第8話 頼るべきは誰か

「もう今日は帰って」


 手で顔を隠したまま告げる。


「話したくない」


 ごめん、弱虫で。


 これ以上貴女と向き合っていられない。


「……わかった」


 彼女が席を立つ音がする。


「返事、待ってるから」


 バタン。


 結局、玄関のドアが閉まるまで私は動けなかった。


「はぁ」


 ため息をつき、漸く手を顔から離した。


 そのまま椅子の背もたれにカラダを預ける。


「どうすればいいの」


 私一人じゃ答えは出せそうにない。


 じゃあ、誰に相談する?


 真子まこねえ


「いや、それはダメ」


 話したら最後。


 即怒りの導火線に着火するのは目に見えている。


「確実にブチギレられる」


 恵麻えま姉の妊娠がわかったときのように。


 ならば、和美わみ姉?


「いやいやいやいや」


 あの人もダメだ。


 滅多に怒らない、仏様みたいに穏やかな人。


 実は怒ったら真子姉よりも怖い。


「確実にブチギレられる」


 これから再出発ってときだからこそ、怒り狂うのは目に見えている。


「あぁぁぁぁぁぁもうっ、誰に相談すればいいの」


 残るメンバーはあいちゃんだけ。


「あの子は……うん、ダメ」


 人に甘えるのは上手だけど、相談するのには向いてない。


 話を聞いたらパニックになって、真子姉か和美姉に相談するに決まってる。


 そして、ブチギレられる。


「詰んだ……」


 カラダ中から力が抜ける。


 もうなにも考えられない。


 というか、考えたくない。


 ボーっと天井を眺める。


「あっ」


 適任者がいるじゃん。


 なんで天井が答えをくれたのかは謎だけど。


「恵麻姉だ」


 あの人しかいない。


 メンバーに相談できないんだもん。


 勿論、プロデューサー含め運営にも。


「経験者だし」


 ゆーちゃんは不倫したわけではない……はずだけど、妊娠したのは同じ。


 恵麻姉も子どもを堕ろさないって言ってたし。


 親御さんを頼りながら、育てるらしいし。


 よしっ、思い立ったら即行動。


 恵麻姉に相談しよう。


 元メンバーからの電話に出てくれるかわからないけど。

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