EP3

********************************


……。


…………。


    "プクプク"


 耳をすませば、台所から聞こえる電気ケトルの音。

底から少し気泡が上がって来ているのだろう。


「そうだ……。

 今日のカップラーメン選ばなきゃ。」


 ベッドに突っ伏していた女の子はむくっと立ち上がった。


―――またカップ麺ばっかり……。


   "テクテクテクテク"


「ふっふーん♪

 今日はどれにしようかなぁ。」


 今度はうーたんを置いて1人で台所へ再び向かう。


―――もう。僕の目線の低さからならパンツまる見えだよ。



「うっ、うぃ〜っ……うーん……!おわぁっ!!」

   

   "ガコン"

―――あぁ。その棚、建付け悪いから……。大丈夫?


「うぅ~。毎回こうなる……。」


 女の子は棚の扉を力いっぱい引っ張り後ろにゴロゴロと転がり、ベッドから見える位置まで……。

仰向けのカエルみたいな格好になっている。


「いって、ててて……。

 はぁ……、全くもう……。」

女の子はゆっくり身体を起こし、また先程の棚へ向かう。


「どれにしようかなぁ……。

 今日は優しい甘い味がいいなぁ……。

 コーンがたっぷり入っててー……。

 バターなんかも乗せちゃったりしてさぁ……。」


「あとあと、バター入れるなら塩ラーメンもあり……。

 魚介の旨みがたっぷり入ったやつでさぁ。

 それがバターと絡まったら……。

 はっ!?……そっちにコーン入れるのもありぃー……。」


―――もう。イメージはいいから、早く選びなよ。


   "ジュルッ"


「よだれ出ちゃった……。

 よしこれにするぅー。

 ブータブッタの味噌ラーメン!

 そしてシリーズはブーターブッタだ!

 ……、3D麺がガッチリしてて美味しいんだよねぇ……。何よりいっぱい入ってるぅ!」

女の子は取ったどー!みたいな感じでカップ麺を掲げた。


―――はいはい。じゃあ早くこっち戻っておいで。


   "トタトタトタ"


「ふぃ〜。

 うーたん決まったよぉ。

 今日は味噌ラーメンだぁ……。」

ドヤ顔でほっぺの横にカップ麺を付けて見せびらかす女の子。


―――そのシリーズ美味しいもんね。


「ふんふー♩

 あとはお湯が沸くのを待つだけだ……。」


   "バタバタバタ"


―――ほら、足バタバタして、楽しみを表現してないでさぁ……。お風呂。入ってきなよ。



女の子はぬいぐるみを再び両手で抱きかかえて、耳元で囁く。

「うーたんは何ラーメンが好きなの……?

 醤油?塩?それともトン・コ・ツ?」


―――何その、お風呂にする?ご飯する?それともあ・た・し?みたいなやつ。お風呂だよ。お風呂に入りなよ。


「まだかな♪まだかな~……♪」


   ”ぐ~ぅうう”


「はっ!」


 女の子は恥ずかしそうに顔を赤くして、辺りを見回す。

そして、うーたんを掴んで顔の正面に持ってくる。


「聞いた……?」


―――聞いたよ。お腹の音。それはもう、今日もお仕事頑張って来たご主人様へのファンファーレだよ。


「恥ずかしい……。

 学校とかさ、仕事中とかさ、お腹鳴るの本当に恥ずかしいんだよね……。」

何かトラウマがあるのか顔ちょっと曇り顔で俯く。


「なんかさぁ、お腹鳴るのって、カラータイマーみたいだよね。

 うーたんの胸についてるやつ。

 地球で戦える制限時間……。

 あれって3分間しか戦えないんだよねぇ……。」

 

―――そうだね。カラータイマー。青から、残り時間が少なくなると赤に変わるんだよ。


「あぁ、本当にお腹空いた。

 僕のカラータイマーがもう、ピコン!ピコン!って点滅してるよぉ~……。

 ……命の、光が赤になってる~……、うっ……。」


―――大袈裟だなぁ……。でもそろそろ……。


   "ゴゴゴゴゴ"

―――ほらケトルが騒がしくなって来たよ。


   "カチッ"


「うわっ!!

 お湯が沸いたぞぉ〜……。」


―――お。早く取りに行っといで。


…………。


……。


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