脱退 2

「なんでアンタは落ち着いてられるんっ。なぁ恵麻、お前辞めろ。迷惑や――」


 それでも止まらない真子姉を運営スタッフが会議室から引っ張り出していく。


 真子姉と恵麻姉は10代前半からの付き合い。


 このグループができる前に、二人は別のグループに所属していた。


 そのグループが解散してうちが結成されることになって、プロデューサーが二人に声をかけた、らしい。


 一番長い付き合い。


 同い年。


 常に支え合ってきた二人。


 だからこそ、真子姉は「裏切られた」と思ったんじゃないかな。


 あの怒り方はそうだと思う。


「兎に角」


 漸く口を開いたプロデューサー。


「恵麻は自宅にて謹慎処分。グループでの活動は継続していくが、今回のことでファンが減ることは覚悟しておいてくれ」


 重かった会議室の空気が、更に重くなったのは気のせいじゃなかったはず。


 スキャンダル後、初の定期ライブはデビュー当時のようにガラガラだった。


 当面は自宅での謹慎を言い渡された恵麻姉だったけれど、収まらない炎上に運営は迅速に対応した。


 彼女は記事が出た翌週、脱退させられた。


 怒りながらも、実は裏で恵麻姉を脱退させないように運営に訴えかけていた、リーダーの町田真子まこ


 滅多に怒らない、穏やかな性格の前島和美わみ


 甘え上手な江永えながあい


 私と同じ最年少で、メンバーから末っ子として愛されている木島夕奈ゆうな


 こうして私たちは6人から5人になった。


 私たちのグループ名『薔薇のpetalペタル』。


 petalとは、花びらという意味だ。


 恵麻姉はまさしく、花びらのように散っていった。


 私にはそう感じられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る