第6話 憎悪

「図星だよね」


「……」


 黙っていても伝わるぐらい、私たちは共に過ごしてきた。


 だから、この沈黙は無意味。


「幼馴染の男の人と結婚して育てればいいじゃない」


 震える手をテーブルの手で抑える。


 昔からのクセ。


 感情が高ぶると勝手に手が震え出す。


「結婚はしたくない。そもそも男の人嫌いだし」


 アイドルがなに言ってんだ。


 と思うけれど、そういえばそうだった。


 以前、「仕事とはいえ、握手会で男の人と握手するの嫌なんだよね」と話していたのを思い出す。


 大して昔の話じゃないはずなのに、遠い記憶に感じる。


「私を巻き込まないでよ」


 押し殺していた感情を無理矢理引っ張り出された腹いせ。


 私は俯いて、愛しい彼女と目を合わさない。


「私に対して結構キツイ口調になったのは、アイツへの嫉妬からでしょ?」


 優しい口調。


 そうだよ、ゆーちゃん。


 貴女が妊娠したと聞いてから、はらわたが煮えくり返る思いだった。


 カラダ中の血が沸騰している気分。


 相手の男への嫉妬、怒り。


 嫌悪。


 私だけのゆーちゃんだと思っていたのに。


 貴女の傍にいるのは私だと思っていたのに。


 そんな思いを殺して話を聞いていた時間は無駄だった。


 こうして暴かれてしまったのだから。


「巻き込むよ。私を心の底から愛してくれるのは、あーちゃんだけだもん」


 だったらっ。


「だったらどうして男と寝たのっ」


 私の想いを踏みにじる行為をしたの。


 悔しくて悲しくて叫んだ。


 それは不十分な思いの発散で。


 高ぶった感情が涙としてこみ上げてくる。


「ママになるのが夢だったんだもん。仕方ないじゃん」


「……仕方ない?」


 思わず顔を上げてしまった。


「うん。だって、あーちゃんとは子どもができないでしょ?」


 不思議そうに首を傾げる彼女。


 当然だよね。


 女同士じゃできないもんね。


 って、納得できるわけないじゃない。


 バカなの。

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