2
それから、ダイナブックの電源を入れて『祇園祭殺人事件』の原稿を書き始めた。やる気がないよりは、何でもいいからキーボードで文字を打っているほうがマシだと思ったからだ。それと、古本屋さんの店主である宮子さんと話しているうちに、アタシのやりたい事がなんとなく分かったからというのもある。しかし、このタイミングで「祇園祭で殺人事件が起こる小説」を書いてもいいのだろうか。――アタシは、正直不安だった。そういえば、あの事件以来殺人事件の方は止まっているな。矢張り――この事件は迷宮入りなんだろうか? それとも、別の狙いがあるのか。
原稿を書いてるうちに、夕方になっていた。そういえば、そろそろ
アタシの目に留まったのは――紅い鳥居が目を引く
全部の山鉾を見終わって、アタシは大船鉾を見ようと思った。――なんか、悪寒がする。誰かとすれ違ったような――そんな気がした。すれ違った「誰か」は、明らかに悪意というか、殺意を持った、そんなオーラを纏っていた。もしかしたら――さっきすれ違った人が「魔王」なのだろうか? あまり考えたくないが、「魔王」の正体は――もしかしたらアタシが善く知っている人物のような気がする。なんというか、小学生の頃から知っているような、そんな気がする。しかし、悪寒はすぐになくなった。――気の所為か。
アパートへ帰る前に、アタシはコンビニで焼きそばとエナジードリンクを買った。なんとなく焼きそばが食べたかったのだ。それも、インスタントの焼きそばじゃなくてちゃんとした焼きそばである。というか――インスタント麺ばかり食べていると不健康だ。たまにはちゃんとしたモノを食べないと。
アパートに帰って、アタシはメールを開いた。――飯室刑事からメールが来ている。
京都府警察捜査一課の飯室夏彦です
まあ、何度も会っていますから分かりますよね
少し――恵令奈さんに関して気になることがあってメールしました
恵令奈さんは、一連の事件について「自分の小説をトレースしている」と
言っていましたよね
しかし、それは本当なのでしょうか?
もしよろしければ、今まで恵令奈さんが書いた原稿を
送ってもらえると嬉しいです
それでは 京都府警察捜査一課 飯室夏彦
――仕方ないな。ZIPファイルで圧縮して送ってやるか。とりあえず、アタシは『道頓堀の殺人』から『サッカースタジアム殺人事件』までのすべての原稿を、メールに添付して送信した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます