから今度貰うことにしてるんだけど。」

 「あ。それで、倒れたから昨日は、なぎさちゃんとあつこちゃんと2人がかりで連れて来たのね。」「うん。学のそばの方が落ち着くって言ったから。お陰でよく寝たわ。」

 高遠は、このマンションに戻って来て良かったと思った。藤井はもう親戚のおばさんみたいなものだから、と思った。

 「さ。私は帰るわ。あ。聞き忘れた。高遠ちゃん。オクトパスのヒントって何だったの?」

 「ああ、『科研先砂』ですか。まあ、科学分析研究所とは関係ないでしょう。アナグラムで、置き換えると『危険探すな』、オクトパスはEITOに勝たせたかったのかな?って今では思ってます。アスリートにミスリードされそうだったけど、本命は別にあったし、ChotGPTが出した答知った上で臭わせてたのかも。」

 「ふうん。大文字くぅん、お大事にね。」

 編集長は帰って行った。

 「さ、私は買い物に行って来るわ。あ、高遠さん、何か欲しいものあったら言って。ついでに買ってくるから。」「強いて言えば、お醤油かな、小瓶。」

 「了解。」藤井は、元気よく出て行った。

 それが、その後、大変なことに繋がるとは、高遠はゆめゆめ思わなかった。

 午後5時。

 「遅いね、藤井さん。ちょっと行って来る。」と言って伝子は出て言ったが、程なく帰って来た。

 「鍵かかってる。まだ帰って無いのかな?」伝子はスマホを取り出して、電話をしてみた。繋がらない。

 伝子と高遠は顔を見合わせた。高遠は、EITO用のPCを起動させた。

 「草薙さん。至急、藤井さんのDDバッジの所在を確認したいんですが。」と、高遠は事情を話した。

 「エリアは動いてません。そんなに遠くにはいないことになる。」と、草薙は言った。

 DDバッジとは、元々は陸自が開発したもので、災害地用の通信機器だった。

 それを改良して、出来たのがDDバッジだ。EITO関係者は勿論、伝子ゆかりの人物全てが携帯している。所持しているだけで、ある程度のエリアは特定出来るが、半径2キロまでだ。ピンポイントで特定するには、DDバッジを本人が押す必要がある。そこが最大のウィークポイントになっている。

 「分かった。愛宕に緊急手配を頼もう。我々は、駐車場や近辺を探す。」と、伝子は草薙に言った。「了解しました。」

 午後5時半。

 駐車場や、付近の公園には藤井はいなかった。

 伝子のスマホに愛宕から電話があった。「先輩。見つかりました。そこから1.5キロ先に新しいコンビニが出来ているでしょう?今、そこの駐車場で救急車が止まっていたので、確認したら、藤井さんでした。僕は、救急車に同乗します。」

 午後7時半。池上病院。手術室前。

 池上院長と、外科の医師が出てきた。

 池上院長は言った。「高遠君。命に別状はないわ。傷を負っていたから縫合はした。明日、念の為CTやMRIを撮るわ。」

 どやどやと、人が集まってきた。

 物部が最初に言った。「藤井さんの災難聞いてびっくりしたよ。ウチのお客さんで、料理教室通っている人がいたから、教室の人に連絡してくれ、と頼んでおいた。栞に『休業』の貼り紙を貼るように言っておいた。」

 「ありがとう、物部。」と伝子は頭を下げた。

「レシピの原稿は急がないからって、言っておいて。」と言ったのは、山村だった。 副編集長の西村を伴っている。 

 「伝子。今夜は私がついているから。」と綾子が言い、「ありがとう、かあさん。」と、伝子は言った。

 「おねえさま。念の為、交代で藤井さんの部屋に詰めることを理事官に進言しました。それと、病院の警備も。」「ありがとう、なぎさ。」

 「今夜は私たちが送ります。」と、みちるが言った。

 「ありがとう、みちるちゃん。」と、訪れた人々に礼を言っている伝子に替わって高遠が言った。

 午後8時。パトカーの中。

 EITOから、伝子のスマホに連絡が入った。

 「大文字君。オクトパスから、Tick Tackで通信が入った。再生するよ。」

 《

 やあ、EITOの諸君。今回は見事にしてやられたね。お身内にアクシデントがあったようだが、私は関係ないからね。次回の冒険の予告は明日以降にするよ、忖度して。お大事に。

 》

 「ち。忌々しい奴だ。しかし、じゃ誰が襲ったんだ?」と、伝子は呟いた。

 午前零時半。伝子のマンション。

 アラームが鳴って、EITO用のPCが起動した。

 パジャマ姿で伝子は、高遠と並んだ。

 夏目が緊張した面持ちで画面に映った。「大文字君。葡萄館とテレビ2が火事だ。 偶然とは思えないので、EITOにも出動要請が来た。どうするね?」

 「オスプレイは?」「現場に向かった。車で向かえを出すかね?」「それだと2度手間ですね。バイクで行きます。」伝子は慌ただしく出て行った。

 伝子が急いで出た後、高遠は気づいた。時計を見て凍り付いた。

 「もう、『明日以降』じゃないか。」高遠はスマホに手を延ばした。

 午前1時。

 高速に差し掛かった頃、3台のバイクが追走してきた。伝子は素早くDDバッジを押した。そして、長波ホイッスルを片手で吹いた。長波ホイッスルは、単純連絡を行う為の通信機器で、犬笛のように人間には聞こえない。更に、ブーツの中の追跡用ガラケーのスイッチを脚で押した。

 3台のバイクから、伝子は銃撃を受けた。

 10分後。猛烈な勢いでマセラティが走って来た。

 3台のバイクは、マセラティから発射した棒で転倒した。後輪に命中し、棒の先のシュータが刺さったからだ。

 「こんな所で実験出来るとはねえ。姉に自慢出来るよ。アンバサダー、先を急いで下 さい。」

 ガルウイングのドアを開けてマセラティから降りたのは、本郷隼人、本郷弥生の弟だった。

 「任せるよ。」伝子は言い残し、去って行った。

 マセラティは、ただのスーパーカーでは無かった。EITO仕様に改造してある。隼人は、高遠からの要請を受け、秘密基地から走り出て、EITOからの位置情報を元に現場に駆けつけたのだ。

 午前2時。EITO本部。司令室。

 深夜にも拘わらず、草薙達もいた。「状況は?」入って来るなり、伝子は夏目に尋ねた。

 「葡萄館の方は、消防とホバーバイクで放水していたが、MAITOが駆けつけて消火弾を落したので鎮火に向かっている。テレビ2の方は、深夜で幸い局員しかいなかったのでパニックは無かった。追尾されたって?」

 「ええ。ウチの旦那を褒めてやって下さい。秘密基地から本郷君を呼び出し、マセラティで撃退出来ました。」

 「帰りに神棚拝んで行くよ。」と、夏目は笑った。

 EITO本部とEITO大阪支部には、『通常の神様』と一緒に、『高遠学様』が祀ってあるのである。高遠は『生き神様』だ。

 「今、白バイ隊から連絡が入ったよ。追尾してきた3台の仲間らしきバイクの集団が、Uターンして去って行ったらしい。」

 午前11時。池上病院。藤井の病室。

 伝子達が入って行くと、真中看護師長の指示で、看護師達が点滴を外していた。

間もなく、池上院長が入って来た。「CTもMRIも異常なし。出血は多かったけれど、傷は深くは無かった。良かったね、高遠君、大文字さん。」

 「愛宕の話では、目撃者が見つかってモンタージュを作っているそうよ。犯人はすぐ捕まるわ。はい、これ。」

 伝子は、小さな瓶を藤井に渡した。通称、星の砂、だった。


 「コンビニのゴミ捨て場でね。光るものが見えたの。そしたら、これと同じくらいの大きさの星の砂だったの。」

 橋爪警部補は、メモを取り、出て行った。


 藤井はか細いが、しっかりした声で歌い出した。



 ―完―

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