第1プロローグ 第3話: Harma y LIly

アルマとの出来事からちょうど1週間が経つ。

Xデーが遂に今夜だ。

相変わらず俺は眠れてないので、コンディションいまいち。

だがあと少しの辛抱だ。あと少しで…。

俺は用意した背嚢はいのうに3日分の干し肉と水分、野営用のテントや炭素繊維CFCケーブル、念の為に刃渡り15cmのナイフを入れる…(使い時がない事を祈ってる)。


トントンッ!部屋の扉がなった。


「おいラージャ、準備はできたか??」


「まぁ、ボチボチだ」


アルマはしては珍しく声量を抑えている。


「そうか、今夜は新月。最も暗くなる日だ。警備の目もあるからな、今日を逃せば次は2ヶ月後だ」


「あぁわかってる。必ず今日成功させる」


「あぁ、そのイキだ。じゃぁ、AM2時に北の崖の柵の前に集合な」


「おぅ」


アルマなりの励ましだろうか、それとも緊張してるから仲間を探しに来たのか分からないが、どちらにせよあのアホ面を見て俺も少し緊張がほぐれた。


俺の一族は——

親父は村長である。そのため一般村民とは違って大きな家に住んでいる。

俺は13歳のとき些細なことで親父と喧嘩になり、一人で暮らすと言い出して家を飛び出して村の空き家に住み着いた。と言っても、両親が住む建物と俺の部屋は歩いて10分ほどだ。自立と言えるかは分からないけど…。

まぁ今は、俺が家を出たにも関わらず、何も言わず支えてくれる親に感謝しているがな。


さて俺はパンパンに詰まった背嚢をキツく縛り、扉の横に置く。

今日は御役目を終えてから準備したもんで、割りと疲れていた。

前もって用意はしたのだが、不足がないか気になり何度も確認をしてしまう。いっそのこと直前まで準備せず、前夜に準備しようと考え実行に移したのだ。


(はぁ、神経質すぎるのも考えものだな)


俺は水浴びをしベッドに横になる。当然、眠気が襲ってきたので少し目を閉じる。

入眠にそう時間はかからなかった。そして、いつもの夢を見る。



――俺は白と黒の世界にいた。

目の前には、またあの人物がいた。壁にもたれ掛かるように座っている。

黒い液体で汚れた腹部を片手で抑え、もう片方の手で俺を掴もうとしている。

俺はその人物に近寄るとその人物は俺の胸ぐらを掴み弱々しく揺すった。

そして消え入りそうな声で俺の名前を呼ぶ。


「ラージャ…、何でだ…。どうしてなんだ…。ラージャ…」――



「ラージャ、ラージャ!おい、起きろよ!!」


ランプの明かりが眩しく薄目で俺を呼ぶ人物を確認した。

…アルマ?


「おうおう、やっと目が覚めたかよお姫様」


俺はまた両手を見つめて涙を流していた。

次にアルマの顔を見て今こそが現実であると実感し安堵する。

理由はわからないが、最近夢の内容や人物の顔が鮮明に写ってる。

そして、覚醒後も覚えていられることが多くなった。


だがそれも今日までだ。


「悪い。もしかして、俺遅刻したのか??」


まさか、北の崖で待ってたアルマが痺れをきらして俺を迎えに来たのか?

俺は急いで時計を確認する。


「いやぁ、時間はまだ30分以上ある。だがな、その…実は言っておかないといけないことがあってだな…」


「……その」


「なんだハッキリしろ。何があった」


アルマが気まずそうに顔を搔き、視線を斜め右上に向ける。

するとアルマの背後から小さな人影が飛び出した。


「ふーん、あなたが欲求不満のラージャ・ハミード?言われてみれば確かに欲求不満そうな顔してるね」


背の小さな銀髪の少女が姿を現したのだった。

少女はアルマや俺のように褐色の肌をしていた。

小さな顔のラインに対してスッと通った鼻、目は大きく、瞳は深海のように碧く澄んでいた。美しい銀髪は肩より少し長くハーフアップで整えられており、前髪は眉より少し下で切り揃えられていた。

そして、何故だか汚いものをみるような目で俺を見ている。


「…おいクソゴリラ。コレは何だ」


「欲求不満ごときにコレ呼ばわりされたくないね」


少女は腕を組んでフン!と鼻を鳴らしそっぽを向いた。美しい銀髪がサラサラっとなびく。


「コイツはジジィんとこの側仕えの孫なんだよ。…おい、リリー自己紹介だ。」


状況がいまいち掴めない俺を無視して少女は不服そうに、自己紹介をする。

何故か既に嫌われているという謎を残して。


「フン!私はリリー・サライクム12歳。ちなみにアルマ様の許嫁なんだからね!変な目で見ないでよ、欲求不満のラージャ・ハミード


リリーと名乗る少女は、「さん」のところで俺にしか見えない角度から、バカにするように、威嚇をするように、変顔をした。するとそれに気が付いたアルマはリリーの額をやさしくペチッと叩いた。


「いて」


「おい、リリー余計なこと言うなよ」


決して痛くはなかっただろうがリリーは大げさに両手で額を押さえる。心なしか涙目になっていた。

そんなやり取りを横目にアルマに質問した。


「納得のいく説明はあるんだろうなクソゴリラ」


俺はジト目でアルマを睨む。

アルマは何処か気まずそうに、俺の機嫌を損なわないように言葉を選んで話し始めた。


「あ、あぁ。実はな、先週俺がジジィの日記を盗むのをコイツに見られてたんだよ。その後の俺たちのやり取りとか全部見られてたみたいで…。そんで、面白そうだから付いて行きたいって言われて今に至るってわけだ」


なるほど。アルマの警戒不足が招いた結果と言う事か。だが、いつものアルマならうまくかわせそうなものだが…。


「そんなもんクソガキのケツでも蹴っ飛ばして、縛っておけばいいじゃねぇか」


アルマの後ろで額を押さえながらしゃがみこんでいたリリーがアルマの背後から飛び出して、俺との話に割って入ってきた。


「キモ。ケツとか縛るとか、やっぱり私の事そんな目で見てたんだね。キモ」


んのクソガキ!!コイツは紛れもねぇクソガキだ!!

アルマの間抜けさは今に始まった事じゃないけど、クソガキは別だ。

いちいち突っかかってくる辺りが絶妙に腹が立つ。

それに、まるで俺がロリコンみたいに言いやがって!!


全身の血が頭に登り、フツフツとはらわたが煮えくり返る音が聞こえた。


「てめぇ、人が大人しくしてりゃ付け上がりやがって…!!」


「キモい人にキモいって言って何が悪いの?あぁ、それと。もし、私とアルマ様のナイトデートを邪魔しようものなら、村中のみんなに日記の事とか明日からサボって禁足区域に行く事とか、「」私を縛り上げて変なイタズラしたって言いふらすから」


背筋に電気が走った後に頭に登っていた血がサーっと引いた。

今度こそ本当に死んでしまう。社会的に。

多分、村からの追放処分だけじゃ済まない。最長老のゲンコツを喰らいまくったあとに裸で吊るされて村を追い出されるところまでは見えてる。


「お、おい。俺だけを強調するんじゃねぇよ馬鹿ガキ!!」


「へぇ、そんな態度取るんだね」


「わりぃ…。俺も色々説得はしてみたんだけど、ずっとこんな調子なんだ。けどリリーも一緒に連れて行ったら、皆んなには黙っててくれるって言うし…。言われたことはしっかりと守らせるから…。だから、頼む。俺も、まだ社会的に死にたくないので…、連れて行かせてください」


アルマは深々と頭を下げた。

きっと苦渋の決断だったのだろう。


(これは…)


世の中にはどうにも出来ない事象があるとラージャは身をもって理解した。


(クソ!!)


「はぁ、わかった…。けどいいか、クソガキ。お前のせいで計画が頓挫したときは覚えてろよ。失う物がない男たちの本気を見せてやるからな」


「ふん!私はあなたほどマヌケじゃないから大丈夫」


クソォォ!!コイツといるとどーも調子が狂う。

まぁ、もうどうにでもなればいい。

前途多難ではあるがこの三人で決行する事になったってだけ。

記憶の悪魔に会いに行くその事実には違いない。

臨機応変、臨機応変、臨機応変…。

俺は少しでもストレスを軽減するために自身の額にてを当て深く息を吸った。


「はぁ…。まぁ、いいや。お前ら荷物は準備できてるんだろうな」


「おう」


「当り前じゃない」


「よし、少し早いけど出発だ。それとクソガキ、くれぐれも静かにな」


リリーはべーと舌を出しアルマの後ろに隠れ外に出る。


(これだからガキは嫌いなんだ。)


俺は背嚢を背負い、外套がいとうを羽織る。

部屋のランプの明かりを消し、持ち出した。

外には荷物を装備し外套を羽織った二人が今か今かと待っていた。

俺はフードを深くかぶり3人でアイコンタクトを取ると、俺が先頭で走り出した。すぐ後ろにはクソガキ、さらにその後ろにはアルマの順に一直線になって村の中を駆け抜ける。

村は対して決して広くないが、警備当番が巡回しているポイントが3つある。そこで見つかればアウトだ。


村は大きく4つの区画に分かれている。西には居住区エリア、南には畑エリア、北には禁足エリアの崖、東には湖エリアとなっている。


北の崖は居住区のすぐ上に位置する。

しかし、高低差が激しく、崖が不可侵区域であるという事で道は整備されていない。よって居住区から直通では行くことが出来ず、湖の方から遠回りをしないと行くことができない。湖も高台になっており居住区や畑に水を引いている。

俺たちは最初の目的地は湖だ。

順路は簡単。南下してから、畑の水路を辿れば湖へと行きつくことができる。






俺たちは警備に見つからない様、居住区を抜け畑の水路を辿って丘を登っていく。


「ふぅ…よし、ここまでくれば追手がいても追いつく事はできないだろ」


俺は背嚢にカラビナで固定したランプを取り火をつけた。振り向いて二人を照らすと、汗だくで「ぜぇはぁ」と息を切らせていた。


「なんだ情けねぇ」


「ぜぇ…いやまさか、ぶっ通しで走り続けるとは思わないじゃん!はぁはぁ…てっきり隠密みたいに隠れ隠れしながら進むと思うじゃん!はぁはぁ…てか、筋肉重いんだよ」


「ちょっと…はぁ…、あなた自己中すぎ。はぁはぁ…。はぁ…周りの事も気に掛けなよ。これだから…、欲求不満は…困るんだよね」



「フン。あんまりグズグズしてると崖にすら辿り着かないぞ」


少し飛ばしすぎたか…。

しかし、この調子では予定しているよりも時間がかかってしまいそうだ。


その後も俺たちは休んでは走るを繰り返した。

湖に沿って走り、北の崖に続く坂道に差し掛かると背の高い杉や松の大樹が生い茂る森に入った。

もともと新月で辺り一面暗闇。見えてるものは手元のランプと空の星だけという状況だった。しかし森に入ると空が木々で覆われていき、終いには闇がより一層深くなり手元のランプがなければ進むこともかなわない。


「おい、お前たち。大丈夫か?」


「おう。…にしても、暗すぎやしねえか?足元も木の根っこが張り巡らされていて歩き辛ぇし、坂になってる分いつも以上に疲れちまったぜ…」


ランプで照らせるのは1-2m程度でギリギリ二人の顔が見えるかどうかという明るさだ。


「そりゃあな。今通ってるこの道だって獣道だし、整備すらされてない手付かずの森だからな」


するとワンテンポ遅れてリリーが口を開いた。


「ちょっと…。はぁはぁ…。休ませてよ…」


近くに手頃な木があったのでその根元で休息を取ることにした。

俺はさっきの仕返しでリリーに意地悪を言う。


「そんなに辛いなら一人戻ってもいいんだぜ。別に着いて来いなんて頼んだ覚えはねぇからな。」


「………チッ!!」


リリーは俺の方を横目で見ると眉間にシワを寄せて舌打ちした。


「んのクソガキ!!ここに置いてってやろうか!!ああん?」


アルマが困った顔で、俺とリリーの間に割って入った。そしてアルマは俺たちを諭すように話を続けた。


「まぁまぁ、二人とも一歩大人になってくれよ。もうここまで来ちゃえばリリーも共犯なんだよ。誰かがしくじれば、皆に被害が出るんだよ。運命共同体ってやつなんだ。もう少し互いの気持ちに寄り添ってくれ」


「でもよぅ…」


アルマは俺の方をジト目で見る。


「ラージャ」


「……」


次にアルマはジト目でリリーの方を向く。


「わ、私は悪くないですよ、アルマ様ぁ」


「リリー」


「むー!!」


リリーは不服なようだ。頬を膨らませて俺を睨む。

癪に障るが確かにアルマの言う通りだ。

リリーが深夜である今頃家に帰ったとなれば不審に思われる。そこから尋問されて俺たちの名前を出して、そして…。

あぁ、考えるのはやめておこう。利害の一致というか、己の身を守るためにもここは俺が一歩大人になってやろう。


「…はぁ、わかった。リリー、俺が大人げなかったな。すまない。これからは俺たちは仲間だ。今更になっちまうが、仲よくしよう」


「……うん。私も態度悪くてごめん…」


俺が差し出した手をリリーは握り返し仲直りの握手をする。

それを見かねたアルマは俺とリリーの頭をポンポンと優しくたたく。


「うんうん!いいねぇ二人とも。これで正真正銘、仲間だな」


「はぁい、アルマしゃまぁ」


「やめろ!気持ち悪い。ええい、休憩はもうお終いだ。先を急ぐぞ」


俺はアルマの手を振りほどくと、装備を整え一人歩き出す。横目でちらっと見ると、二人も慌てて装備を整え急ぎ足でついて来る。


10分ほど坂道を走って登ると、木々の隙間から空が斑に見えるようになってきた。

そこからまた10分ほど走ったところで急に視界が開け、道がなくなり深い谷が現れた。

…そして正面には見上げるほどの高さの巨大な壁がそびえ立っていた。

その大きさ故に俺たちは自然に立ち止まって、自分たちがこれからしようとしている事の重大さをようやく理解した。



☺︎




ここまで読んでくださりありがとうございます。

次回もお楽しみに!


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