第2話 冗談でしょ?

「はい、どうぞ」


 炭酸が好きな彼女のために、私はいつだって冷蔵庫にストックしている。


 よく遊びに来るからね。


「ありがとう」


 笑顔。


 あのねえ、ゆーちゃん。


「どうしたの。笑顔が引きつってるよ」


 口角がピクピクと痙攣している。


 指摘をすれば、

「うん……」

 彼女は目を伏せた。


 そんな顔、久しぶりに見た。


 いや、そこまで久しぶりじゃないか。


「取り敢えず飲みな」


「うん」


 恵麻えまねえが辞めたときも、彼女は落ち込んでいた。


 あのときと同じような顔をしている。


「で、なにがあったの」


 ゆーちゃんが一口飲んだことを確認してから声をかけた。


 少しは気持ちが落ち着いただろうか。


「……最近、恵麻姉と連絡取ってる?」


「え?」


 予想の斜め上を行く言葉に戸惑う。


 なんで今、恵麻姉の話?


「全然してないよ」


「そっか……そうだよね、あんな辞め方したんだもんね」


 相変わらず暗い顔。


「マジで一体どうしたの」


 困惑。


 戸惑いで心がいっぱい。


「あのね」


 ぐいっと炭酸を一気飲みしたゆーちゃん。


 そんなに飲んだらゲップ出るでしょ。


 場の空気に似合わないことを考えていると、

「あのね」

 顔を上げ、真剣な目で私を見ながら彼女が声を発した。


「うん」


 ごくり、と生唾をのむ。


 どうしてこんなに緊張してるんだ。


「あーちゃんに初めて話すし、他のメンバーには言わないでほしいんだけど」


 心の中がザワザワする。


「うん」


 じっと彼女の目を見つめ返す。


「私ね……妊娠してるの」


「……は?」


 頭が真っ白になる。


 かける言葉が思い浮かばない。


 待って、え、どういうこと。


「にっ、妊娠? 冗談でしょ。恵麻姉がやらかしたこと――」


「忘れてないよ。冗談でもないよ」


 なんとか言葉を紡いだ私の言葉は、真剣な口調で遮られた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る