第15話 ふたり

真壁は敬子を支える男になりたいと、病院を辞めたのだった。

病院を辞める時は、己自身が敬子を受け止めるのに未熟なこと、プロの精神科医としてもまだまだ駄目だと思ったこと、敬子に会うと本当の自分が出てきそうで怖かったのだ。

その後は別の病院を二ヶ所変わり、己を磨き、やっと敬子に顔向け出来ると思い、病院に戻ってきた。

真壁自身も敬子に愛しい気持ちがあった。敬子の気持ちも分かっていたから、病院を去ったのだった。


そしていよいよ診察日が来た。

敬子はかなり動揺していた。

「春日井さん、診察へどうぞ」

看護師に名前を呼ばれ、ゆっくりと診察室に入った。

「どうぞ」

真壁が椅子に座るように促す。

「調子はどうですか?」

「最悪…です。でも、また先生に会えたこと、すごく嬉しい。こうして同じ空気を吸えて、先生の声が聞けて、先生の顔が見ることが出来て、私今とても動揺しているけど、ずっとずっと待っていました」

敬子は揺れる熱い想いを真壁にぶつけた。

「奥さんとは上手くいっていますか?反対されなかったですか?」

「ええ、まあ、大丈夫ですよ」

「お子さんは?引っ越したって聞きましたが、学校とかお友達とか大丈夫でしたか?」

「子供は…その場所に慣れるのは早いですから」

「じゃあ、良かった…」

敬子の瞳から次々と涙が溢れ止まらない…。

「私、先生に恥ずかしくないように、いっぱい本を読んだり、ネットでカウンセリング講座も受けて、自分の病気を見つめ直して頑張ってきました。先生のこともずっと忘れられなくて、なかったことにしようと何度も思ったけど、やっぱり出来なかった…。先生、私、主人のことは愛しています。でも先生も大切な人です」

「全てお見通しですよ」

「ですよね…」

ふたりは笑顔で自然に抱きしめ合い、お互いの温度を確かめた。それは真壁も敬子も待ち続けたことだった。




おわり

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ふたり @sekai_18

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