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 それから、ダイナブックの電源を入れて『祇園祭殺人事件』の原稿を書き始めた。やる気がないよりは、何でもいいからキーボードで文字を打っているほうがマシだと思ったからだ。それと、古本屋さんの店主である宮子さんと話しているうちに、アタシのやりたい事がなんとなく分かったからというのもある。しかし、このタイミングで「祇園祭で殺人事件が起こる小説」を書いてもいいのだろうか。――アタシは、正直不安だった。そういえば、あの事件以来殺人事件の方は止まっているな。矢張り――この事件は迷宮入りなんだろうか? それとも、別の狙いがあるのか。

 原稿を書いてるうちに、夕方になっていた。そういえば、そろそろ後祭あとまつりの宵宮だったな。前祭よりは規模が小さいけど、矢張り前祭と後祭を含めて祇園祭であるという部分は大きい。アタシは、後祭で巡行する山鉾を見に行った。

 アタシの目に留まったのは――紅い鳥居が目を引く八幡山はちまんやまだった。そういえば、八坂神社があるのにどうして石清水八幡宮いわしみずはちまんぐうを祀った山鉾があるのだろうか? 少し不思議だな。それはともかく、アタシは山鉾をすべて見ることにした。

 全部の山鉾を見終わって、アタシは大船鉾を見ようと思った。――なんか、悪寒がする。誰かとすれ違ったような――そんな気がした。すれ違った「誰か」は、明らかに悪意というか、殺意を持った、そんなオーラを纏っていた。もしかしたら――さっきすれ違った人が「魔王」なのだろうか? あまり考えたくないが、「魔王」の正体は――もしかしたらアタシが善く知っている人物のような気がする。なんというか、小学生の頃から知っているような、そんな気がする。しかし、悪寒はすぐになくなった。――気の所為か。

 アパートへ帰る前に、アタシはコンビニで焼きそばとエナジードリンクを買った。なんとなく焼きそばが食べたかったのだ。それも、インスタントの焼きそばじゃなくてちゃんとした焼きそばである。というか――インスタント麺ばかり食べていると不健康だ。たまにはちゃんとしたモノを食べないと。

 アパートに帰って、アタシはメールを開いた。――飯室刑事からメールが来ている。


  京都府警察捜査一課の飯室夏彦です

  まあ、何度も会っていますから分かりますよね

  少し――恵令奈さんに関して気になることがあってメールしました

  恵令奈さんは、一連の事件について「自分の小説をトレースしている」と

  言っていましたよね

  しかし、それは本当なのでしょうか?

  もしよろしければ、今まで恵令奈さんが書いた原稿を

  送ってもらえると嬉しいです

  それでは 京都府警察捜査一課 飯室夏彦


 ――仕方ないな。ZIPファイルで圧縮して送ってやるか。とりあえず、アタシは『道頓堀の殺人』から『サッカースタジアム殺人事件』までのすべての原稿を、メールに添付して送信した。

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