Phase 02 「魔王」が来たりて笛を吹く?

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「魔王」が起こして犠牲者が出ている10個の事件のうち、第1の事件は大阪の道頓堀どうとんぼりで起きていた。最近、道頓堀にあるグリコの看板の下は「グリ下」と呼ばれる浮浪児ふろうじたちがたむろしているらしい。アタシの知ってる難波のコトを考えると、「グリ下」の子供たちに対して何かしてやりたい。けれども、アタシに何かできるかと言えば、そうでもない。これは難しい問題だ。事件発生は6月上旬だったか。「魔王」は「グリ下」の子供たちを虐殺したらしい。ナイフで、子供たちのくびを斬っていったのだ。――許せない。

 第2の事件は鳥取で起こった。突然鳥取まで飛んでどういうことなんだろうかと思ったら、鳥取砂丘で頸のない男性の遺体が見つかったらしい。また、首なし死体か。手口が道頓堀で起こった事件と似ていたことから、鳥取県警では大阪で発生した事件と同一犯の手口であるとして捜査を進めているとニュースに書いてあった。でも、なぜ鳥取砂丘なんだろうか? そういえば、鳥取に住んでる友人がいたな。少し話を聞いてみるか。

「もしもし? 亜梨沙ちゃん?」

「あら? 恵令奈ちゃんじゃない。急にどうしたの?」

 相澤亜梨沙あいざわありさ。ソイツは小中高と同級生だった。絢奈ちゃんは小中だけだけど、亜梨沙ちゃんとはおよそ12年間を同じ釜の飯を食って育ったと言っても過言じゃない。今は鳥取で何かの研究をしていると聞いていた。アタシはゴリゴリの文系だから理系のコトなんて解んないんだけど、どうやら理系の研究をしているらしい。

「あのさ、突然で申し訳ないんだけど、『魔王』って知ってる?」

「ああ、『魔王』ねぇ。鳥取で起こった殺人事件の犯人がそう名乗ってるらしいんだけど、私にも詳しいことは分からないのよね。でも、どうして『魔王』のことについて調べてんの?」

「いや……なんとなく」

「その様子だと、京都で犯行声明が出たようね」

「ああ、バレたか」

「そんなもんだと思ってたよ。まあ、とにかく私から言えることはない。お引取り願うわ」

「そうだよなぁ……」

 結局、亜梨沙との電話はそれで終わってしまった。そこで得られる情報は、何も無かった。

 続いて第3の事件を調べると、名古屋で起きていた。どうやら、名古屋城のお堀で女性の溺死体できしたいが発見されたらしい。ちなみに頸は繋がっていた。しかし、ここでも出てきたのは「魔王」という存在だった。名古屋で魔王といえば、まるっきり織田信長のことかもしれない。しかし、「魔王」の本当の目的は何なんだ? アタシはサッパリ分からない。

 第4の事件は、東京で起きていた。とうとう東京まで行ってしまったか……。お台場のフジテレビの近くで、バラバラになった女性の遺体が見つかっている。――そういえば、フジテレビの近くで見つかったという関係なのか、大きなニュースになっていた事を思い出した。たぶん、動画サイトにアーカイブが残っているはずだ。アタシは、事件発生日のアーカイブを見ることにした。


  フジテレビの社屋の近くで女性の遺体を発見

  容疑者は不明


 ビンゴ。この頃からアングラ系サイトとかで「魔王」の存在が注目されるようになっていたこともついでに思い出した。「魔王」を名乗る偽者というか、模倣犯コピーキャットが多数検挙されていたな。ただでさえ残忍なやり口の犯罪が相次いでんのに、誰が本物で誰が偽者か分からないじゃないか。これが小説なら大作の入り口だけど、実際に起こってしまうと「次に狙われるのはアタシかもしれない」となってしまう。――正直、やめてほしいな。

 第5の事件は仙台か。よりによって仙台城にある伊達政宗だてまさむね騎馬像の上に頸が置かれていたらしい。地元のヒーローを穢すなんて、「魔王」は一体何がやりたいんだ! アタシは、ますます「魔王」が許せなくなった。

 色々調べても疲れるだけなので、アタシは一旦休憩することにした。ちなみに今は午後8時ちょっと過ぎだ。こんな日にデリバリーサイトを使うのも気が引けるので、近所のラーメン屋さんへと向かった。ちなみに、誰もが知るラーメンチェーン店の本店があるのはこの京都だ。にんにくをマシマシにしたこってり味のラーメンを口にして、アタシはとりあえずエネルギーを補給した。小説を書く上で何が必要かって言われたら、矢っ張り糖分が多い。でも。アタシはあまり甘いモノを好まない。むしろ、辛いモノの方が好きだ。それから、コンビニでエナジードリンクを買って、アパートへと戻った。流石にシャワーを浴びないと不快なので、アタシは裸になった。

 シャワーを浴び終わったら、午後9時半だった。――よし、第6の事件から調べ直すか。

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