EP4

******************************


……。


…………。


「きっ、来た来た、来たぁ~……!」

女の子は目をキラキラさせている。

待ち侘びていた幸福の音だった。


   ”ドタドタドタドタ”


―――こら。そんなに慌てたら転ぶよ。


   ”べちゃっ”

女の子は前のめりに盛大に、台所のフローリング突っ伏す。


―――ほら。言わんこっちゃない。


「痛てて。でもやっとお湯が出来た……。

 命のお湯が……!?」


―――そんな大袈裟なものじゃないよ。ただのお湯。


「あっ、アチアチうちに注がなきゃ……。」


 電気ケトルを掴んで、女の子は、カップ麺の元へ急ぐ。

今度倒れたら本当に危ない。細心の注意を払ってリビングに戻る


「あぁ、剥いとけばよかった……。」


 ブーターブッタのカップラーメンはびっしりと包装され密封されていた。


   ”カリカリカリ……、ピリッ、ムシ~~~”


 砂漠で水を得たかの様な慌てぶりで、ムシムシと包装ビニールを剥がしていく。


―――もう。慌てないでね。火傷はしちゃだめだよ。



「フィルム取れた。

 このシールは大事に取っておくぅ……。」


 彼女は底に付いていたシールをおでこに貼った。


―――なんでおでこ?


「いっ、行くぞぅ……。

 うーたんちゃんと見ててね。」


―――もう。いちいち大袈裟なんだよ。気をつけて入れてね。


   "ゴポゴポゴポゴポ"

   "ジュワ〜"


―――この熱湯を乾麺に入れる音、なんとも言えない気持ち良さがあるよね。


   "あち!"


 女の子は古典的に熱湯が触れた指で耳たぶを掴む。


―――ほら!言わんこっちゃない!


「あちちっ……。

 でも……、耳たぶひんやりして気持ちいい……。」


―――はいはい。大事にならなくて良かったですね!


「……ちょっとお湯は少なめ……。

 うぃー。なんとか入れれた。

 後は3分待つだけだ……!!」

目をキラキラさせて言う女の子。


―――タイマー忘れずにね。


   "キリキリ"


 女の子はゼンマイを巻く。

それは彼女が小さい時から大事にしてる置き型の計時機で、ウルトラマンのカラータイマーの形をしている。


 ゼンマイを巻いて時間を入力。

するとカウントが始まり、残り1分になると色が赤くなり、残り10秒となると、"ピコン" "ピコン"と1秒ごとに音が鳴る。

 0秒になると、"デュワッ"と一言声がして時間を知らせる。



   "ボスン"


 ベッドに仰向けで倒れ込む


「3分かぁ……。」


 女の子は呟いた。

そして、枕もとのぬいぐるみを抱き寄せる。


「3分ってさぁ……。

 思ってるよりも長いよねぇ。

 うーたんはさぁ……。

 すごいよぉ。」


―――なんだよ、急に。


「3分の間ずっと強くて怖い怪獣と闘うんだよ。

 時には傷付いて怪我したりしてさ……。

 誰かを助けるためにさぁ……。」


―――それが、使命だったからね。


「僕もさぁ……。

 3分間だけで良いんだぁ……。

 誰かの為になりたいなぁ……。

 必要とされたいんだよぉ。」


―――僕はご主人様の事、とっても必要に思っているよ。


「ふぐぅ……。

 毎日、毎日さぁ〜。

 僕は何してるんだろぅ。」


 女の子は仰向けのまま手で顔を覆い、"エンエン"と咽び泣き始めた。


―――あぁ、また。今日はいつになく感傷的だね。大丈夫だよ。僕がついてるよ。


…………。


……。


******************************

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る