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 四条河原町は、相変わらず混んでいる。夕方だから余計とそう感じるのだろうけど、市バスやタクシーが犇めき合っている。アタシは、駐輪場にバイクを止めて阪急京都河原町駅へと向かう。そして、なんとなくエディオンの方へと向かった。特に理由なんて無いのだけれど、今の自分に足りてないモノが分かるような気がしたからだ。テレビ売り場に向かうと、相変わらず「魔王」による犯行についてコメンテーターが議論を繰り広げている。そんなコトをしても無駄だと分かっているのに。マスコミがとやかく囃し立てたところで、何か変わる訳じゃない。変えてくのは、アタシたち一般人なのだから。――ニュース速報? 一体、何なんだ。

「ここでニュース速報です。京都市四条河原町の家電量販店で、男性の遺体が発見されました。遺体はパソコン売り場で見つかっており、遺体の顔には布のようなものがかけられていました」

 ――「魔王」か! アタシは急いでパソコン売り場の方に向かった。パソコン売り場には、北大路警部や飯室刑事の姿がいた。

「ああ、恵令奈さんですか」

「ここで遺体が見つかったって、本当ですか!?」

「残念ながら、本当だ。遺体には布がかけられているが――これ、善く見たらペルシャ絨毯のような紋様になっている。君の証言が正しければ――これは『月鉾の見立て』だろう」

「そうなりますね。月鉾にはペルシャ絨毯が纏ってありますからね」

「それで――私はどうすれば良いんでしょうか?」

「そうだな――出来れば事件に関わるのを止めてほしい。これは君のような一般人が関わる事件ではない」

「ですよね。私が関わるような事件じゃないですよね」

 正論を言われてしまうと、反論なんてできるはずがない。アタシは、歯ぎしりをしていた。歯ぎしりをしたところで事件が解決する訳じゃないのだけれど、悔しかったのだ。

 とぼとぼと事件現場からきびすを返そうと時だった。飯室刑事がアタシに対して声をかけてきた。

「恵令奈さん、矢っ張り悔しいんですよね?」

 答えは、分かっていた。

「そりゃ、アタシだって悔しいですよ。『もう事件に関わらないでほしい』と言われたら当然じゃないですか」

「まあ、北大路警部の言葉は絶対ですし、こればかりは仕方ありませんよ」

「そうですよね。アタシ、矢っ張り生きるべき人間じゃないんでしょうか?」

「そんなことはないですよ? 確かに、恵令奈さんの推理は的を射ていた訳ですし」

「でも、事件は防げなかった。アタシは探偵にすらなれないんですよ」

「まあ、気を落とさずに。とりあえず、今夜どこかに飲みに行きましょう。――そうですね、四条河原町で美味しい居酒屋知っているんですよ」

「それって、アタシの奢りですよね?」

「そうですね。僕が奢っちゃうと経費として計上されてしまいますから……」

「仕方ないな。やけ酒だ!」


 ――もう、どうなっても良かった。

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