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 案の定、山鉾巡行はその時点で中断――というか、中止になった。当然、事件現場となった長刀鉾には青いビニールシートがかけられて、四条通一体に規制線が張られることになった。矢張り、「魔王」の殺害予告は本当だったのかな。眼鏡をかけたセンター分けのイケメンな刑事さんが、アタシに話しかける。なんか、若い頃の玉山鉄二たまやまてつじに似てるような気がした。というか、今の子って玉山鉄二とか分かるのかな。戦隊ヒーローから火が点いてなぜかお母さん経由でブレイクしたとかそんな感じの俳優だったような気がする。もちろん、アタシも好きな俳優さんの一人なんだけど。

「あの、少しよろしいでしょうか?」

「刑事さんですか? それなら話を聞いてもいいですけど……」

「この殺害予告状は本物なんですか?」

「はい、そうですけど……」

「どこで拾ったかとか、分かりますか?」

「善く覚えてます。郭巨山でちまきを買った時に貰った紙の中に混ざってたんです。なんというか、私に対して意図的に渡したとか――そんな気がしました。予告状に書かれた『魔王』は全国各地で事件を起こしていて、祇園さんも殺人事件を起こす場所として狙われたといったところでしょうか。ほら、最近『魔王』による犯行声明が相次いでいますし……」

「なるほど。参考になりました。ところで、あなたの名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「良いですよ。私の名前は宿南恵令奈と言います。刑事さんの方も名前を教えてもらえると嬉しいですね」

「えーっと、僕は――飯室夏彦いいむろなつひこと言います。まあ、言うまでもなく京都府警察捜査一課の刑事ですね。捜査一課なので、殺人事件を主に担当しています」

 刑事さんは飯室夏彦と名乗っていた。多分、信頼しても良さそうな人物なのは見た目からでも分かってた。でも、なんだか刑事さんはガタガタ震えてた。一体どうしたんだろう。

「ところで、刑事さん、なんで震えてるんですか?」

「あー、僕、捜査一課の刑事なんですけど人の血を見るのが苦手で……。ほら、真っ二つになった遺体から血が流れ出ていますし……」

「こんなコト言っちゃうのもどうかと思いますけど、そんなんで善く刑事になれましたね」

「それ、先輩の刑事さんにも度々言われています。それはともかく、恵令奈さんは事件の関係者ということで、一度署の方まで来てもらえないでしょうか?」

「そうですね。多分、私の口から話したほうが早い気がしますし」

 そういうわけで、アタシは京都府警察の本部へと向かうことになった。多分、今まで「魔王」が起こした事件のこととか色々と聞かれるような気がするんだけど、この際全部説明したほうがいい気がする。それにしても、こんな日に殺人事件が起きるなんて刑事さんも災難だと思う。心中お察し申し上げたいレベルだ。丸太町通まるたまちどおりを抜けて京都御所きょうとごしょをちょっと入ったところに京都府警察の本部は存在する。そう言えば、上京区かみぎょうく方面ってあまり行ったことがない気がする。アタシの中での上京区のイメージって、京都御所とKBS京都の社屋があって、あとは同志社大学のキャンパスがある。そんなイメージだった。アタシが住んでんのは東山区ひがしやまくだから、結構距離はある。バスで行くには面倒くさい距離で、だからといってバイクでかっ飛ばすには近すぎる。なんというか――「微妙」な距離だったのだ。でも、これで上京区の方にも行きやすくなるかもしれない。そう思いながら、アタシは京都府警察の本部へと入っていった。

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