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 第6の事件は鹿児島で起きていた。手口は――矢張りバラバラ殺人か。桜島の漁村の近くに人知れず男性のバラバラ死体が置かれていたらしい。それも、魚とかを入れる箱の中に入っていたらしい。怖すぎる。第6の事件が鹿児島だとすれば、矢張り第7の事件は福岡か熊本辺りだろうか? そう思っていたら、事件は意外な場所に辿り着いた。――それは、北海道、それも札幌さっぽろではなく小樽おたるだったのだ。なぜ、「魔王」は殺害現場に札幌ではなく小樽を選んだのだろうか? アタシはそれが不思議だった。それに、手口も他の「魔王」の犯行と比べてやや荒っぽさが目立つような気がした。――それは、撲殺だ。凶器として使われたのは、金属バットだった。名古屋で起こった事件を除いて斬殺が多かったのに、どうして「魔王」は急に撲殺を選んだのだろうか? まあ、起こってしまったモノを考えても仕方はないのだけれど。

 第8の事件は、神奈川県というか、川崎で起こった。陸上競技場の近くの木に、女性の首吊り死体が吊るされていたのだ。ここでアタシは第3の事件をもう一回細かく調べることにした。なぜなら、死因が溺死だったからだ。もしかしたら、溺死の前に何かしらのアクションがあったのではないのか? そう思ったからだ。アタシは、検索サイトで「名古屋 魔王」と検索した。すると、地元の新聞社と思しきニュースサイトが引っ掛かった。


 【名古屋城で女性の溺死体が発見 中日新聞】

  6月12日、名古屋城のお堀の近くで「女性が浮かんでいる」という通報があった

  愛知県警の調査によると、女性は首を絞められた状態で死亡していた

  名古屋城では「魔王」と名乗る謎の人物からの脅迫文が届いていた

 「魔王」は、最近全国で殺害予告を出しているとして指名手配されていた


 ――これだ。名古屋城の遺体は矢張り絞殺だったのだ。それにしても、「魔王」はランダムに手口を変えているような気がする。何か、理由があるのだろうか? それは第9の事件を調べてみないと分からない。

 第9の事件は、西宮で起きていた。男性の死体が、阪急西宮北口駅の近くに放置されていたのだ。どういう訳か――死因は焼殺しょうさつだった。この事件に関しては、目撃情報も多数寄せられている。もしかしたら、絢奈ちゃんも知ってるかもしれない。アタシは、とりあえず絢奈ちゃんにビデオチャットで連絡することにした。

「もしもし? 絢奈ちゃん?」

「恵令奈、急にどうしたんだよ。僕は西宮で起きた事件をモデルにして小説を書いているところだ」

「それって、もしかして先日の焼殺事件?」

「どうして恵令奈がそれを知っているんだ」

「ちょっと訳ありでね」

「訳ありか。――そういえば、あの事件は『魔王』が犯行声明を出していたな。もしかして、恵令奈はその事件を調べているのか? あの事件は僕が先に小説を書こうと思っていたんだ」

「あー、やっぱそうだよね。アンタなら真っ先に飛びつくと思ってたよ」

「でも、その様子だと恵令奈は別に小説を書こうと思って調べている訳じゃなさそうだな。詳しく教えてくれないか?」

「いいよー。アタシね、祇園祭で『魔王』の脅迫文を拾っちゃったの。ほら、今日は宵宮じゃん」

「確かに、今日は前祭さきまつりの宵宮だな。僕も取材で行きたかったが、あの時期の京都は去年でりた」

「そうね。アンタはそういうところ苦手だもんね。それでさ、アタシは脅迫文を拾っちゃった以上事件に迫らざるを得なくなったのよね。今のところ、第9の事件まで調べたんだけどさ」

「それで、僕に連絡してきたのか」

「そうそう。そういうところ」

「まあ、残念だけど僕もまだ真相まで辿り着けてない。恵令奈の力になれなくて申し訳ないとは思っている」

「いいのよ。アンタが元気そうで」

「僕のことが心配なのか」

「そりゃ、同業者である以上心配はするよ」

「まあな。ミステリ研究会の入会希望者第1号だったからな。それはともかく、僕も忙しいんだ。また、何か分かったらこっちから連絡する」

「あいよ。じゃあね」

 そういって、絢奈ちゃんはビデオチャットを退室した。――ミステリ研究会か。懐かしいな。アタシは絢奈ちゃんが「そういう人間」である事をよく知っていたから、彼女に対して優しく接していた。だから、ミステリ研究会も第1号の入会希望者になった。ちなみに入会希望の時に使った小説は清涼院流水せいりょういんりゅうすい先生と横溝正史大先生だったな。今から思うと結構イカれた人選だ。――横溝正史大先生なぁ。アタシは、あの大先生のようになれるのだろうか? 親の影響で金田一耕助シリーズはほぼ全部読んだけど、矢っ張り『犬神家の一族』が一番面白かったと思う。アタシはアレで「見立て」というトリックを知った。――見立て? 今まで「魔王」が行っていたのは、見立てなのか!? だとすれば、急いで第10の事件を調べなければ!

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