ちょっとタメになるホラー(金縛り編)
誰しも、結構な確率で経験があるであろう金縛り。
寝てると突然意識が浮上し、一方で体の自由が効かないアレ。
人によっては幻覚や幻聴、胸を圧迫するような息苦しさを感じることもある。
実はこれ、医学的には「睡眠麻痺」という歴とした症例として報告されている誰もが見舞われる症状の一つである。
発症するケースは様々だが、過労やストレスの蓄積、成長期や更年期などのホルモンバランスの比較的大きな変動が密接に関わっているという。
一説には十代、二十代で経験する人が多いだけでなく、働き盛り世代でも実に四〇パーセントの人が経験しているという統計があるらしい。
で、金縛りの具体的なメカニズムをサクッと掻い摘むと、頭と体の睡眠リズムが狂うことで発症する。
人間の体は寝入りは半覚醒状態のレム睡眠から始まり、深い眠り(ノンレム睡眠)へと移行するというサイクルを一定間隔で繰り返すのだが、このリズムが崩れた瞬間に睡眠麻痺——金縛りが起こる。
頭が
体が深く眠っているため、脳からの神経伝達がうまく機能せず、あたかも体が動かないと脳が錯覚している状態、それが金縛りの根本らしい。
息苦しいと感じるのは、体のノンレム化に合わせて呼吸もゆっくりと浅くなっているのを、半覚醒中の脳が正しく認識していない故であるそうだ。
脳が軽いパニック状態に陥っているため、例えば幽霊が見えるといった幻覚を併発することも割と多いんだとか。
金縛り中の体感は長いが、実際のところ、麻痺の持続時間はせいぜい四十秒程度と言われている。
放っておいても状態異常は解除されるが、麻痺に陥る前に体を半強制的に
十代の頃から定期的に見舞われてきた、金縛り経験豊富な私の感覚を、あえて文章化してみる。
睡眠リズムが狂う経過を例えるなら、「寝ている自分の上に投網を投げられるような」感覚だ。
実態の無いキメ細かい重しのついた網が、自分の斜め上方から綺麗な放物線を描いて広がりながら、ばさりと落ちてくる——そんなイメージがもっとも近い。
そして、目は物理的に閉じているのに、まるで開眼しているかの如く錯覚し、視覚的に室内の様子を平時のように脳内再生している。
そこにオーバーラップするように何もない空間から投網が降ってきて、全身にまとわりつく。
この投網に捕らわれる前なら、まだ辛うじて体の自由が効くので、その僅かのタイムラグで寝返りを打つ。
そのまま、おそらく数秒はノンレム状態との拮抗が続くが、程なく呼吸も楽になって状態異常が解除される。そんな感覚だ。
もっとも、回避に失敗することもある。
そんな時は、半覚醒中の脳内で「あかぁ——ん!」と、リトル宮川大輔が声を上げるが、残念ながら既に喉も口もぴくりとも動かない。
そのまま、諦めて投網にかかる。
(
そのまま状態異常が自然解除されるのを、ただ待つしかない。
長いようで短い時間だが、そこそこ気力をゴッソリ持っていかれる。
とりあえず、頻繁に金縛りに見舞われて気が滅入っているという人は、お祓いを検討するよりも先に睡眠外来を受診することをオススメする。
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