#1 アジサイの毒は一途な愛に勝るのか

 時期を過ぎてしまいましたが、身近な有毒植物の代表「アジサイ」をご紹介します。


 あら、意外でしたか?


 飲食店で料理の飾りとして提供されたアジサイの葉を食べ、食中毒を起こした事例もありますから、立派な毒草なんですよ。

 毒を含まない部分はないんですよ。そう考えると、アジサイの葉を好んで食べるカタツムリって凄いですね。毒を食べて生きるのは、一つの生存戦略なんでしょうね。

 

 アジサイに含まれている毒素は、酵素分解で青酸を発生する青酸配糖体と呼ばれるものです。

 これって、自然界ではそれほど珍しい毒素じゃないんですよ。

 有名なところだと、ウメ、モモ、アンズに含まれています。


 子どもの頃、梅干しを食べたら「種には神様がいるから食べちゃダメだ」と言われたことがあります。

 梅干しの種は凄く硬いんですが、種の真ん中の部分(仁)がコリコリして美味しいと友達に聞いたんですよ。大きなカリカリ梅の種です。

 実際、割って食べたたら美味しかったんですけどね。


 この時、食べてもなんともなかったのは、加工されている梅干しだからです。

 熟していない青ウメだったら、とんでもない話なんですよね。含まれているのは、青酸配糖体という毒です。といっても、一個で死ぬような量じゃないんですけどね。致死量は一般的に100~300個だったかしら。

 神様がいるという言葉は、毒があるから食べちゃいけないという意味だったのかもしれませんね。


 話がそれましたね。

 アジサイの話に戻りましょう。

 

 アジサイの葉を食べたという事例を見ると、食事30~40分後に嘔吐、吐き気、めまい等の症状で搬送が報告されています。

 なお、アジサイの誤飲による報告は厚生労働省の自然毒のリスクプロファイルに詳しく載っています。


詳細はこちら↓

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000082116.html


 平成20年には、アジサイの葉や花が、料理の飾り用として流通していたことも報告されています。(※「アジサイの喫食による食中毒について」で検索をすれば、厚生労働省の報告がPDFで確認できます)

 

 売られている商品に「見て楽しむものです」と注意書きをされていたようですが、飲食をする客には分からないでしょう。しかも、小さなアジサイの葉は一見するとシソに似ていますから、刺身などに添えられていたら、誤飲の可能性も考えられますね。

 

 甘茶と呼ばれる、その名の通り甘いお茶があります。これはアジサイの変種で、毒性を持っていないと云われています。

 でも、甘茶を飲んで具合が悪くなったという報告もあり、リスクプロファイルにも載っているんですよ。

 何にせよ、アジサイの花は見て楽しむものですね。

 

 紫陽花の花言葉は──


 ・移り気

 ・冷淡

 ・辛抱強さ

 ・冷酷

 ・無情

 ・高慢


 花色が変わることが花言葉に影響したのか、少々、悪役に合いそうな言葉が目立ちますね。もしかしたら、毒性を持っていることも、影響を与えたのかもしれません。

 誕生花としては、6月3日になります。梅雨の花のイメージに合う日付けですね。


 さらに、花色でも花言葉が大きく変わるのも、アジサイらしさかなと思います。


 青や紫のアジサイには「冷淡」「無情」「知的」「神秘的」等の意味もあるのは、鮮やかな青色のイメージでしょうか。

 赤やピンクには「元気な女性」「強い愛情」と、青とは対照的に明るいイメージです。

 これは、明るい色のアジサイの種は、ヨーロッパに分布し、元気いっぱいなフランスの女性の印象から生まれた言葉だと云われています。


 一昔前は、紫陽花といえば青やピンクでしたが、近年は様々な色がありますよね。最近、人気が上がっているのは、白い紫陽花のように感じます。

 この白いアジサイはアルミニウムと結びつく色素がないため、土壌の酸性度に影響しないそうです。

 

 そんな、白い紫陽花の花言葉は「寛容」「一途な愛情」です。

 どんな色にも染まる白だけど、染まらずにいる花姿の印象から、意味が添えられたのかもしれませんね。


 最後に、アジサイの花言葉「辛抱強さ」にまつわる話をしたいと思います。


 江戸時代、日本は空前の園芸ブームでした。アジサイの品種改良の多くも江戸時代にされたようです。

 当時、オランダ商館の医師として日本に来たシーボルトも、図鑑まで作ってしまうほど、日本の植物を愛していました。その中で最も愛していたのが、アジサイです。彼の著書『日本植物誌』でHydrangeaハイドランジア otaksaオタクサという学名をつけて紹介したほどです。


 このotakusaというのは、シーボルトが日本で愛した女性・おたきさんのことだと云われています。

 ただ、シーボルトが命名するより前に、Hydrangeaハイドランジア macrophyllaマクロフィアという名前で発表されていたので、認められなかったんですけどね。


 愛した女性の名前を花に託したいだなんて、何て一途なんでしょう。

 まぁ、ヨーロッパに戻ってから、他の女性と結婚して子を成していますけどね。

 ちなみに、その息子も日本との外交に携わる仕事をしていたと聞いた記憶があります。息子に影響を与えるくらい、シーボルトは日本の地を再び訪れる日を夢見て、植物に情熱を注ぎ続けていたのでしょう。

 

 国外追放が解かれるまで三十年。

 再び日本を訪れたシーボルトはどんな思いで、アジサイの花を愛でたのでしょうね。

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