前編:スピリチュアル風水

水晶を 部屋の四隅に 設置して 土地の浄化と 人はいふなり



 定期的にブームが訪れる開運風水とスピリチュアル。仕事上、長いお付き合いのある顧客にも熱心に取り組んでおられる方がいる。


 上司の旧知、とある企業のご代表なのだが、新しく土地を購入し、そこに新社屋を建てるにあたって、ありがたくも毎度ご愛顧を賜り、上司に直接内装コーディネートをご依頼いただいた時のことだ。

 基本、内勤バックオフィスである私は関連資料の作成と各方面への案件手配を担当するのだが、最終仕上げの段階で人手が必要になると上司のアシスタントとして現場に入ることもある。


 今回もそんなケースで現場入りした。

 自分が担当した家具備品類が間違いなく納品されているか、傷などの不備はないか確認し、組立家具ノックダウン類は適宜現場で組み立て設置していく。

 設置後は、簡易ながら現場清掃も仕事の一つだ。とにかく現場は体力勝負なのである。


 清掃中、室内の隅に奇妙なものが転がっていた。

 直径五ミリ程度の丸い小さな水晶が中央に埋め込まれた、ピップエレキバンみたいなもの。

 接着面が表を向いていて、裏返すと直径二センチ程度の淡いベージュ色をしたドーナツ型のフェルトだった。

 掃除機で吸わないように拾い上げること、三つ目。

 拾った順と場所を覚えておいて、最後の四隅付近で配線の微調整をしていた上司に回収した謎物を見せて報告すると、平然と言われた。


「ああ、それ先方さんの用意したやつだ、空間浄化用のやつ。元に戻しといて、場所覚えてる?」


「はい、大丈夫です。戻しときます。接着面が上向いてたんですけど、元は壁に付いてたんでしょうか?」


「あー、多分。剥がれて落ちたんだろうね」

「分かりました。踏まないように壁に貼っときますね」


 第六感が鋭いという先方、元の土地によろしくないナニカがあるそうで、邪気を祓う目的らしい。

 自社ビルやマイホームに、スピリチュアル傾向の強い風水的なこだわりを持つ施主は存外に多い。逐一ツッコむより穏便に受け流すに限る。

 というわけで、回収場所の各壁をチェックし、該当箇所の痕跡を探し出して元に戻しておく。


 現場は無事に引き上げたが、その晩、数年ぶりの金縛り(回避失敗)とツッコミが追いつかない怪奇に見舞われることになった……。(後編へ続く)

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