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 続いて――5作目は『仙台城の殺人』か。この頃から小説家としてのモチベーションが下がりつつあったのは自分でも分かっていた。でも、小説を出さないと食っていけない。絢奈ちゃんはWebデザイナーとの二刀流で食べていけるけど、アタシは職業小説家だ。だから、何でもいいから新刊を出さなきゃいけなかったのだ。――その結果、目に留まったのが伊達政宗だった。多分、ずんだ餅とか牛タンとかが食べたかったんだろうな。流石に仙台までロケハンに行くのはしんどいので、マップサイトとかで土地勘は把握したような気がする。その結果出来上がったのがお粗末な小説だったのは言うまでもない。多分、アタシはこの時点でオワコンだっただろうな。

 原稿用紙は40字×40行で75枚。ギリギリの枚数か。一応アタシの中では50枚が最低ラインで75枚以上を想定している。でも、書けないときは点でダメだ。だから、50枚満たずに物語が完結してしまったことも度々ある。そういう時は、無理やり加筆した上でなんとか50枚以上用意できるようにしている。――ダメな時は何をやってもダメなんだけど。

 そして、アタシは6作目の原稿に手を伸ばした。タイトル自体は『西郷せごどんの殺人』だが、別に西郷隆盛は関係ない。ただ単に大河ドラマで西郷隆盛がチヤホヤされていた時期だったから書いただけだ。一応事件自体は「西郷隆盛の亡霊が起こした」という体を取っているけど、そんなモノ鹿児島県民から怒られてしまう。そして――殺人の手口は矢張り「バラバラ殺人」だった。「魔王」はどんだけアタシの作品を読んでんだよ。流石に呆れる。それはさておき、アタシは7作目の原稿を読むことにした。タイトルは――『黄金神おうごんしんの殺人』。黄金神を訳すると『ゴールデンカムイ』か。アタシ、何やってんだろうな。原作は読んでたしアニメも見てたけど、流石にドン引きしちゃうよ。でも、殺人現場に小樽を選んだのは矢っ張り京極夏彦先生の出身地だってのもあるんだろうな。ちなみに撲殺に使った鈍器は彼の小説ではなく単純に10キログラムの金塊だ。じゃなければ「黄金神」なんてタイトルは付けないだろうし。

 7作目の原稿まで読み終わったところで、アタシはとりあえず飯室刑事に連絡することにした。なんとなく「魔王」の狙いが見えてきたからだ。

「もしもし、飯室刑事ですか。私です。宿南恵令奈です」

「ああ、恵令奈さんですか。事件について何か分かったんですか?」

「今まで『魔王』が起こした殺人事件について調べていたら、ある共通点を見つけたんです」

「共通点? 一体何でしょうか?」

「飯室刑事は私の小説を読んだことがあると存じ上げていましたよね?」

「はい。5作目の『仙台城の殺人』まで文庫で出ていたのでそれを……」

「なら、アタシの話は分かりますよね?」

「もしかして――恵令奈さんは『自分が書いた小説と事件の手口が酷似している』と言いたいんですか!?」

「そうです。今まで7作目である『黄金神の殺人』の原稿まで読んでいたんですけど、矢張り『魔王』の殺人の手口は私が過去に執筆がした事件の手口と全くもって同じでした」

「なるほど……。そうだ、明日、また署の方まで来てくれないでしょうか? 祇園祭の事件のことで少し伝えたいことがありますし」

「分かりました」

 というわけで、アタシはまた京都府警察本部から呼び出しを受けてしまった。アタシ自信が罪を犯した訳じゃないけど、あの取調室の堅苦しい雰囲気って嫌いなのよね。まあ、呼ばれたからには行くしかないのだけれど。

 それから、アタシは8作目の原稿を読んだ。タイトルは――どういう訳か『サッカースタジアム殺人事件』だった。なぜ『スタジアムの殺人』にしなかったんだ。多分、ありきたりなタイトルだったから変えたんだろうな。これもありきたりといえばありきたりだけど。ここで、アタシは等々力とどろき競技場の近くの木で女性の頸を括って殺している。トリックは、川崎フロンティアーレのマスコットである「ミスターフロン」の着ぐるみを着た犯人が、マスコットショーの合間に殺人を犯すという感じだったかな。結構自信作だったんだけど、売れ行きはかんばしくなかった。多分、文庫になったら変わるんだろうけど、『西郷どんの殺人』以降は文庫すら出してもらえなくなった。正直、筆を折りたい気分だ。もっとも、アタシは筆じゃなくてダイナブックで小説を書いてるんだけど。

 しかし、「魔王」による殺人はまだ2つ残っている。アタシは9作目以降の小説を書いてないので、恐らく他の小説からヒントを得て殺人を犯しているのだろう。西宮で人間が燃えたのは多分東野圭吾先生の『探偵ガリレオ』か宮部みゆき先生の『クロスファイア』だろうし、雑司ヶ谷で妊婦が殺害された事件も京極夏彦先生の『姑獲鳥の夏』だと思っている。アタシは関係ない。――関係ないと思いたい。

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