二章 捨てられ悪役令嬢、邪神と瘴気を浄化する。

2-1



 ネロに拾われた翌朝、ロゼリアはひどくうなされていた。

 あのいまいましい夜を思い出すけんらんごうなダンスホール。れいかざったしんしゅくじょ達を背に元こんやくしゃのレオンハルトがヒロインのかたいて立っていた。


『追ってがあるまでふるえて待つがいい! ふはははははははははっ!』


 レオンハルトのほこった顔と不快な笑い声にロゼリアはぐっとこぶしにぎった。


「ふっざけんじゃないわよ!」


 そうさけんだ時、ドォンというひびきと板をやぶったような音が聞こえ、目を覚ました。

 あわてて身を起こしたロゼリアがまず目にしたのは、かべにできた大きな穴といびつに切り取られた自然風景。

 そのはばはロゼリアが両手を広げても届かないほど。

 さわやかな朝のざしに照らされた森林を、ロゼリアはただながめることしかできない。


「おーい、ロゼリア。だいじょう…………か?」


 音を聞きつけたネロがしんしつに入ってくると、目の前の光景に赤い目を瞬かせた。


「こりゃ、ずいぶんと眺めのいい部屋になったなぁ……」


 のんなことを言うネロに、ロゼリアはすぐさま謝りたおしたのだった。



*****



「つーわけで、お前のりょくを大量に消費させるために、しょうじょうに行くぞ」


 とっかん作業で壁の穴をふさぎ、二人で朝食を囲み始めると、ネロがとうとつに言い出した。


「そうすりゃ、しばらく壁に穴が開くようなことにもならねぇだろ」

「本当に、朝から多大なるごめいわくを……」

「それはいいから、さっさと飯を食え」


 ぐいっとスープを差し出され、ロゼリアはうなれながらも大人しく受け取る。


(まさか、一週間前のあれを今さら夢に見るなんて……)


 しかも、ぼけて魔力を暴発させるとはない。ロゼリアは深くため息をついた。


「つかお前、いつも壁に穴を開けてんのか?」


 不意に聞かれて、ロゼリアは首を横にった。


「そんなわけないでしょう。今日は……その、夢見が悪かっただけ……」

なんなもんだなぁ~」


 ちぎったパンを口に放り込むネロにげんな様子は見られない。いくらかんような性格でもここまで平然としていられると、こちらが落ち着かない。


おこってないの? 家に風穴が開いたのよ?」

「そんなもん、想定のはんないだよ。むしろ『なんだ、こんなもんか』って感じだな」

「そ、そう……?」


 一体、どれほどの規模を想定していたのだろうと思いながら、ロゼリアも出されたパンを口に運んだ。


しい……っ!」

「そりゃ、よかったわ」


 じゃしんせいりゅう?)お手製のパンは黒パンではなく、丸い白パンである。おまけに美味しいときた。いっしょに出されたスープもぼくな味わいだが、十分に美味しい。


「本当に人間みたいな生活をしているのね……」


 昨日、ロゼリアはネロと共生する為に、たがいの価値観をすり合わせた。意外にも彼は人と似た生活をしている。本来、人ではない彼は、食事やすいみんひっではないということだが、人間の生活習慣をらくとして取り入れているらしい。


「まあな。料理もおもしろいし、きらいじゃねぇよ」


 うれしそうなその姿に、ロゼリアの知るラスボスのおもかげはない。平和でありがたいことである。


(それにしても、ずいぶん世話を焼いてくれるのね。もちろん、魔力をもらえるっていう対価があるからだろうけど……でも、それ以上に私の魔力で迷惑をかけているのよねぇ……)


 昨日は食事やの用意までしてくれ、今日はロゼリアが壁に開けた穴を直してくれた。

 どう考えたってネロにかかる負担が大きい。このままネロのこうに甘えていては、真の意味でちくになってしまう。


(ただのそうろうじゃいけないわ。家事を覚えよう。瘴気の問題がなくなれば、国を出て一人で生きていくことになるんだし、覚えて損はないはず。せめて、人並みに生きていけるようにならないと……)

「おい、ロゼリア。すげぇ深刻な顔してどうした?」


 どうやら顔に出ていたらしい。ロゼリアは静かに言った。


「私、家畜から人間になれるようにがんるわね……」

「どう見ても人間だから安心しろよ。おかわりもあるけど、食うか?」

「いただくわ!」


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