2-2
*****
食事が済んだ後、ネロはロゼリアに瘴気を寄せ付けない加護を
不自然過ぎる静けさに、ロゼリアは不気味さを覚える。しかし、数歩先を歩くネロから
頭上に広がっていた青空がだんだん黒みを帯びていき、しおれた植物が目立ってくる。
さらに森の奥へ進むと、周囲は
(ネロの加護があるから特に
前を歩くネロがそのまま瘴気の中に
「ここら辺でいいか。じゃあ、魔力をもらうぞ」
「ええ、でも、魔力の
他者に魔力を与える方法なんて聞いたことがない。もし、それが可能ならロゼリアは有り余った魔力をとっくの昔に
(一応、
『
「あー、一番手っ取り早いのはハグか?
ネロが「さあ、来い」と言わんばかりに
それは大きな
「……ロゼリア?」
「ハグ……? 肌……? 面積? ん? え?」
いきなり淑女にはハードルが高いことを要求され、頭が混乱してしまう。
「落ち着け落ち着け。それは効率面の話であって、手にちょっと触れるだけでも大丈夫だ。後はオレが適当にもらうから」
「それを先に言ってちょうだい! びっくりするでしょう!?」
どうやらここが乙女ゲームの世界だという先入観に
「ちょっとね、本当にちょっとでいいのね?」
「動揺し過ぎだろ……お前、すげぇ顔してるけど、大丈夫か?」
「大丈夫なわけないでしょ! 受け渡し中にうっかり魔力が暴発でもしたら、
「ならねぇよ!」
ネロは
「お前、いつもそんなんで
「だって……迷惑かけるじゃない」
ロゼリアだって、努力を
そこでロゼリアは感情的にならないよう自分を強く
「ネロだって、何度も家に穴が開いたら迷惑でしょ?」
「いや、別に?」
「…………え?」
「別に迷惑の
きっぱりとしたネロの答えにぽかんとしていると、彼はロゼリアの額を軽く
「あのな、ロゼリア。そもそもオレと人間じゃ、性能も感性も
「いや、人外と比べられても……」
「それに魔力の暴発ごときで迷惑迷惑って。オレなんか国を
「それは反省しなさい!」
もはや開き直っているネロの態度を反射的に
「とにかく、オレといる時はそんなことを気にしなくていいんだよ。思い切り失敗できる相手として、オレ以上に
「そ、それは……」
いない。確かにそう言える相手だ。
ロゼリアの
「だから、お前は世話を焼かれとけ。拾ったからには最後まで
「私は……捨てられた
文句を言いつつもロゼリアはネロの手を取る。ひんやりとした
「瘴気の浄化は難しいものじゃない。大地に
(綺麗……
ロゼリアの身を包んでいた光はやがて
「きゃぁ……!」
光と風はロゼリアとネロを中心に広がり、
「これが……聖竜の浄化の力……?」
急に足の力が抜け、ロゼリアはその場にへたり込んだ。両手が小さく震えている。身体に
(なんか、不思議な感じ。身体の内から温かくなるような……それでいて軽くなる感じ)
不思議な感覚にロゼリアが
「思ったより
「上手くいったって……ずいぶん
「まあ、人間からもらう魔力だしな。実際、
「すごい? 私の魔力が?」
「そう、お前の魔力が」
ほら、と言われてロゼリアは改めて周囲を見回す。
殺伐とした
(そっか……私の魔力が役に立ったんだ)
今まで暴発させてばかりだった魔力がこんな形で役に立つとは思っていなかった。
座り込んでいたロゼリアにネロが手を
「帰るか」
「そうね」
ネロの手を取って立ち上がろうとした時、身体がふわっと
「ちょっ!?」
「魔力が急に減ったんだから、立てないだろ。大人しくしてろ」
「だ、大丈夫! 大丈夫よ!」
「さっきまでへたり込んでたヤツが何言ってんだよ」
ネロの腕から抜け出そうと必死にもがくも、身体に上手く力が入らない。それでもネロの顔が
そっぽを向かれたネロはロゼリアの
「ほ~ら、ちゃんと
ネロがわざとロゼリアの身体を頭から下へと
「きゃあっ!?」
慌ててネロの
「お~っとっとと~」
「きゃぁぁあああぁぁぁっ!」
再びロゼリアを放り出さんばかりに身体が傾けられ、ロゼリアは必死にしがみつく。
「何するのよ!」
「いや~、お前の反応が面白くてついな」
悪びれる様子もなく、笑顔を向けるネロに、どっと疲れが増す。握っていた手を放し、完全に身体を預ける形になった。
「身動きできない人間を
「神が人間を弄んで何が悪いんだ?」
「開き直るな!」
ケタケタと笑いながらネロはロゼリアをなだめると、ようやく歩き出した。そのゆっくりとした歩調は
「なんというか、ネロはなんでも楽しそうでいいわね……」
「あー? そりゃ、楽しい方がいいだろ?」
ロゼリアが見上げると、ネロはにっと口角を上げて笑ってみせた。
「何かを楽しみながら生きる方が有意義だろ。お前はなんか楽しみとかなかったのか?」
厳しい
「なかった……かしら?」
「そっか。じゃあ、これからだな」
「これから?」
「これから楽しいことを見つけていけばいいんだよ。オレはもう新しい楽しみを見つけたしな」
「何よ、新しい楽しみって」
「お前」
「わ、私!?」
予想外の返答に面食らっていると、ネロは大きく
「魔力の
「おい、なんでまたそっぽ向くんだ? まだ怒ってんのか?」
「…………違うわよ。でも、そうね。私も、ネロと一緒なら退屈しないと思うわ」
正直、この先のゲームのシナリオを考えると不安なことばかりだが、今のネロを見ていると案外どうにかなりそうな気がする。それにこの明るい性格に、ロゼリアは少しばかり救われた気分だった。
本心からロゼリアが答えると、ネロの腕にぎゅっと力が入った気がした。
「ん? ネロ?」
彼を見上げてみると、ネロは赤い瞳を瞬かせながら小首を
「んー、なんだろうな…………うん。ちゃんと最後まで面倒見るわ」
「だから、私は犬猫じゃないの!」
まったくもう、とロゼリアは呆れ交じりに言いつつも、最後には笑ってしまった。
家に着く頃には陽が傾き、空がオレンジ色に染まり始めていた。ネロは
「さーて、ぼちぼち飯と風呂の準備でもするか」
「私も手伝うわ」
ロゼリアがそう言うと、ネロは「え?」と意外そうな顔をする。
「お前、お
「やったことはないけど、さすがに何もしないでいるっていうのは気まずいのよ」
とはいえ、ネロにとって食事や風呂は娯楽の一部であり、本来必要ない。用意してくれるのは、ロゼリアに合わせているだけ。それなのに何もしないでいるというのはロゼリアの良心が許さなかった。
朝は彼がさっさと洗い物を片付けてしまったので、夕飯くらいは手伝いたい。しかし、ネロはロゼリアに手伝わせることが不安なのか、たっぷり間を
「オレは裏から
「分かったわ!」
ロゼリアは元気よく返事をし、
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