　第10の事件は――またしても東京で起きていた。事件現場は雑司ヶ谷（ぞうしがや）。それも、妊婦の肚（はら）が斬り裂かれた上で胎児が撲殺されていた。仮に見立てだとすれば、京極夏彦先生の処女作である『姑獲鳥（うぶめ）の夏』だろうか？　犯罪の手口から事件の舞台まで完全に一致する。しかし、今までの事件で小説の見立てになりそうなモノは――あるのか？　今回の事件がたまたま『姑獲鳥の夏』の見立てであって、10個の事件すべてが小説の見立てとは限らない。

　色々悩んだ末に、アタシは10個の事件の死因と小説をリンクさせることにした。

【第1の事件】

　・事件現場　道頓堀（大阪府）

　・遺体の状態　斬殺

　・考えられる見立て　切り裂きジャック

【第2の事件】

　・事件現場　鳥取砂丘（鳥取県）

　・遺体の状態　斬殺

　・考えられる見立て　デュラハン？（首のない遺体が駱駝の上に乗っていた）

【第3の事件】

　・事件現場　名古屋城（愛知県）

　・遺体の状態　絞殺→溺死

　・考えられる見立て　犬神家の一族

【第4の事件】

　・事件現場　フジテレビ社屋近辺（東京都）

　・遺体の状態　バラバラ

　・考えられる見立て　魍魎（もうりょう）の匣（はこ）

【第5の事件】

　・事件現場　仙台城（宮城県）

　・遺体の状態　斬殺

　・考えられる見立て　独眼竜政宗

【第6の事件】

　・事件現場　桜島（鹿児島）

　・遺体の状態　バラバラ

　・考えられる見立て　不明

【第7の事件】

　・事件現場　小樽（北海道）

　・遺体の状態　撲殺

　・考えられる見立て　京極夏彦（彼の出身地）

【第8の事件】

　・事件現場　等々力競技場（神奈川県）

　・遺体の状態　首吊り

　・考えられる見立て　川崎フロンティアーレ（地元のサッカークラブ）

【第9の事件】

　・事件現場　阪急西宮北口駅前（兵庫県）

　・遺体の状態　焼殺

　・考えられる見立て　探偵ガリレオもしくはクロスファイア

【第10の事件】

　・事件現場　雑司ヶ谷（東京都）

　・遺体の状態　妊婦→斬殺　胎児→撲殺

　・考えられる見立て　姑獲鳥の夏

　――こんなもんか。それにしても、小説のトリックに対する見立てが多いな。「魔王」の目的が分かんないよ。というか、今のところ考えられるのは「『魔王』が複数犯である」というコトかなぁ。アタシ、矢っ張り推理小説家失格かもしれない。これが絢奈ちゃんだったら色々考えた上で小説のネタにするんだろうけど、アタシにそんな能力はない。――ああああっ！　ますます頭が混乱してきた！　とりあえず、この見立てを絢奈ちゃんにメールで送信してやる！

　そういうわけで、アタシは絢奈ちゃんにメールを送信した。時刻は午後11時を過ぎようとしていた。多分、アイツはアタシの推理を鼻で笑ってんだろうな。そういや、今日のニュースを見てないや。祇園祭の殺人のコトも気になるし、アタシはテレビの電源を入れた。当然だけど、トップニュースは祇園祭に対する殺人予告だった。

「今日午後6時頃、京都府京都市で行われている祇園祭に『魔王』と名乗る人物による殺害予告状が送りつけられてきました。予告状には『明日、山鉾巡行で誰かが死ぬ。死ぬのを止めたければ、今すぐ祇園祭を中止しろ』と書かれており、祇園祭の実行委員会では明日の山鉾巡行の開催の有無について協議が行われていました。そして、先程実行委員会から『明日の山鉾巡行は予定通り開催する』とのアナウンスがありました。京都府警では、山鉾巡行での殺人事件を防ぐべく『多数の警官を配備する』としています。続いてのニュースです。将棋の八冠を目指す藤堂六三四（とうどうむさし）名人が――」

　アタシは、そこでテレビの電源を消した。眠かったのだ。まあ、今は明日殺人事件が起こらないコトを祈るしかない。仮に事件が起きてしまったところで――アタシはどうすれば良いんだろうな？　矢っ張り推理するしかない？　このアタシが探偵？　そんな上手い話なんてある訳がないだろう。まあ、いいんだけど。

　京都の夏の夜は、死ぬほど寝苦しい。だから、夢なんて見るわけがない。有名な喜劇に『真夏の夜の夢』という作品があるけど、本当は真夏の夜に夢なんて見ないんじゃないかと思ってる。一応、寝るにあたってエアコンのタイマーはセットしてあるんだけど、どうせエアコンのタイマーが切れたところで目が覚めるのがオチだ。そう思いながら、アタシはベッドの中に入った。

　――当然、どんな夢を見たかは覚えてない。