第10話 天草視点

結局翌日の放課後もいつもと同じように屋上でイライラしながら寝ていると珍しく他の生徒がきた。

茶髪でいかにもチャラそうな男が誰かを待ってるようだ。

イラついているときに限ってこういうことが続く。

いつも通り部活終わりの彼女が屋上に来たのはそれから1時間後のことだった。


「和也どうしたの!?」


「おせーよ」


和也と言われた男は新海の知り合いだった

先ほどまでのイラつきが途端に不安へ変わった。


「お前のせいで、モンニャン一人クリアーしちゃったよ。」


「えー!!待っててよ。いやそうじゃなくて、なんで屋上にいるの?」


「待たないよ、遅いお前が悪い。そういや、これあげるよ。」


男は新海の質問に答える気は一切ないようだ。

鞄から新海に一通の手紙を渡した。


「また?いらないってなんどもいってるでしょ…。大体なんで和也から渡すのよ。」


手紙を開封し中身に目を通しながら新海はぼやいた。


「まぁまぁ。そいつ、かっこ良いやつだよ。」


「和也、私がそういうの興味がないって知ってて言ってるよね?

いいかげんおせっかいやめてよ。」


「サッカー部で面白い奴だよ。

仕方ないだろう、幼馴染だからって頼まれるんだよ。写真もあるぞ、ほら」


『幼馴染なのか。』

仲がいいからもしかしてと焦ったが少し安心した。


「あー、モテそうだね。それで何で私なの?他にもいっぱいいるじゃん?」


「さぁ。」


「ふぅん。もったいないね。」


新海は興味無さそうに髪をいじった。

新海のことだからあのときと同じように自分を知らないくせにとでもおもっているのだろう。


「じゃぁ、どんなやつが良いんだよ。」


「秘密」


その問いに新海は天草がいるほうを向いた。

天草は見ていたのがばれたかと思い、慌てて背中を向けた。


(何故このタイミングでこっちをみるんだ。

もしかして…あり得ない話だ。)


天草は誤解しそうになった思考を無理矢理消去した。


「なぁ、もしかして好きなやつでもいんの?」


「和也こそ、特定の相手見つけないの?」


「俺はお前しか興味がないから良いの。」


幼馴染の男がさりげなく告白したことに天草は驚いた。他人なら知らないくせにと拒絶するだろうが幼馴染ならどうなのだろうか。

冷や汗が背中をつたい新海の返事をまつが、

新海はそのセリフを聞きなれているようで軽く受け流した。


「またそれ?私をおもちゃにするのいい加減やめてくれる?」


ショックを受けるわけでもなく本当に冗談だったかのように和也と言われた男はニコニコと微笑んだ。


「まぁ恋したら教えろよな。幼なじみだろ。仕方ないから応援してやるよ。」


「関係ないでしょ。大体なんで屋上集合だったわけ?」


「だって最近お前よく来てるじゃん。」


「なんで知ってるの。」


「俺にはお見通しなんですー」


「あっそ。でももう来ないでよね。

他の女子に見られたらなに言われるか…。私は平和に過ごしたいんだから。」


新海に好きな相手がいることは知っていた。

それはもしかして自分ではないかとさえ、天草は最近思っていた。

屋上の度々くるのがその証拠だと思っていたのだ。

だが新海が素でいられる存在は自分だけじゃないのだということに気付いてしまった。


新海と近づくことで自分は少しずつでも前に進めそうな気がしていた。

時間を潰すだけのつまらない日々が変わりそうな気さえしていた。

だが結局は新海が来るかもしれない屋上でただ時間を費やすのでは、昨日の男が言うように前に進めないのだと改めて天草は実感した。


その日から天草は屋上へは行かなくなった。

そして数日後、天草はテニス部へ入部を決めた。

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