第1プロローグ 第2話: La Legenda del DIBLO
5つ目の本質と一体…。聞いた通りに近づいちゃいけないという事ではないのか?
「ああ!!もったいぶってないで早く言えよ」
痺れを切らせた俺を横目にアルマはニヤッとしてから続けた。
「まぁ、これを見てみろよ」
アルマはボロボロの何かを取り出して見せてくれた。
それはゴミのようにも見えたがどうやら本らしい。
「これな、ジジィの日記。多分俺らくらいの頃に書いたやつだ。…ほら、ここ」
そこにはこのように綴ってあった。
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今日こそ私は北の崖に行こうと決心した。崖を滑り落ちていったヤギはきっとまだ生きている。下から鳴き声が聞こえている。
しかし、あまり長い間放っておけば死んでしまう。私は長いロープと、念のために弁当を担いで崖まで来た。崖を見たが底まで見えず、まるで闇が口を開いて獲物を待っているかのように感じた。ロープを木に縛り恐る恐る崖を降りて行った。
どのくらい降りただろうか…。かなり深く潜った。底に着いた頃には辺りは冷え込み日の光も当たらなくなっていた。
私は何かの音を聞きつけ近寄るとそこには、3日前に落ちていったヤギのベルを見つけた。私はベルを腰に巻き壁に向かって歩き出した。
暫く歩いたのち、壁の近くで私はヤギの鳴き声を聞いた。一目散に走って近寄ると、なんとヤギは壁に刺さっているではないか。頭から前足くらいまで壁に埋まっていた。よく見ると壁には亀裂が入っており、穴が開いているではないか。ヤギはその穴に挟まって動けないでいたのだ。
私は何とかヤギを引っこ抜いて村に連れて帰った。この事は大人達に知られてはいけない事だ…。
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そこで日記のページが破損してしまっている
「本当に穴が空いてるのか…」
壁に穴などあってはいけない。壁としての機能を果たしてないではないか。
「そこじゃない。隣のページだよ!」
アルマは見開きになってる日記の右のページを指さした。そこには次の日のことが書いてあった。
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私は穴の存在が気になった。そして、昨日のあることを思い出し、疑念を抱いた。大人達が寝静まった深夜に出ることにした。いけない事とはわかっている。だが装備整えて再度向かうことにした。荷物は昨日と同じ物に加えて、父の大槌を背負った。
長い道のりを経て穴の前にやってきた私は大槌を構えて穴に向かって振りかぶった。すると亀裂が少し開き、入り口が広がった。私は穴に身を乗り出して、疑念が確信に変わった。壁の厚さは私の足で229歩、約62mあった。妙な事に壁の穴は外側に向かって大きくなっていた。つまり、誰かが外から壁に穴を開けようとしていたという事だ。私は自分のしていることが怖くなった。辺り一面暗く、月と星だけが私を照らす。そんな時私は外界に浮かぶ小さな光を目にした。
外界は辺り一面草原のようだった。未知の世界である外界。何が起こってもおかしくはない。だが、私は好奇心に打ち勝てなかった。私は走った。力の限り走った。背負っていた道具を全て投げ捨て、好奇心の赴くままに。小さな光が消えてしまう前に何としても辿り着きたかった。
どのくらい経ったかは定かではない。だが、辺りはすっかり明るくなっていた。私は遺跡のような廃墟にたどり着いた。おそらく大昔の城か何かだろう。ここから明かりが発せられていたのは確かであった。廃墟を散策していると、地下へ続く階段を見つけた。
私はもう死んだ者、今更村帰ろうとなど思っていない。だが、この胸の高鳴りを止める方法は好奇心を満たす事だけ。私は階段を下った。
階段を降りるとそこは、恐ろしく暗く巨大な空間だった。私は部屋の中央に向かって歩き出した。すると部屋の最奥より、目のように二つ赤い光が現れた。その目の位置は私よりも更に30cm程高い所から私を見下ろしていた。するとその光から低く唸るような声を聞いた。
「我は記憶の悪魔なり。汝、何を欲すか。」私は高揚していた。死を覚悟した人間は肝が座るようだ。私は悪魔に「知恵」と答えた。「では、代わりに何を支差し出す。」と悪魔は続けた。だが私は代償に何も出せるものがないため、悪魔に尋ねた。何を差し出せば良いかと。悪魔は「汝の知恵に見合う物は、汝の記憶。我に記憶を差し出せば、汝が生涯手にするであろう知恵を今与えよう。」私は承諾した。
すると、目のような二つの光が私に近づいたと思ったら暗闇から突如、獣のような巨大な鉤爪の付いた手が現れ私は頭を鷲掴みされたのだ。私は目の前が真っ白になり、意識を失った。気がつくと私は私の…。
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またしても、その先はページが破損していて読めなくなっている。
「つまりだ、村の掟の5つ目はジジィが定めた物だったんだ」
「いやこの流れで、そうはならんだろ」
アルマの言いたい事はわかる。だから何がしたいのだというのが俺の言い分だ。
「前に俺、ジジィに聞いたことがあるんだ。村の掟について。そしたらあいつ、長々とご先祖達の話をした後で得意げに、『最後の一つは私が最長老になった時に定めたんだ。』って自慢してきたんだよ。つまり、ジジィは自分が壁の外に出た事実や悪魔とのやりとり、そもそもの壁に開いた穴の存在を隠すために5つ目の掟を造ったんだと俺は思うだよ」
なるほど、話が見えてきていた。つまり日記を書いた張本人がこの掟を追加したのは、穴の存在を認知しているからこそ。
「それにだ。コロニーの壁は俺たちハミード村を含めた国民全員を守るための物だろ?コロニーが出来て150年が経とうとしているんだぜ?壁は劣化する。それなのにコロニーは何故かそれを見過ごしてる。ここ50年で修繕は愚か、政府関係者の点検にすら来ていないだろ?つまり、あの穴はまだ開いたままって可能性が高いってことよ。」
アルマの話は確かにその通りだ。村に外部の人間が来ることは基本無い。来たら来たで村中大騒ぎになる。もちろん来訪者の記録にも残る。だが、移住希望者以外にそんな人が来たなんて話は聞いたことがない。
「よう。ラージャは会ってみたくないか?記憶の悪魔…」
「そんな都合よく、いるもんなのかよ…」
「正直わからねぇ。でも、毎日お前の絶望した顔を見なくて済むのなら、俺は掛けてみてもいい気がするんだ。まぁ、お前次第だけどな…」
「…。」
俺は不安だった。
生まれたころから一度だって村の外に出たことないのに、初めての外出がコロニーの外だ。何が起きるかわからない。先の事が見えない不安と恐怖は確かにあった。
——だけど同時にこの悪夢を終わらせられる「かもしれない」という期待もそこにあった。
それにクソゴリラを始めとする村のみんなに心配をかけたくないというのも事実としてある。
俺は葛藤した。
好奇心の助力もあり、俺の気持ちは行きたい方に傾いてるが、クソゴリラを巻き込むリスクを考えると勢いで物事は決められない…。
「お前の考えそうなことはわかってる。けれども、俺も行くんだぜ!記憶だか性欲だか知らないけど悪魔の野郎には力ずくでも言うことを聞いてもらうつもりだぜ。」
「アルマお前…。やっぱりゴリラじゃねえかよ…」
アルマの言葉は嬉しかった。だが照れ臭くもあったので思わず茶化した。
「まぁ正直、今回ばっかりは俺もビビってる。子供の頃にやった様な森の冒険とはまるで違うからな…。でも多分これ以外に悪夢を無くす方法はないと思うんだよなぁ」
「…っ。わかった、行こう」
俺は行くことを決意した。
しかしもう一つ大事なことが残ってる。
俺はベッドから出てアルマの前まで行くと、なぜかアルマも立ち上がり互いに向かい合う。
俺は照れ臭さを隠すため、顔を搔きながら口を開いた。
「その…なんだ、アルマ。頼む、俺を助けて下さい!!」
そしてアルマに頭を下げた。
「なんだよ改まって。きめぇなぁ。…まぁ、お前は俺の弟みたいなもんだ。生まれたころから一緒だ。お前が望むのなら兄ちゃんは、悪魔狩りにでも夜中のトイレにでもついて行くぞぉ~」
「………。…どうしてお前は…。はぁ…。いや、もういいや」
もう、怒りを通り越した呆れだ。いちいち反応してたらこっちの精神がもたない。…実際ありがたいし、心強いが、このノリだけはもう勘弁して欲しい。
「…けどアルマ。行くったって、御役目もあるしどうやって出ていくつもりだ?」
御役目とは日々の労働の事だ。
ハミード村は自給自足の農村であり、それぞれの村人にはそれぞれの役割がある。
俺が農夫見習いであるように、アルマは牧者見習いだ。
村人は掟により健康な限り御役目を果たす義務がある。大抵の子供はその家の家長と同じ職に着くが、俺とアルマの場合は少し違う。
俺の親父ジャール・ハミードは村の長だ。初代ハミード氏から数えて5代目。俺はじきに6代目としてこれを継ぐ。
それまでの仮の職務として農夫見習いをやっているのだ。本格的な村長見習いは成人になった後に始まる。
アルマのハルミド一族はハミード家の分家に当たる一族である。長寿の者が多く代々長老・最長老の役を担っている。よってコイツも仮の職務と言うわけだ。
「そこんところは大丈夫。ジジィと話しはついてるから。来週の頭から3日間休みもらってんだよ」
「クソゴリラにしては用意がいいじゃねえかよ」
「ジジィは流石に手強かったぜ。掟は掟だぁぁってな」
「おまっ、まさか今朝のタンコブ!!」
「おっと。野暮が過ぎるんじゃねえの?」
今朝このバカゴリラに意識を飛ばされる前に見た顔が、タンコブだらけだったことを思い出した。
きっと最長老とバトったんだろう。
最長老はただの老人ではない。
齢94にして身長190cm体重90kg年齢相応のシワやシミはあるが、その肉体は筋肉の塊だ。
彼はいつも「広い額は賢者の証。
ついたあだ名は、「始祖のゴリラ」、「タングステン・フィスト」、「春の悲劇」、(以下敬略)である。
ちなみにどのあだ名で呼んでも「顔が」半分「顔に」埋まる。
アルマは最長老の日記を乱雑に丸めてズボンの後ろポケットにしまい自身のランプに火をつけた。
俺に背を向けたまま手を振って帰っていく。
「んま。そーゆーわけだから、来週までに準備しといてなー」
「わかった。けど、バレたらまずいんじゃないのか?顔がめり込むだけでは済まなそうな気もするが…」
アルマは扉をゆっくり閉め、最後に顔だけ覗かせた。まるでイタズラを画策する子供のような顔で笑って見せた後、不安にさせる捨てゼリフを放った。
「そん時ゃ、そん時だ。じゃーな」
バタン。
果たして俺たちはどうなることやら…。…とりあえず今日はもう寝てしまおう。
今日は…、もう…、…疲れた。
☺︎
ここまで読んでくださりありがとうございました!
また次回も楽しみに!
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