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 飯室刑事がすべての原稿を読み終わるのは時間がかかるだろう。そう思ったアタシは、とりあえずコンビニで買った焼きそばを食べることにした。腹が減ってると、やる気が出ないのだ。どこかのヒーローは顔が濡れると力が出ないと言うが、アタシだってハラペコだと何も出来ない。結局のところ、人間は食欲と睡眠欲、そして性欲には抗えないのだ。まあ、アタシは性欲を持て余したことなんて無いのだけれど。というか、「そういう遊び」のやり方が分かんない。――アタシが男性だったら「童貞」って馬鹿にされるヤツだな。アタシは女性だから――さしずめ「処女」と言ったところか。30代にもなって処女――笑わせるな。そろそろ恋人ぐらいは作るべきなんだろうか。しかし――アタシはそういうのが苦手だ。陽キャだし、周りからはチヤホヤされるコトも多かったけど、正直アタシはそういうのが嫌いだった。所謂コミュ障だ。陽キャでコミュ障って、なんだか矛盾してるような気がするけど、それが事実だから仕方ない。――アイツに連絡するか。


  あのさ、元気?

  例の事件のコトで少し聞きたいんだけど、アンタは何か知ってんの?

  もし知ってたら、ヒントを教えてちょうだい。

  それじゃ


 ――これでヨシ。既読はすぐに付いたから、多分そのうち返事が来るだろう。それまでは、とりあえず『祇園祭殺人事件』の原稿を書き続けるか。なんだかんだ言って25枚まで書き終わった。書き出したら早いんだけど、書き出すまでのモチベーションというのは中々上がらない。まあ、いざというときはエナジードリンクでも飲めば良いんだけど。そして、作業用BGMとしてDo As Infinityのデビューアルバムである『BREAK OF DAWN』を聴いていた。原点なぁ。アタシの小説としての原点って、なんだろう? 多分、横溝正史大先生の小説をベースにした二次創作だったかなぁ。とても人に見せられるデキじゃなかったのは言うまでもないんだけど、アタシの中で初めて「小説」というモノを書いたような気がする。確か――高校2年生の頃だっただろうか。そして、アタシはその小説を読んでくれた異性から初めてプロポーズされたような気がした。名前は――小倉礼次おぐられいじだったか。なんか、いい名前だと思ってた。――スマホが鳴った。


  ああ、エレナか。久しぶりだな

  オレも「魔王」の事件について追っている

  でも、お前と同じでオレも事件の推理に行き詰まっているところだ

  力になれなくてすまない


 確かに、礼次くんから返事が来た。確か、アイツも探偵紛いのコトをやっていたような気がした。ちなみに、本業はシステムエンジニアだ。プログラミングの傍らで事件に対する推理をしているらしい。住んでいる場所は、神奈川の川崎ってところだったな。――フロンティアーレのホームタウンがあるところか。そういえば、等々力競技場の前で首吊り死体が見つかったのも「魔王」による事件だったか。まあ、「魔王」の正体が礼次くんだとは思いたくないし、礼次が一連の事件の犯人だとしたら、その頬を思いっ切りビンタしたい。――とりあえず、その可能性は一旦捨てよう。

 なんか眠くなってきたから、ベッドに入って眠ることにした。


 ――その日は、珍しく夢を見たような気がした。

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