2-3
*****
ロゼリアが家の中へ入っていくのを
(面白いなー、アイツ)
ロゼリアは興味深い人間だ。ネロが人外だと分かっても、
かつて聖竜の加護を求め、多くの人間がネロの
(しかし、魔力の暴発か……ぽんぽん魔力を放出させるのはもったいないな。あの体質、直しちまうか)
本来、人間は自身の持つ魔力の質と量に合わせて身体が成長していく。その為、子どもの頃は魔力の制御が
彼女は、体内で生成される魔力量に対して、
ネロの権能の一つ、
(
魔法を使えるようになったと気付いた時、ロゼリアはどんな顔をするだろう。
なんとなくうきうきとした気持ちになりつつ、ネロは薪を持って家の表に回った。
「ん?」
家の前に見覚えのある青年がいた。
ネロよりも少し背が高く、日に焼けた肌は健康的でなかなかの好青年だ。彼はネロを見つけると、軽く手を振った。
「よお、ネロ」
*****
「おーい、ロゼリア~」
ロゼリアがテーブルを拭き終える頃、ネロが見知らぬ青年を連れて家に入ってきた。
短い
しかし、その青年はなぜかひどく
「あら、お客様? ネロの知り合い?」
「おう。ワカって言って、向こうの村の……うぉ?」
ネロの後ろにいた青年は、まるで猫を扱うようにネロの
「ん? どうした、ワカ? わーかー?」
彼はそのまま無言でネロを外まで引きずっていき、ゆっくりと戸を閉めた。
(え、何……?)
取り残されたロゼリアは呆然と
ネロが連れてきた青年はロゼリアをじっと見ていたが、何か失礼でもあっただろうか。
ロゼリアは自分の姿を見回す。令嬢だった頃と比べて
出て行った二人の様子が気になり、ロゼリアは戸の前で耳を
そこには頭を押さえてうずくまるネロと、
「森で見つけたから拾ってきただぁ? お前みたいな
「行く当てがないって言うから拾ったんだ! 何も
「間違ってんのはお前の頭だって言ってんだよ、このドアホ!」
「あだぁっ!?」
彼の拳がネロの脳天に落とされ、ネロは再び
「どーせ、お前のことだ。『拾ったお前はオレのものだ』とか言って、半ば
大体合っているが、彼についてきたのはロゼリアの意思である。しかし、取りつく島もなく青年の説教は続く。
「大体、行く当てがないって……
「私は、捨てられた犬猫じゃないわよ!」
その言い草に思わず口を
「もうそろそろ暗くなりますし、続きは中で話されてはいかがでしょうか?」
社交界で
「申し遅れました私、ロゼリアと申します」
ロゼリアがそう
「ああ……どうもご
「あら、では、ワカというのは?」
「
なるほど、若様のワカだったのかとロゼリアが一人で
「お前な。本気で覚えてなかったのかよ?」
「
「なら、最初から名前で呼べ、コノヤロウ……!」
「あいだだだだだだだっ!」
ケインが握り潰さんばかりにネロの頭を
「と、とにかく、室内へどうぞ!」
ロゼリアが中へ入るよう
ケインは
「ねぇ、ネロ。彼はどんな知り合いなの?」
「あー……前に行き倒れているところを拾ったんだよ。ついでに二週間前までオレはアイツの村に住んでた」
ロゼリアは目を丸くする。
「村に住んでた? いつから?」
「封印から目が覚めてわりとすぐだから……二、三か月前か?」
「じゃあ、彼はネロが神様だって知ってるの?」
「さあ? 聞かれた覚えも答えた覚えもねぇし、知らん」
「ずいぶん適当ね……」
考えてみれば、彼の正体を知っていたら、こんな
(まさか、ネロに人間の知り合いがいるなんてね……)
ケインは捌き終えた肉で、料理まで作ってくれた。簡単なスープと今朝のパンの他に焼いた肉が追加されただけで
「おい、ロゼリア。オレの肉やるよ」
「いいわよ、そんな気を
しかし、せっせとロゼリアの皿へ肉を移すネロの手は止まらない。
「オレ、肉は好きじゃないんだ。若は
「あら、そうなの? ちょっと意外ね。じゃあ、代わりにお野菜をあげるわ」
「ずいぶん、
「そ、そんなことないですよ!」
まるで
「なんというか……コイツが無理やり家に引きずり込んだってわけじゃなさそうでほっとしたよ」
「は、はい……ネロはとてもよくしてくれてます」
「そうか。ならよかった。結構強引なところがあるけど、悪いヤツじゃないんだ。なんというか、世間知らずで……」
ネロとの
「ケインさんは、ネロを大切にしているんですね」
「ああ、コイツは命の恩人だからな」
照れくさそうにしながら彼は言うが、ネロはなぜか鬱陶しそうな顔をする。
「
「大したことだから感謝してるんだろ、まったく……。そういえば、ロゼリアさんもネロに助けられたんだっけ? どうして森にいたんだ?」
「えーっと、私、貴族の生まれで婚約者がいたのですが、私の
もちろん、婚約者が第一王子で、国外追放を言い渡されたということは
「国外で暮らすことになって、移動していた馬車が盗賊に襲われたところを、ネロに助けてもらったんです」
ロゼリアがたどたどしく言葉を選びながら身の上を語ったのに真実味があったのか、ケインは
「なるほど、ロゼリアさんも大変だったな」
「はい。ネロに会えたのは幸運でした」
事情が事情なだけにケインはそれ以上
「ロゼリアさんもいるなら、ちょうどいいか」
「ちょうどいい?」
ロゼリアとネロが首を傾げると、彼は言った。
「実はネロに頼みがあってさ、また村に来てもらえないか相談しに来たんだ。最近、
「別に村とここを往復すりゃいいじゃん」
野菜を
「あのな、お前がいない間にロゼリアさんに何かあったらどうするんだ? こんな森に女性が一人でいたら、
「危険は強盗だけじゃない…………はっ!」
ネロはロゼリアを一瞥した後、カッと目を見開く。
「魔力の暴発で家が
「やけに具体的な死因を並べないで」
実際にやりかねないので余計に
「そうだ。村にいれば人目もあるし、危険は少ないだろ?」
「あー……確かに……」
ネロは低く
「ロゼリア、移住するぞ」
こうして、家主の決定により、ロゼリアはケインの村へ移住することになったのだった。
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