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「なるほど。こういう文章が入っていたのか。誰かの悪戯だといいが……」

「そうなんですよね。多分、誰かの悪戯であることを信じるしかありません。それで、明日の山鉾巡行はどうするんですか?」

「今のところ、予定通り実施する。仮令誰かが死んだとしても、それは単なる偶然だろう」

「偶然だと良いんですけどね……」

 結局のところ、明日の山鉾巡行は予定通り実施することになった。しかし、アタシは「魔王」の正体が引っ掛かって仕方ない。アパートに帰ったアタシは、Do As Infinityのアルバムの中でも随一の名盤として知られる『DEEP FOREST』をBGMにして、ダイナブックで色々調べることにした。

 どうやら、「魔王」は各地で神出鬼没らしく、先日もビクトリア神戸とコンサドール札幌の試合でノエビアスタジアム神戸が爆破されるとの脅迫があったらしい。この件について地元に詳しい絢奈ちゃんへ聞いたところ、「試合は無観客で行われた。ノエビアスタジアムは爆破されていない」とのことだった。――それにしても、神出鬼没の魔王か。なんだか、大変な事になっちゃったな。疫病が明けてから、なんか物騒だよね? まあ、ハロウィンの日にアメコミの悪役ヴィランのコスプレをして電車で火災を起こすよりはマシだろうけど。それに、魔王は本当に殺人を犯すのだろうか? 正直、半信半疑だったのも事実だ。アタシが知ってる魔王は、ロールプレイングゲームに出てくるようないかにもって感じの悪役だけど、魔王って言葉の語源って多分織田信長が名乗ってた「第六天魔王」だと思うよのね。――第六天魔王か。そういえば、織田信長は本能寺で燃やされて死んだんだっけ。そして、本能寺があるのはここ、京都だ。確か、四条通から少し入った油小路通あぶらのこうじどおりだったな。まあ、今は関係があるとは思えないけど。関係があったとすれば――偶然でしかない。そういえば、実行委員会は「誰かが死んだとしてもそれは偶然」と言っていたな。そもそもの話、殺人事件なんてあってはならないんだ。ああ、困ったな。絢奈ちゃんの力を借りたいぐらいだ。アイツは何かと殺人事件に巻き込まれて、それを自分の力で解決してるって言ってたな。小説家が探偵になるっていうのはよくある話なのか。アタシが知る限りだと横溝正史よこみぞせいし大先生が生み出した金田一耕助きんだいちこうすけさんしか知らないや。まあ、彼の場合は小説家というよりジャーナリストらしいけど。ふと京極夏彦きょうごくなつひこ先生が生み出した関口巽せきぐちたつみという人物も思い出そうとしたけど、彼は探偵じゃなくてワトソンっぽいしなぁ。こんなコトを考えても仕方はないので、アタシは引き続き「魔王」の存在について調べることにした。

「魔王」が起こした事件、あるいは未遂に終わった事件はこの1ヶ月で山のようにあった。北は北海道、南は鹿児島まで「魔王」が関わっていた犯罪は多岐に渡っていた。もちろん、神戸で未遂に終わった「ノエビアスタジアム神戸爆破事件」や明日起こるであろう「山鉾巡行の殺人」も「魔王」による犯行である。そして、アタシは「魔王」が関わっていた犯罪をGoogleマップ上にマッピングしていった。当然、「魔王」が1人とは限らない。複数人で構成されているという可能性もある。未遂に終わった事件を除外すると、「魔王」が関わっていた事件は10個にも及んでいた。しかし、いずれもまだ犯人は捕まっていない。これは、アタシがこの手で「魔王」を捕まえるしかないのか。でも、今のままだと証拠が少なすぎる。何としても、山鉾巡行で「魔王」が殺人を犯すことを阻止しなければ。――そのためには、10個の事件をもっとディグっていくしかないのか。やってやろうじゃないか。


 ――アタシは、第1の事件から順番に調べた。

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