2

【名古屋城の殺人 サウスホテル・エレナ】

 サッカーの試合が見たくて、私は名古屋にやって来た。一応京都に住んでいる以上、私は京都パープルバードのサポーターなのだが、実はこう見えて名古屋グランバルのユンケル選手も好きだ。いつか――京都パープルバードにも来てくれないのだろうか。それはともかく、私は名古屋城へとやって来た。そこでまたしても殺人事件に巻き込まれるとは知らずに。


 次に読んだ『名古屋城の殺人』も大体120枚ぐらいの原稿用紙だっただろうか。流石に2作連続で斬殺にするのも飽きてくるので、思い切って絞殺に切り替えた。それも、絞殺した死体を名古屋城の天守閣てんしゅかくから突き落とすという事をしていた。なぜ大阪城じゃなくて名古屋城だったんだろうと思ったけど、「ひつまぶしが食べたい」というのが理由だったような気がする。もちろん、ロケハンも兼ねて名古屋に行った時にひつまぶしは食べたのだが。――今度は、ロケハンじゃなくて観光で名古屋に行きたいな。京都パープルバードFCと名古屋グランバルの試合も見たいし。そんなコトを考えつつも、矢っ張り「魔王」はアタシの小説を読んで犯行に及んでんじゃないのかって思った。ここまで『道頓堀の殺人』と『鳥取砂丘の殺人』、そして『名古屋城の殺人』の原稿を読んだけど、「魔王」がやっているコトはアタシの小説の手口と全くもって同じだ。一体、アタシに何の恨みがあるっていうのよ。

 第4作の原稿を読む前に、アタシは熱いコーヒーを淹れた。夏は冷たい麦茶の方がいいけど、なんだか麦茶は気分じゃなかった。というか、アタシだってコーヒーぐらいは飲むし。薬缶でお湯を沸かして、サイフォンに豆を入れる。豆に対して特にこだわりは無いけど、スペシャルブレンドよりはモカの方が好きだ。そうこうしているうちにお湯が沸いたので、アタシはコーヒーを淹れることにした。コーヒーを淹れている時の香りに癒やされる。アタシ、相当疲れてたのかな。新作小説には行き詰まってるし、ネタ作りのために祇園祭に行ったら殺人事件に巻き込まれるし、散々だ。でも、「魔王」による一連の事件がアタシの小説の模倣だとしたら、それは許せない。一応著作権料が発生することになるから、アタシの口座宛に振り込んでくれ。

 コーヒーカップに牛乳を入れて、淹れたてのコーヒーを混ぜる。白と黒のコントラストが、渦を巻いている。牛乳が3に対してコーヒーが7。それがアタシの好みだ。ちなみに砂糖は入れない。コーヒーを飲むと、自然とクッキーが欲しくなる。普段は甘いモノなんて食べないのに。とりあえず、森永のムーンライトというクッキーをお皿に移すことにした。アタシにとって、コーヒーに合うクッキーはコイツだ。

 コーヒーで一息ついたので、アタシは4作目の原稿を読み始めた。矢張り、「魔王」はアタシの小説のファンなのか? 題名は『お台場の殺人』だった。


【お台場の殺人 サウスホテル・エレナ】

 お台場。それは東京の中でも随一の観光地である。そして、テレビ局社屋の巨大な球体がランドマークになっている。この前衛的な球体は、社屋が完成した当初話題になっていた記憶がある。道頓堀と鳥取砂丘、そして名古屋城の事件を解決した私は、とうとう全国ネットのテレビ局から番組出演のオファーが来たのだ。それも、お昼のトーク番組である『笑ってもいいヨ!』だ。『笑ってもいいヨ!』の司会であるサングラスをかけたオッサンに出会える事を思うと、私の胸は高鳴っていた。――まさか、そこでも事件に巻き込まれるとは思わずに。


 ――なんだこの書き出し。サングラスをかけたオッサンってまんまタモリじゃん。しかも、アタシが『お台場の殺人事件』を執筆していた時には既に『笑ってもいいヨ!』の元ネタである『笑っていいとも!』は終わっている。なんという時代遅れな原稿なんだ。とはいえ、アタシが東京に対して持ってた幻想を吐き散らしたのがこの小説だと思うと、なんだか滑稽だ。というか、フジテレビの社屋の前でアタシの小説を模した殺人が起きてんのに角川書店は『お台場の殺人』を発禁処分にしないのか。なんだか、モヤるな。それはさておき、アタシは原稿を読み進めた。『お台場の殺人』の原稿は160枚ほどあったかな。結構長編だった記憶がある。多分、初めて東京を舞台にしたから浮足立ってたんだろうな。読み終わった頃には夕方になっていた。一刻も早く「魔王」を捕まえたいけど、ここは飯室刑事の判断待ちかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る