Extra Phase 『祇園祭殺人事件』①

 祇園祭というのは、宵宮と山鉾巡行だけが祇園祭というわけではなく、1ヶ月という長い期間をかけて行われる。でも、なぜか宵宮と山鉾巡行だけ見に来る人が多い。それはどういうことなんだろうか。私は謎だった。かくいう私も京都に引っ越して10年ぐらいしか経っていない。ちなみに京都に住む前は神戸に住んでいた。

 私の職業はフリーランスのジャーナリストである。なんというか――ちょっと下世話な記事を中心に扱うジャーナリストと言えば良いんだろうか? 芸能人のゲス不倫とか、裏の顔とか、そういうたぐいの話を中心に扱っている。その一方で探偵という顔も持っている。というか、最近ではむしろ探偵としての仕事の方が多いかもしれない。鳥取砂丘の事件を解決してから、特に探偵としての仕事は増えてきた。お台場のテレビ局に出演したこともあった。しかし、これで良いのだろうか? 私は正直疑問だった。

 さて、祇園祭に関してだが、祭りが始まる1週間前に友人からある依頼を受けた。友人の依頼によると「祇園祭の期間中に33人もの人を殺す」との脅迫文がSNS上に流れてきたとのことだった。最初は誰かによるジョークか悪戯だろうと思っていたが、7月10日に不自然な事故死が起こったことによって、脅迫文は現実味を帯びるようになった。脅迫文の主は自らを「第六天魔王」と名乗っていた。まるで、織田信長だ。

 その事故とは、山鉾を組み立てている間に発生した。最初は不注意による転落死だと思われていたが、どうも様子がおかしい。遺体の胸部に斧のようなモノが刺さっていたのだ。私はこれを――蟷螂山の見立てだと思った。蟷螂山はカマキリがモチーフとなっている山鉾であり、ことわざにも「蟷螂の斧」という言葉があるぐらいである。つまり――犯人は強者に対して自らの腕を振り下げる――カマキリである事を宣言したかったのだろう。

 それから――京都府警察では厳戒態勢の元で祇園祭が行われることになった。残りの被害者は恐らく32人である。これ以上犠牲者を出すわけにはいかなかったのだ。そういう事情もあって、前祭の宵宮までは平穏な日々が流れていた。私の心配は、杞憂に終わったかに見えた。しかし、宵宮で殺人事件が起きてしまう。しかも、公衆の面前でその殺人は行われた。殺人に使われた凶器は――傘だった。犯人は傘で相手の目を潰して、そして殺したのだ。これは四条傘鉾の見立てだろうか? カマキリと傘の共通点といえば、前祭りの山鉾巡行で巡行する山鉾である。ならば――最終的には船鉾に見立てた殺人が起こってもおかしくない。しかし、山鉾巡行の先頭を走るはずの長刀鉾を見立てた殺人はまだ起きていない。一体、どういうことなんだろうか。色々考えても仕方がないので、私は京都府警察による「祇園祭連続殺人事件」の捜査本部へと向かうことにした。

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