後編:鬼門から邪魔すんで(邪魔すんねやったら帰って。まじで)
いわゆる表鬼門というやつだ。
大陸経由で日本に入ってきた陰陽道的な考え方に由来する。
鬼門というくらいだから、昔の人は、この方角から鬼(災い)が「やぁみんな! おれだ!」って入ってくると信じていた。
現在でも、北東と対角をなす南西(裏鬼門)両方角に水回りを持ってくることを設計段階で嫌厭することがある。何なら、北東の外壁を意図的にスパッと削って外観を整えることもある。
当時、私が住んでいた賃貸物件も北東の外壁がさっくり落とされた変形部屋であった。
さて、スピリチュアル風水現場から引き上げた晩、いつもどおり就寝した深夜。
野比の○太の権化と豪語する寝付きの良さが自慢の私だが、唐突に意識が急浮上する感覚に見舞われた。
物理的に目は閉じているが、頭を東に仰向けのまま部屋の様子を視覚化し始めた瞬間、察した。
(あ——。
普段なら考えるよりも先に左に寝返りを打っているのだが、刹那、右斜め後方(北東方面)からカンカンと何かを激しく打ち鳴らす音が聞こえて気が削がれた。
その致命的な出遅れでタイミングを完全に逃し、意思に反して体は
(
不本意ながら微動だにせず仰向けになっていると、カンカン音が鮮明になると共に、ザッザッと足並み揃った音まで聞こえてきた。
そして、北東の欠けた壁からヌッと出てきた謎物。
どこの部族だよ、と思わずツッコミたくなる蓑姿に、手足には貝殻や管玉、ウッドビーズ的な装飾の
両手にそれぞれ原始的な装飾を施した木製の盾と研磨した石軸の矛を持ち、ガチャガチャ音を立てている。多分、威嚇のつもりなのだろう。
(誰やねん……夜中にうっさい……)
溜息を吐きたくてもピクリとも身動きできないジレンマ。
有効面積六畳未満の部屋に四人ひしめく圧。
視界に飛び込んできた風貌に、更にツッコミを余儀なくされた。
目ん玉であるべき場所に、水晶玉がハマってる。
顔面に、観光地の顔はめパネルの如く、ドーナツ型にくり抜いたフェルトを嵌めている。
(水晶玉ハマってますけど見えとう !? フェルト、ファッサァなってますけど落ちひん !? )
多分、怖い顔をして睨みつけている(?)が、目ん玉水晶が気になって仕方がない。
地団駄しながらホコタテ音で威嚇している(?)のだが、その動きでファッサファッサ揺れる顔面フェルトで気が散って恐怖心より笑いが込み上げてくる。
しかし、体は微動だにしないので笑いたくても笑えない。
今までに感じたことのない苦しさだが、そろそろ
目ん玉水晶ホコタテ族(仮)の次の一手を仰向けのまま注視していると、三人衆はひとしきりガチャガチャした後、そのままそっと後退りをしながら北東の壁に去っていく。
さながら、熊に対峙した時の退避の仕方だ。
(猛獣扱いすな……)
来た時とは相反して、静かに音もなく去っていく三人衆。
(帰るんかーい! 何しに来たんや!)
普段の金縛りよりもだいぶ気力をごっそり持っていかれた気分だが、状態異常が解除されてドッと疲れたのか、そのまま目覚ましが鳴るまで爆睡してしまった。
翌朝、元気に起床して、ふと昨晩の新奇劇を振り返った時、上司の発した何気ない
「邪気を祓う目的」
(……)
猛獣扱いではなく、邪気扱いだったようだ。解せぬ。
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