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 マクドから出ると、雨が降っていた。アタシは傘を持ってくるのを忘れてきてしまった。まあ、バイクで来ているから当然だろう。仕方がないので、アタシはずぶ濡れになりながらバイクに跨って、そしてアパートへと戻った。この時期の京都は度々ゲリラ豪雨に見舞われるコトが多いから困る。まあ、内陸にある街だから仕方がないのだけれど。そして、アパートに入って真っ先にシャワーを浴びることにした。

 シャワーを浴び終わって、アタシは改めて事件の整理をすることにした。現時点で山鉾を見立てた殺人事件は2件発生している。1件目は言うまでもなく長刀鉾の見立てで、2件目は蟷螂山の見立てである。前祭の山鉾は全部で23種類。仮に前祭の山鉾の見立てだとすれば、残りの殺人事件が発生する可能性があるのは21件か。――なんとしても、防がなければ。でも、アタシにできるコトは限られている。事件を推理したところで、本当に殺人事件を防げるとは限らない。――アイツの知恵を借りる時だろうか? 多分アイツもアイツでこの事件に対して興味を持っていることだろう。――いや、まだそれは早いか。それに、アイツは西宮の事件でそれどころじゃないと聞いてた。――人が燃える現象か。宮部みゆき先生の『クロスファイア』ではパイロキネシスという超能力によるトリックだったな。東野圭吾先生の『探偵ガリレオ』ではレーザー光線を使ったトリックだったか。原作は読んでないけど福山雅治のドラマで見た覚えがある。他に人が燃えるトリックとして考えられるのは――服の生地か。レーヨンや綿でできている服は静電気で燃えやすいと聞いた。――静電気か。仮に、スタンガンで帯電させて燃やしたとしたら……? そうか! それだ! アタシはアイツに連絡することにした。

「もしもし、絢奈ちゃん?」

「恵令奈、どうしたんだ。君のところでも『魔王』による事件が起きたと聞いた。それも祇園祭を狙った事件だ。――僕に知恵を借りに来たのか」

「いや、逆。アンタに知恵を与えに来たの」

「どういうことなんだ」

「西宮北口で人が燃えた事件があったでしょ。アタシ、トリック分かっちゃったのよね」

「ああ、教えてくれ」

「多分、被害者はスタンガンで帯電した状態だったのよね。ほら、綿やレーヨンで出来た服は燃えやすいって言うし」

「――それだ! 恵令奈、たまには役に立つな」

「それってアタシが『役立たず』ってコトですかー!」

「いや、そういう訳じゃないんだけどな……。それはともかく、僕も恵令奈に知恵を授けたい。祇園祭の山鉾の数は知っているか?」

「もちろん知ってるわよ。全部で33種類。そして前祭で使われる山鉾は23種類よ。それがどうしたのよ」

「殺人が起こるとすれば――残り2件だ」

「どういうコト?」

「今まで起きた事件は長刀鉾と蟷螂山だったな。これは僕の予想だけど――他に見立てで使う山鉾があるとすれば、月鉾と船鉾ふなぼこだ」

「船鉾って、最後尾を走る山鉾ね。ほら、長刀鉾が先頭で船鉾が最後なのはくじ引きなしで決まるから――くじ引きか!」

「突然どうしたんだ」

「アタシ、閃いちゃったのよね」

「くじ引きで閃くって、どういうことなんだ」

「今年のくじ引きで決まった順番は覚えているか」

「全部は覚えてないけど――2番目が蟷螂山で3番目が月鉾だったのは覚えてるわ」

「なるほど。『魔王』もそこまで狡賢ずるがしこくはないはずだ。多分、次に犯行が起こるとすれば月鉾による見立てで、次は船鉾による見立てだ。つまり、そこで殺人は打ち止めになる可能性が高い」

「それ、ホントよね?」

「本当だ。まあ、月鉾の殺人を防げるかどうかは君にかっているけどな。僕は忙しいから、これで失礼する」

「じゃあね」

 ――なるほど。月鉾の殺人を防げばいいのか。でも、どうやって防ぐんだ? ――はらり。タオルが、頭の上に落ちてきた。そう言えば、月鉾はペルシャ絨毯じゅうたんを纏っていたな。絨毯か。一時期『魔法の絨毯』という曲が流行っていたような気がするけど、月鉾の犯行で考えられる可能性があるとすれば――矢張り絨毯を使った犯行か。ならば、アタシがこの手で事件を阻止しなければ! そう思ったアタシは、バイクで四条河原町へと向かうことにした。多分、次に事件が起こるとすれば、阪急の京都河原町駅周辺だろう。

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