1-3
*****
今思えば、
気弱なロゼリアの父は、事態を知ってその場でぶっ
一方、
今回の
正直に言うとロゼリアは、一連の出来事に
ここはもう、心機一転して国外でのびのびと暮らしてやろう。そう息巻いていたにもかかわらず、国を出る前に盗賊に襲われる始末。
そして、ロゼリアは今、さらなる受け入れがたい現実に直面していた。
「つまり、婚約者がお前と別れる為に無実の罪を
「ええ、我ながらそう思うわ……でも、
ロゼリアは今、『聖竜姫伝』のラスボス、ネロの家で
手厚いもてなしに加え、ネロの気安い態度に
ちなみに、前世の話や聖竜姫の話はややこしくなる為、
「相手の女も相手の女よ! 普通、人の婚約者を横取りする!?
どんっとロゼリアがテーブルを叩くと、ネロは「人間なのに
「まあ、これでも食って落ち着けよ」
「……ありがとう」
目の前に出された木苺をロゼリアは大人しく口に運ぶ。酸味を
「いくらなんでも、犯罪者に仕立て上げなくてもいいじゃない……婚約解消の申し出があれば、
消え入りそうな声はわずかに震えていた。
元々レオンハルトとは仲がよかったわけでもないし、彼が他に本命を作っても構わなかった。どちらかといえば、ロゼリアは王妃の座にこだわりがない。別の女性を王妃に
(なんで好きでもない男に当て馬同然に捨てられるのよ! ああ~っ! あの時、もっと冷静になっていれば、私から婚約解消を言い出せたのに!)
今となっては後の祭りだ。
「むしろ、そんなヤツに捨てられてよかったじゃん」
「……え?」
顔を上げるとネロは
「男なんて
まさか
「あ、ありがとう……」
「おう、気にすんな」
そう言って、自分の口に木苺を放り込んでいるネロだが、ゲームでは
しかし、今目の前にいる男は、ロゼリアを自分の家に招くなり「風呂に入れ」とせっつき、風呂から上がれば「飯だ」と
この
「ねぇ、ネロ。自分のこと神様って言ってたけど……もしかして、あの邪神なの……?」
「ん? あのってどのだ?」
小首を
「恐ろしい漆黒の竜の姿をし、
「ああ、オレだな?」
「吐息には
「オレだな!」
「そうして、二百年前に聖竜姫に封印されたのも?」
「オレだ!!」
屈託のない笑みを浮かべて自分を指さすネロに、ロゼリアはそっと頭を
「信じられない……見ず知らずの人を家に招くどころか、お風呂と食事まで用意する邪神がどこにいるのよ!」
「人の
真正面から正論を突き付けられて、ロゼリアは面食らってしまう。
「そ、それは感謝してるけど……」
伝承通りの邪神であるなら、彼は
「そもそも、なんで初対面の相手にここまでよくしてくれるのよ」
木苺を
「なんでって、オレのものをオレが大事にするのは当たり前だろ?」
「―― ……?」
ロゼリアは彼が言わんとした意味をじっくり考えてみたが、それでも理解できなかった。
「私、貴方のものになった記憶がないんだけど?」
「あ? だってお前、追放――ようは捨てられたんだよな?」
「認めたくないけど、そうね」
「で、オレに拾われたよな?」
「家に連れてこられたことを言うのなら、そうね」
「じゃあ、拾われたお前はオレのものだよな!」
太陽のごとく
「いやぁ~、助かった! 封印の力が弱まってたのか、目が覚めたはいいものの、魔力の回復が
あー、よかったよかったと語る彼から、思わず椅子ごと
「ま、まさか……私を拾ったのって……」
「お前から魔力を補充する為だけど?」
屈託のない笑顔が
「た、確かに私の魔力は有り余ってるけど、私から魔力を補充してどうするの? に、人間に
「なんで人間に復讐するんだ? 瘴気を浄化する為に必要なだけなんだが?」
「…………?」
ロゼリアの脳内に
そもそもロゼリアが知る限り、この国で瘴気を浄化できる神は一柱だけ。
「瘴気って浄化できるものなの? まるで聖竜みたいね、な~んて……?」
皮肉でもなんでもなく、ほんの冗談のつもりで軽口を叩くと、ネロは赤い瞳をぱちくりさせた。
「まるでも何も、オレがその聖竜なんだが?」
「え………………ええぇえぇぇぇえええええええええっ!?」
ロゼリアは声を上げて身を乗り出した。
彼の発言はゲームシナリオどころか、この国の在り方を
「なんで邪神が聖竜に!? いや、逆!? なんで聖竜が邪神に!? 国の瘴気は人間を恨んでる貴方が生み出しているものじゃないの!?」
「とんでもねぇ言いがかりだ。そもそも瘴気は大地の下から勝手に出てくるもんだろ?」
ネロ
「つまり、瘴気の発生は自然現象ってこと!?」
「そういうこと。オレの役目は『生命の息吹』の流れを管理すること。瘴気の浄化もその
聖竜は瘴気から国を守る神聖な存在だと幼い頃から教え込まれていたが、考えてみれば聖竜が国を守る義理などない。おそらく、人間側が勝手に都合よく
(なるほど、邪神と戦ったのが聖竜ではなく聖竜姫だったのも
ネロの話が本当なら、邪神の正体を知っていた聖竜姫は彼を
「だったら、なんで邪神になって暴れたのよ……っ!」
「さあ? すげぇムカつくことがあったのは覚えてるけど、何にムカついてたのかは忘れた」
あっけらかんと答えるネロにロゼリアは頭が痛くなる。一番
「忘れたって……聖竜が邪神になるって一大事よ! それに今の貴方の見た目だって、どちらかって言えば邪神っぽいし! どうなってるわけ!?」
「あのなぁ~……そもそも、聖竜も邪神もお前ら人間の基準で付けた
「え?」
驚くロゼリアにネロは
「お前らが言う聖竜の浄化の力も、邪神の瘴気を
それを聞いたロゼリアは目から
「えーっと、それはつまり……ネロに悪い心が芽生えたり、瘴気に
「オレの存在や能力が変容したかっていう意味なら、暴れた時のオレと今のオレでは何一つ変わってないぞ」
「な、なるほど~……」
神聖な存在が
「じゃあ、その見た目がいつもの貴方ってこと?」
容姿を
「あー、どうだろうな? 今のオレは封印の
(な ん だ と !?)
聞き捨てならないセリフにロゼリアは身を乗り出す。
「浄化の力が弱まってる!?」
「おう、能力が
ネロはそう言うと、にかっと笑った。
「つーわけで、お前、行く当てないんだろ? 衣食住のうち、食と住は保障してやるから、その代わりに魔力くれ」
あまりにも無邪気に言うネロに、ロゼリアは毒気を抜かれた。
「あのね……ここはまだレイデル国内でしょ? 私、陛下の命令でこの国から出て行かなくちゃいけないのよ」
「そんな人間の事情なんて知らん」
「いや、知らんと言われても……」
「そもそも、この国は常に『生命の息吹』の
瘴気の発生
何も答えないロゼリアを見て、
「つまり、この国はオレのものも同然! おまけに国王の代わりなんざいくらでもいるけど、オレに代わりはいない。よって、オレは国王より
堂々と言い切ったネロに、ロゼリアは開いた口が
――天上天下
どうやら彼の前では、人の
(というか、聖竜の補助なら悪役令嬢の私よりもヒロインのアイラの方が適任でしょ。アイラと引き合わせた上で、ネロを上手く導いて……)
そう考えたところでロゼリアは内心で首を横に振った。
(いやいや、よく考えてもみなさいよ。私はレオンハルト達にはめられて断罪されたのよ? もしこの世界がゲームシナリオに沿うようになっているとしたら、ネロはヒロインと出会った瞬間に邪神扱いされ、討伐対象にされちゃう可能性もあるわ。それだけはダメよ!)
ヒロインが聖竜と邪神が同一の存在であると気付くまで、二人を会わせるのは危険だ。
聖竜がいなくなれば、この国は滅びる。なんとしてもそれだけは
ロゼリアがすべきことは、ヒロインと出会うルートに進まないように気を付けつつ、ネロの浄化の力がこれ以上弱まらないよう魔力を与えながら、ネロに瘴気を浄化してもらうことである。
(もし、この国から瘴気が消えたら…………多少シナリオがくるっても真のハッピーエンドになるのでは?)
『聖竜姫伝
脳内でゲームのスタッフロールが流れ、最後にタイトルロゴがでかでかと浮かんだところで、ロゼリアは我に返る。
(いやいやいやいや! よく考えるのよ、ロゼリア! 魔力をあげる代わりに
しかし、今のロゼリアは他に身を寄せる場所がない。国やネロのことを考えると利害は完全に
(…………えぇいっ! なるようになれ!)
半ば投げやりに腹を
「安心しろよ、拾ったからには最後まで面倒を見てやる」
「私は…………捨てられた
ロゼリアの
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