第3話 不自然

 思い返せば今日のライブ。


 メンバーの中で唯一150cm台の彼女は、みんなと身長を合わせるために、いつも高めのヒールを履いている。


 なのに、今日はかなり低いヒールのものを履いていた。


 他にも、柔らかい雰囲気を醸し出すオレンジベージュの髪。

 

 いつだって綺麗に染められていたのに、今は少し生え際が黒くなっている。


「いつ……いつ気がついたの」


 頭を抱えながら問う。


「ついこの間。遅れたことが一度もない生理がさ、来なくって。もしかしたらと思って検査したら」


 坦々と話す彼女の気持ちがわからない。


 こっちはパニックってるのに、どうして落ち着いていられるの。


「これ」


 ガサガサとカバンを漁りゆーちゃんが取り出したのは、

「……母子手帳じゃん」


「うん」


 テーブルの上に置かれたそれをじっと見つめ、漸く実感がわいてきた。


 嘘をついているわけでもない。


 彼女は本当に、妊娠してしまったんだ。


「相手は」


 否定しようのない事実を突きつけられて冷静になった頭。


「幼馴染」


「……そう。相手には伝えてあるんだよね?」


「伝えてないよ」


「は?」


 己の片方の眉が勝手に吊り上がる。


「なんで」


「言える訳ないじゃん。私、アイドルだよ」


 それをアンタが言うか。


 アイドルなのに、男と寝て妊娠したアンタが。


 いや、別に恋愛しちゃいけないわけじゃない。


 デメリットのことを考えるならしない方がいいけど。


 隠し通せるなら、したっていい。


 私はそう思ってる。


 でも、

「それじゃあお腹の子、どうするの」

 アイドルを続けたいなら選択肢は一つだけだ。

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