終幕

第14話 貴女が好きだから

「あとね、ゆーちゃん」


 問題の一つは解決した。


 まだ、話し合わなくちゃいけないことがある。


「私も一緒にアイドルを辞める」


「え?」


 ポカーンと口を開けたゆーちゃん。


 うん、可愛い。


 19歳なのに中学生に間違われる貴女の顔。


 好きなんだよねえ……じゃなくて!


 顔に見惚みとれている場合じゃない。


「お金のことを考えると、私はこのままアイドルを続けた方がいいのはわかってる。だけど、ゆーちゃんがいないならやりたくない」


 私の夢は、女優だから。


「そっか」


 一瞬にして笑顔に変わる。


 貴女のそういう、コロコロ表情が変わるところも好きなんだよ。


「最初はオファーなんてこないだろうから、オーディションを受けまくることになる。苦労することになる。それでも負けないよ。応援してくれる?」


「勿論」


 即答だった。


 力強く言ってくれた言葉は胸に刺さり、カラダ中に行き渡る。


 ゆーちゃんが傍にいてくれるなら頑張れる。


「バイトをしてでもお金を稼いでくる。安心して」


 貴女に向けてだけじゃなく、私に対しても言い聞かせる言葉。


「一家の大黒柱になるんだもんね」


「そうだよ」


 昨日までの気まずい雰囲気はもうない。


 穏やかな空気が部屋を漂う。


「あっ」


 そんな空気を切り裂いたのは、ゆーちゃんの大きな声だった。


「妊娠してること、真子まこ姉たちに話した方がいいかな?」


「あー……」


 忘れてた。


 大事な事なのに。


 仕方ないじゃん。


 ゆーちゃんのことで頭がいっぱいだったんだから。


「言わない方がいい。絶対にブチギレられる」


「だよねえ」


 真子姉だけじゃなく、和美わみ姉だってキレるはず。


 恐ろしや。


「誰になにを聞かれても、絶対に妊娠のことは話さない方がいい。多分、『辞める』って話すだけで真子姉ブチギレるから」


「そうだよねえ」


 呑気な口調。


 普段ならイラっとするところでも、今はしない。


 呑気に、というか茶化さないとやってられないもん。


 あーメンバーにキレられることを想像しただけで気が重くなる。


「二人で一緒に怒られようね」


「そうだね」


 遠い目をしたゆーちゃんの言葉に頷く。


 私たちの試練は始まったばかり。


 取り敢えずは、メンバーからブチギレられるところからクリアしていこう。

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