ひと夏の輝き

神永 遙麦

ひと夏の輝き

 今年もホワイトクリスマスは期待できない。


 私の周りには小説やマンガのようなロマンスなんてない。

 両親も弟もいる。お金持ちでも貧乏でもない貧乏よりだけど。近所の人達との交流もない。恋人も友達もいない。趣味も特にない。勉強も嫌い。時間があってもなくても、ダラダラと動画を見てる。

 自分次第で世界は変わるのかもしれない。でも当の私には「気力」というものがない。感情の起伏も薄い。なにごとも「どうでもいい」

 将来やりたいこともない。17歳だってのに。来年には受験生なのに。周りの人達はみんなしっかりしてるのに。なのに焦燥感すらわかない。

 私は人間として欠陥があるのかもしれない。



 でも、ひと夏だけ。ほんのひと夏。今年の夏休み。

 私は恋をした。初めてのバイト先で。大学生の先輩に恋をした。もちろん知ってた。叶うはずなんてないって。

 だって私にはなんにもないから。美人じゃない。人は顔じゃないって言うものの、私には気力すらない。

 相手は今の若者らしい人だった。今どきのイケメンじゃないけど、まあ整った顔立ち。根無し草みたいな人だけど快活な人。

 今、初めて会った時のことを振り返ると、彼と目が会った瞬間、時が止まったみたいだった。彼から目が離せなかった。

 恋ってもっと情熱的なものだと思っていた。四六時中、その人のことを考えてしまうものだと思っていた。その人に触れたくて触れたくて仕方がないものなんだと思ってた。

 でも、あの恋はふわふわしていた。シャボン玉のようにふわふわした恋だった。儚くて、ふっと消えてしまいそうな淡い恋だった。

 四六時中も相手のことを考えなんかしてない。ふとした瞬間に思い出すだけだった。



 どこまでも私らしい、何もなかった恋だった。バイトを辞めた今、彼との接触もなくなった。想いを告げることもなかった。

 でも、あの恋の残り滓は、今も私の中でくすぶっている。その残り滓はロマンスのない17年の人生における唯一の輝きだったから。

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ひと夏の輝き 神永 遙麦 @hosanna_7

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