開幕

第1話 二人の絆

 恵麻えまねえが辞めさせられてから4カ月が経った。


 離れていったファンは少しずつ戻ってきてくれている。


「あーちゃん、相談したいことがあるんだけど……この後暇?」


 毎週末行っている定期ライブの後、ゆーちゃんが真剣な表情で話しかけてきた。


 目を伏せ、落ち込んでいるようにも見える。


 ライブ後って大抵みんな疲れてるんだけど、ただ疲れてるってわけじゃなさそう。


「うん、いいよ。いつものご飯屋さんでいい?」


「えっと……できればあーちゃんの家がいいんだけど」


「ん? そっか。いいよ」


「ありがとう」


 ほっとしたのか、いつも通りの可愛い笑顔を見せてくれた。


 木島夕奈ゆうな


 ちょっと丸顔で、高校を卒業したというのに中学生、もしくは小学生に間違われる彼女。


 お店を嫌がったってことは、他人に聞かれたらマズイことだな。


 内容を想像しながらさっさと荷物をまとめる。


「行こうか」


「うん」


 私の後をトボトボついてくるゆーちゃん。


 元気がない。


「家、冷凍食品しかないけど……なんか買っていく?」


「ううん、別にいい」


 こりゃー相当深刻な悩みっぽい。


 だってこの子、うちに来るときは必ずコンビニかスーパーに寄って食料を買うもん。


 自分一人じゃ抱えきれなくなった感じか。


 こうしてメンバーから頼られることは嬉しい。


 真子まこ姉は怒りの沸点が低いから、割と相談ごとは私に回ってくる。


 特にゆーちゃんは、同い年ということもあって一番仲が良く、誰よりも相談に乗ってきた。


 しょうもないことでも。


 恵麻姉と真子姉が支え合ってきたように、私たちもいつだって支え合ってきたんだ。

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