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 既に、八坂神社はすごい人でごった返していた。普段は静かな場所なのに、この時期は祇園祭のついでに参拝する人が多いのだ。近所に住んでいる以上、参拝しない訳には行かないので、アタシは八坂神社へと参拝することにした。


 ――小説家として売れますように。


 そう祈ったところで何かが変わる訳じゃないし、所詮は気休め程度でしかないのだけれど、矢張り「ないよりはマシ」なのかもしれない。

 人でごった返す参道をくぐり抜けて、アタシは四条大橋の方へと向かう。それにしても人が多いな。「日本人は祭り好き」とは言うけれども、いくら何でも多くないか? まあ、今年は外国人観光客も多いから余計とそう感じるのだろうけど。そして、京都のメインストリートで、多数の山鉾が並んでいる四条通へとやってきた。ちょっと前に韓国で発生した事故の影響か、警備隊がいつも以上に多いような気がする。それから、アタシは順路に沿って山鉾を見ることにした。

 山鉾は、長刀鉾なぎなたぼこを先頭として30種類もある。全部を見ることは大変だけれど、とりあえず長刀鉾と月鉾つきぼこぐらいは見てやりたい。そう思いながらアタシは四条大橋を歩いていった。ああ、人が多すぎる。絢奈ちゃんが見たら気絶しそうだな。アイツ、コミュ障で人間嫌いだし。そうこうしているうちに、烏丸の方まで歩いてしまった。月鉾は、見えてこない。このまま大宮まで行くか。それとも引き返すか。――せっかくだし、全部見てやる。

 色々な山鉾を見ている中で、カマキリがこっちを見つめている事に気付いた。これは――蟷螂山とうろうやまか。「カマキリ」を漢字で書くと「蟷螂」になる。名前通り、カマキリを模した山鉾であり、それはからくり仕掛けで動いている。室町時代のテクノロジーで動いている事を考えると、すごい代物だ。それから、アタシはちまきを買うことにした。今のアタシに必要なちまきは――太子山たいしやまだろうか? それとも、郭巨山かっきょやまだろうか? 悩んでも仕方がないので、どっちも買うことにした。

 郭巨山のちまき売り場で、威勢のいい子供が声をかけている。郭巨山のちまきは「金運」のご利益があるので、結構人気が高い。それだけ、今の日本は貧乏とも言えるのだろうか。アタシも売れない小説家だから、余計とそう感じるのかな。まあ、買うに越したことはない。子供にお金を渡して、アタシは郭巨山のちまきを手に入れた。――これで、絢奈ちゃんと肩を並べる売れっ子小説家になれたらいいんだけど。

 そういえば、ちまきと一緒に貰った紙の中に、見慣れない文字があったな。


 明日 山鉾巡行で誰かが死ぬ

 死ぬのを止めたければ、今すぐ祇園祭を中止しろ 魔王


 ――これは、脅迫文!? でも、どうしてアタシに手渡したのだろうか? それが分からない。このままだと、山鉾巡行の時に誰かが死んでしまう! アタシは、急いで四条通へと戻って祇園祭の実行委員会の元へ向かうことにした。

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