第4話 新海視点
天草が毎日のように放課後に屋上にいっているのを見て、部活が早く終わったある日新海は屋上に行ってみた。
(そんなに屋上が魅力的なのかなぁ?一人が好きだとか?)
いるかな?と、ドキドキしながら軋むドアを回した。
なれたせいか前回あれだけ重く感じた扉は思ったより重くなt帯らにく、反動で勢いよく空いてしまった。
音を立てて開いてしまった扉に慌て周囲を確認するが屋上には誰もいなかった。
期待するような偶然なんてあるわけもない。
夕日で赤みがかった屋上は、ただ静けさだけがある空間だった。
静音は手すりにもたれかかりフェンス越しに見える夕日を眺め、ポケットから取り出した手鏡で前髪を確認しいじった。
ふと、覗いていた鏡に予想もしなかった動きがありビクリと肩を震わせる。
先ほどだれもいないと確認したのにちょうど真後ろ、鏡にうつした背景に天草の姿がうつっていた。
驚いた静音は手鏡をうっかり屋上から落としそうになった。
「セーフ…」
手鏡についていた飾りのうさ耳をかろうじてつかみ、鏡を覗き込んだ。
(もう夕方なのに天草くんまだ屋上にいたんだ)
最近気づいたのだが、新海は天草がいるというだけで不思議と安心できた。
外見は確かにクラスメイトがいうように怖い、だが新海にとっては何故か安心する存在なのだ。
それは秘密を守ってくれているからと言うわけではなく、説明できないのだが教室で天草の姿をみるだけでホッとする。
あれだけ大きな音で扉が開いたのに起き上がる気配のない天草。
新海はカバンに手鏡をしまい、かわりに本を取り出した。
フェンスに背中をつけると遠目には天草が見える。
小さな幸せを感じながら腰を下ろし本の表紙を開き、そして唇にしおりをあて微笑み本に目を落とした。
『夏空に、きみと見た夢』
一番好きな小説だが恋愛なんて興味がないと言い張っている手前、教室では一切開けない書籍だった。
何度も読んでいる小説だというのに天草がいるこの場所で読むと最初に読んだときと同じようにドキドキする。
きっとこの本は大人になってもその感情を思い出させてくれるだろう。
そんな遥か未来を予想して新海は笑った。
その日から屋上通いは始まった。
本を読んだり、寝転んだり、時折本心をこぼしたり…
楽しい高校生活のためにも本音は絶対に隠さなければと思っていた新海は、この学校内で唯一屋上だけが気楽に本音を話す場所になった。
授業の事、クラスの事、友達の事、部活の事…新海の悩みは尽きなかった。
それを話す屋上には離れたところに決まって寝ている天草が見える。
勝手なことだが独り言の愚痴が天草に聞いてもらえている気がしていた。
自分の本心を隠している新海にとって、誰かに聞いてもらえるということはとても幸せなことだった。
当の本人は寝ているのだがそれでも十分。
何故か屋上では自由でいられた。
(いったい、天草というのはどういう人なんだろう?
何が好きで、どういう子がタイプなんだろう?
天草を知れば知るほどもっと天草について知りたくなる。)
「あぁ・・・もうどんな人が好きなのよ」
いつもの癖で本人のいるというのに声にだしてしまった。
癖というものは本当に恐ろしいものだ。
とくに独り言をいう癖ほど厄介なものはない。
恐る恐る後ろを振り向くが、天草はまだ寝ていた。
「分かってたけどね。」
大きなため息をついた。
聞いて欲しかったような聞かれたくなかったような、なんとも言えない気持ちだった。
別に天草がなんとも思っていないことは分かってるから期待するのもおかしな話だと新海は分かっていた。
物語みたいに偶然聞かれちゃった言葉に対して
「だれが好きなんだ!?」
だなんてちょっと言われてみたかったりしただけなのだ。
それで「勝手でしょ?」なんて言い返して
「教えろよ」って言われたらこの上ない幸せなわけで、恋が始まる切っ掛けにもなるわけで、
そんな淡い妄想をしながら新海はそっと天草を見るが同じ場所で同じ格好で寝ていて妄想はすぐに終わる。
「切ない」
その一言が微かに残った夕日に消えていく。
そして見ているだけの幸せで切ない日々が続いていく。
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